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短歌と感想ほかまとめ

#詠み読み のこと

1月、2名の方と「#詠み読み」で遊びました。
この記事は、わたしがつくった連作等について、かんたんにまとめたものです。

ちなみに「#詠み読み」については、遊佐さんが下記の記事でわかりやすくまとめてくださってます。ご興味のある方はぜひ!
note.com



1) はじめに

はじまりは、遊佐さん・昨さんとスペースで話していたときに出てきた話題でした。
特にアイドル短歌を詠む方には少なからず心当たりがあるかと思うのですが……、自分が詠んだのではない自担、読みたくないですか?
もちろん自分が詠むのも楽しいですし、だからこそアイドル短歌を詠み続けているのですが、自分ではない人の視点で見た自担でしか得られない栄養(?)もある、と思っています。
でも、普段その人を詠んでいない人に詠んでもらうの、難しいかな……? 参考資料があればどうだろう? お互いの自担を詠み合うとか、できるかも?
……というかんじでお話は進み、最終的に、遊佐さん・昨さんおふたりに、わたしの自担を詠んでいただけることになりました! めちゃくちゃ贅沢! ありがたい!(代わりに、わたしもおふたりの自担についてそれぞれ詠む)
という訳で、下記はおふたりと #詠み読み した記録になります。
ただ、これはわたしたちが今回やったらこうなったよ、というものなので、こうしなければならない、ということはまったくありません。いろんな方のいろんな #詠み読み があればあるだけ楽しいな、と思っています。


2) 遊佐さんと #詠み読み

・ルール

 制作期間 … 設定なし
 首  数 … 設定なし

・遊佐さんの #詠み読み

自担 … 末澤 誠也さん(Aぇ! group)
資料 … Aぇ! group「PRIDE」
   (関西ジャニーズJr. LIVE 2021-2022 THE BEGINNING~狼煙~)
youtu.be

・しまの #詠み読みしてみた


・しまの #詠み読み

自担 … 深澤 辰哉さん(Snow Man
資料 … Snow Man「Boogie Woogie Baby」
   (Summer Paradise 2019 at TOKYO DOME CITY HALL)
   ※特に3:23~
www.youtube.com

・遊佐さんの #詠み読みしてみた



3)昨さんと #詠み読み

・ルール

 制作期間 … 設定なし
 首数   … 設定なし

・昨さんの #詠み読み

自担 … 正門 良規さん(Aぇ! group)
資料 …
①関西ジャニーズJr. "Kansai Johnnys’ Jr. LIVE 2021-2022 THE BEGINNING~NOROSHI~" Highlight Video
※特に8:42~ メンバーシャッフル「復活LOVE」
www.youtube.com

②【関西ジャニーズJr. LIVE 2021-2022 THE BEGINNING~狼煙~】ダイジェスト映像
※特に2:22~
www.youtube.com

・しまの #詠み読みしてみた


・しまの #詠み読み

自担 … 深澤 辰哉さん(Snow Man
資料 …
Snow Man「Boogie Woogie Baby」
(Summer Paradise 2019 at TOKYO DOME CITY HALL)
※特に42:45~
www.youtube.com

Snow Man【クリアなるか?】色んな靴でボトルキャップチャレンジ!
※特に6:30~
www.youtube.com

・昨さんの #詠み読みしてみた



4)まとめ

今回は、それぞれ違う自担を持っている方との #詠み読み でしたが、同じ自担でも楽しくできると思います。
また、普段からやり取りがある方以外にも、この機会に…!と声を掛けて、一緒に取り組むのも楽しいのではないでしょうか。
わたしもまだまだ #詠み読み したいなあと思っています。

ご感想などあればぜひお題箱まで。
odaibako.net

短文のこと

短歌からイメージして短文を書く、という試みを、X(旧Twitter)でやってみました。
元はというと、昨さんとのいちごつみにある2首からお話を思いついて書いてみたこと(下記01)がきっかけです。
詳細は省きますが、わたしは元々お話を書いている人間なので、こうした短文を書くこと自体、比較的慣れています。短歌を鑑賞する・感想を書くのとはまた別の方法で、短歌にふれあえるのが面白く、いろいろな方の短歌を元に短文を書いてみたいと考えました。
毎度のことながら、TLの皆さんはわたしが急にごそごそ何かやり始めても、基本的にあたたかく受け入れてくださるので、感謝しかありません……。本当にいつもありがとうございます。
以下、わたしが書いた短文をすべてまとめています。また、イメージの元になっている皆さんの短歌についても引用させていただきました。
※もし何か問題などございましたら個別にご連絡いただければ幸いです



01 昨さん



同期の結婚報告を聞くのは今年に入ってもう数回目で、もうそろそろご祝儀今度も同じだけ包むのかって考えて億劫になるのを悪いだなんて思えなくなった。
当たり前みたいにうわあって思う。少し声にも出す。生活は生活。社会性は社会性。
一応まだ我を忘れてはいないので、会社の人の前ではそんなのおくびにも出さないけど。
わたしの中にもしネジがあったとしたら、多分そのうち何本かは元からなかったし、かろうじてまあまあ機能していた分だって、今はもうほとんど錆びてしまってるんだろうな、なんて思う。
取り留めのない妄想。今やんなくてもいい仕事、返さなくたって死にやしないメール、片付けなくたって誰も困んない分厚い資料。定時までの暇つぶし。
違うか。
暇つぶし、してるのは、定時までじゃなくって。
やっすいチェーンの居酒屋でだらだら飲んで彼氏ほしいでも付き合いたくないそういう身分がほしいとか言ってる間がいちばん楽しかった。
わかるわかる、ってケラケラ笑ってくれてたの、あれは流石に本気だったって思ってもいい?

今さっきうだつの上がんない君が『確変です』って一抜けていた/昨さん
ゴールするときは一緒の約束でさっきまでなら好きだったのに/しま


02 鷹野しずかさん




余計なことはひとつも言わなかったし、最後までちゃんとご機嫌だった。見送りができる本当にぎりぎりのところまで一緒に行けたし、あの子がいろんなひとの背に隠れて見えなくなるまで手を振っていられた。
あの子といるときのわたしがわたしのなかだと多分いちばんくらいに好き。
他の行き先がどこの搭乗口からか、なんてひとつも覚えられないのに、あの子が使うところだけはしっかり分かってる。到着ロビーのどの位置にいたら向こうから見つけやすいかも、ちゃんと。到着、ロビーは、またしばらく来ないけど。でもわたしにとっては大事な情報だ。忘れたくない。忘れるはずもない。
空港にあるエスカレーターは何度乗っても目的の階には着かないような気がして、急いでいるときにはそれが恐ろしくてたまらないけど、なるだけ長く留まっていたい場合にはうってつけだと思う。エスカレーターを上ったり下ったり、だだっ広いフロアを行ったり来たり。
そのうちあるお菓子屋さんの売り場が目に留まった。ああこれ、あまくておいしいんだよな。何もここで買わなくたっていいんだけど。多分デパートにもあるし、でもあそこいつ行っても鬼のように混んでるんだ。となるとここで買うのがいいのか。
とか言ったって食べるのはどうせ自分だし、いちばんにあげたい子ってもういない。これ買って持たせればよかったな。今度のときはそうしよう、なんて、会う前から別れるときのことを考えるの、本当はそんなに好きじゃない。
それなのに、頭のなかは今考えなくたっていいことでいっぱいで、ずっと言葉が、感情が、かたちにならないまま、ぐるぐる渦を巻いている。まっすぐ帰ればいいのにしばらく空港のなかをうろうろしているのだって、結局は。
またね、って、わたしは言うけどあの子は言ったり言わなかったりで、ばいばい、のときもあれば、じゃあね、のときもある。あんまりそのあたり、こだわってないんだと思う。
ぜんぜん大したことじゃないのはわかってる。気にするようなことじゃないって。会いたいひとには会いたいって言えばいいし、実際に会いに行けばいい。
別れ際には必ずまたねって言うことをおまじないみたいにしなくたって、自分の足で時間でお金で会いに行けるって、そうできるように生きてるんだって、わたしはちゃんと知っている。
それでもやっぱりあの子と別れるときにはまたねって言うんだ。今日だって、この後何度あるのかわからないけど、この先だってきっとそう。またね。また。

見送りを上手に済ませばかでかい空港に慰められている/鷹野しずかさん
note.com


03 独活部さん




今から外出れる、って、せめてもうちょい前に言ってよと思う。家に帰ってきて制服から部屋着に着替えて、今のわたしはもうだるだるの格好だ。
古ぼけた団地の、これまた古ぼけた公園までは、歩いて数十秒。幼馴染は先に着いていて、いつもするようにブランコを漕いでいた。わたしはブランコには乗らず、ブランコの手前にある柵に軽く寄りかかる。
相手が何も言わないから、わたしも何も言わない。この子がこうやっていきなりわたしを呼び出して、そのくせ何も言わないでただ黙っているときは大抵、ものすごく怒っているときだ。怒っている、けど、言葉を探せないでいるとき。自分でも自分の感情のやり場を見失って、どうにもならないとき。
それで、多分、これはこの子に直接聞いたんでもないからわたしの当てずっぽうなんだけど。
「泣いてないよ」
「……うん」
「怒っては……いたけど。でもこっちから振ったし」
「ん、」
「最後に一発お見舞いもしといたし」
「うん」
「だから、へーき、なんだよ」
この子がこんな風にめちゃくちゃに怒ってくれるのは、大体がわたしのため、なんだ。
いつのまにかブランコは止まっていて、幼馴染はわたしのすぐそばに立っていた。くたびれた部屋着のうすっぺらい生地を、幼馴染の細い指先が掴む。
「帰ろっか」
されるがままに従って公園を出た。どこからかあまいような泣きたくなるようなにおいがして、もうそんな時期か、なんて思う。沈丁花
ちょっとだけ前を歩く幼馴染の背中に額をくっつけた。なに、歩きにくいよ、って前から声がする。わざとぶっきらぼうにしようとしてるのが丸わかりの、やさしい声だった。だからわたしも、いいじゃんちょっとくらい、なんて雑に返す。
だって、だってね、まだ春にもなりきらない夜の風はひどく生ぬるくって、ひとりで受けるにはあんまりにも泣きたくなる、から。
幼馴染の着ている服もやっぱり、何年も着古したくたくたの部屋着だった。その、頼りない生地に鼻先をすりつける。沈丁花と、夜の風と、春前の、どうにもならない空気にまぎれて、昔からよく知っている、この子の家のにおいがした。

5秒間だけはハグしてくれるよね春ってそういうところあるよね/独活部さん


04 わらびもちさん




元々少しぼんやりしたところがある子だなとは思っていたけど、この頃の彼女はさらにだった。隣にいても、気づくと月を見上げてぼーっとしている。
声をかけると、一度ぱちん、と瞬いてからこちらを見る。そうして、どうしたの、なんて笑ってみせるのだ。こっちの台詞だよ、とは、思っても言わない。代わりに、その時々でおかしくないような話題を持ち出してみる。課題やった? 夕飯どうする? そろそろ帰る?
所属している写真サークルには明確な活動日がない。空きコマになると、何となく定位置になっている学生食堂の片隅に行って、その時々で集まっている面々と駄弁ったり、たまに学内を散策して写真を撮ったりする。
ほとんど顔も出さないメンバーもいるけれど、彼女は基本的にいつ行ってもそこにいた。自分のカメラもちゃんと持っていて、大学にも毎日持ってきている。
「いつか忘れちゃうかもしれないから」
写真、好きなの、とはじめに尋ねたとき(今思うと何ともぱっとしない質問だ)、彼女はそんな風に言ったのだっけ。彼女の華奢な手で持つと、僕のと同じ機種のカメラも、何だかやけに大きく見えた。
今夜は月がよく見える。学校を出て、駅まで歩く道でも、彼女はじーっと月を見上げて、どこかぼんやりしていた。黙って立っている分にはいいけれど、車も人の通りも多い中では危なっかしいことこの上ない。
「ひかれちゃうよ」
背伸びするようにして月を見上げる、彼女の細い首筋や、うすい頬のあたりに、まぶしいくらいの光が降りそそいでいる。思わず見惚れそうになりながらも、僕は彼女の手首を掴んだ。
ごめんね、と彼女は照れたように微笑んで、視線を月から僕へと向ける。謝ってほしかったわけじゃない。いや、とか、ううん、とか、僕は口の中でもごもご言った。
彼女の細い手首に絡めた指先は、はずしそこねたふりで、そのままにした。
彼女の手を引いて、駅までの道を歩く。もうすぐ学校の最寄駅だ。時間はまだ、そんなに遅くない。
隣を歩く彼女の様子をうかがうと、やっぱり月を見上げてぼんやりしている。思わず、指先に力を入れた。彼女が痛くないように気をつけながら、でも、しっかりと手首を握りしめる。
僕は彼女に話しかける。いつもするように。課題やった? 夕飯どうする? ねえ、
帰んないでよ。

満ちた日にいつも視線を奪われて「帰ってこい」と呼ばれてるかも/わらびもちさん


05 春さん




人間ってややこしい。いやなことがあったら、腹が立ったら、悲しかったら、泣いてしまえばいいのに。涙を流すだけの機能を持っているのだから、それを活用したらいいのに。
それでも、泣きたいときにあえて泣かない、という選択肢をとる人間は少なくない。
赤ん坊や小さな子どもは、泣くことで思いを伝える。単純明快でいいじゃないかとおれなんかは思うけれど、話はそう単純なことではないらしい。
おれの受け持ちのなかには、そういう、泣きたいのに泣かない、という人間が多くいる。理性的といえば聞こえもいいが、見ているこちらからするとじれったいことこの上ない。
もう泣いてしまえよ、と声をかけてやりたくなったことが、今まで何度あったろう。それでも、直接人間に声をかけるのは御法度だ。ごくごくたまに、おれたちの声が聞こえてしまう人間も、いなくもないけど。あれはまあ、特殊なタイプで。
おれたちに出来るのは、受け持ちの人間を見守ること。人間の営みを見届けること。声はかけず、彼らの行く末をその運命に任せること。
そうしてもうひとつ。これは、おまけみたいなものなのだけれど。
棚にしまっておいたじょうろを取ってきて、なみなみと水で満たす。重たくなったそれを手に、おれは受け持ちの区画に向かう。
じょうろを下に傾けた。ざあざあと降りそそぐ雨滴に、うつむいていた彼や彼女の顔が上がる。驚いたような表情から、ああ、雨か、と納得したような顔にかわって、それからゆっくりと、目元や口元がくしゃくしゃに滲んでいく。ほら、これでいい。
泣きたくても泣けないのが人間であり、そうと決めた人間には何も手出しできないのがおれなのだとしたら。泣かないと決めた彼らには、してやれることなど何もないのだとしたら。
それでも、おれはおれなりに、きみらへ祝福を捧げるよ。
だから、なあ。せいぜい派手に濡れてくれ。

泣かないと決めた人らを見守ってときには雨も降らせる仕事/春さん


06 深水遊脚さん



職場には何も仲良しこよしをしに行っているわけじゃない。基本的な挨拶や連絡事項のやり取り、疑問点の確認などが問題なく出来るだけの、必要最低限のコミュニケーション能力と社交性があればそれで十分だ。
そう、思っているのは本当で、だから別に、いいんだ。
自分以外の誰も彼もが親しげに話しているように思えたって、ちょっとした世間話ができる相手が気づいたらいなくなっていて、誰とも話さないで帰ってくるのが当たり前になっていたって、死ぬわけじゃない。
それでもたとえば、給湯室でふっと、誰かと出くわしたときに。お昼休みの休憩室で、電子レンジ待ちの人が自分以外にもいたときに。自分の席に戻ったら、すぐ近くの誰かと誰かが何かを喋っていたときに。
ちょっとした話、を、できたらいいんだろうと思うことがある。もしくは、さらりとその輪に加われるならよかったんだろうって。
でも、何の話ですかなんて聞くには、人への興味も積極性も足りなくて、結局は何とはなしに周りが話すことをただ聞いている。もしくは沈黙をそのままに享受する。ただそこにいるだけだ。大丈夫。
大丈夫、って、思ってる時点であんまりもう、大丈夫じゃないのかもしれないな。
そう思ったときにはもう、いろいろ遅かった。

下巻から読み始めてる小説のように空気をつかめずにいる/深水遊脚さん


07 古迫ねねさん




一軒目で解散すればいいのにそうはしないで、必ずと言っていいほど二軒目にもつれ込む。それも飲み屋じゃなくって深夜営業もしているファミレスに。ファミレスでだってお酒は飲める。
単価が安くてそこそこ美味しいのって正義だよ、なんて何回言い合ったのかわからない。ほぼ毎回言っているような気もする。いっつもへべれけになっているから細かい回数までは曖昧だけど。
この子と飲んでていちばんいいのは、べたべたどろどろしたことを言わないことだ。愚痴は言う。上司や嫌な先輩、手のかかる後輩、訳分かんないことでネチネチ嫌味を飛ばしてくるお局、みんなみんな爆発しちゃえって呪詛も吐く。だけど、そういうこと全部、生ビールのグラスを大きく傾けて、ハイボールをぐうっと飲み干して、細い指先には見合わない大ジョッキをどん! とテーブルに叩きつけるように置いてから、くそったれって明るく言うんだ。
労働は、する。生きていくためには働かなきゃならない。お金は大事だ。欲しいものを買って行きたい場所に行って食べたいものを食べる、そのためにわたしたちは週五勤務を全うする。
とはいえやっぱり凹むことはあるし、自信なんていつまで経っても大して持てないし、頑張ってみたところでろくな評価も受けられないで、もういいやって腐りそうになる方がよっぽど多い。
それでも。
この子の持ってるグラスの、そこにまとわりつく水滴の、夜なのにやたらと明るいファミレスの、なんだか泣きそうなくらいのまぶしさがある限り。
なんかまだもう少し、あともう少しなら、どうにかやってみてもいいかなって、思い直せるんだ。

僕だけの、この永遠がある限り光ばら撒き合う金曜日/古迫ねねさん


08 ぺちかさん



アリーナでもスタンド下段でもなくて、本当に天井席。場所だけでいったらまあ、ぜんぜんよくはない。だけどここにいるのは本当。遠くたって君はあのステージにいて、わたしはずっとそれを、焼きつけるみたいに見つめている。
部屋の中だとあんなにまぶしく思えた君の色なのに、今手元で灯してみたら、急に心細いような気持ちになった。
周りにもたくさん、おんなじ光があるからかな。そのなかのたったひとり、わたしが灯す光なんて、君の目には映らないような気がするからなのかも。
それでもいつか、どこかで。今日じゃなくてもいい。わたしが君のいる場所へ足を運んでいる限り、君の色を振り続けている限り、君が君の、君だけの色の光を目にすることは、きっとある。そう願ってる。
君はずっと明るい場所にいたらいい。いてほしい。そう祈っているの、本当なんだ。
でも、もしかしたら、不意に君が暗闇のなかに入り込んでしまうことが、どちらへ進んだらいいのか分からなくなってしまうことが、あるかもしれなくて。そうしたら、そのときには。
わたしはずっと、君の色をここで振っているから。
どうかその光が、君のところまで届きますように。

暗闇の 道標になりますよう、君の色を振っています。/ぺちかさん


09 むつみさん




わたしが使うとき毎回紙を切らす複合機。絶え間なく代表電話にかかるセールス。昼を買いに出ようとしたらエレベーターで積載量オーバー。
上司の面倒な注文をさばいて、申請方法がわからないとか抜かす人間の相手をして、ようやっと、本当にようやっと金曜日。
平日五日の疲れをたったの二日でとれるはずもないって、何でみんな分からないんだろう。
泥のように眠って起きて、家にあるものを適当に食べて、そうするうち土曜日の夕方になってしまう。勤務時間なんてあんなに一分一秒が長いのに、休みになるとこんなに早く過ぎ去るの、何かのバグじゃないのかな。
見たいものがあるわけでもないけど何となく人の気配を感じていたくてテレビをつける。ちょうど民放にチャンネルが合わさっていた。
今週は何かいいことありましたか、って、不意打ちで聞かれて、何でだろう、その瞬間にぼろぼろ涙が出た。
文句も言わずにコピー用紙を補充して、偉そうな口調の電話にも丁寧に対応して、満員のエレベーターからは何にも気にしてないですって顔して降りて。
上司の言うとおり仕事を完璧にこなしても、何もかも人頼みの人間の相手をしても、誰も褒めてくれない。
それが当たり前だから。わたしだって大人で、社会人で、褒められたいなんていまさらそんなの、まさか言えないし、言っちゃいけないってわかってる。
わかってるけど。
今週は、って、いいことなんて何もないよ。なんにも。がんばったってなんにも。
それでもやっぱり、わたしはコピー用紙を補充するし、代表電話の応対もちゃんとする。やなことがあっても笑ってみせる。面倒な上司や周りの相手もする。
たくさん、たくさんの善意とか努力とか忍耐とか、名前もつかないものたちは日々、生まれてはすぐに死んでいくけど。
そういうものをすべて投げ出したら、きっとわたしはわたしでなくなってしまうって、そんなおそれとも祈りともつかない感情だけで、わたしはまだここに立っている。

今週もがんばりました人知れず名前のないまま死んでいきます/むつみさん


10 偏頭痛さん




頑張り屋さんなのは知っていた。真面目すぎるほど真面目なのも。ちょっとくらい手を抜いても、少しズルをしても、誰も咎めないのに。わたしたちの周りには、そういう大人ばっかりなのに。
金曜日の定時すぎ。あの子の席に寄っていって、おうちに帰ってもう寝る? ちょっとだけビール飲む? って聞いたら、ビール飲む、って即答してくれて、ああよかった、って心底思う。
本当にやばいときはわたしの誘いも断るんだよ、ってずっと言ってるから、うなずいてくれたってことはまだ、少しは平気と思ってよさそう。それでも、本当のところはわからないから(それくらいに頑張り屋さんだしとにかくやさしい子なのだ)、今日は気持ち早めに切り上げるようにしよう。
ふんわりして、人当たりがよくて、やさしい。陰口なんか絶対言わないし、仕事の愚痴を言うときだって、ちゃんと客観的に話そうとする。自分のここは至らないけど、って必ず前置きをして、誰の何のことでもフラットに判断する。
そんな、そんなに、ちゃんとしなくたっていいんだよ、って思う。直接言いもする。そこまで誠実であろうとしたって、正しく過ごそうとしたって、あなたのやさしさを、真面目さを、ただただ食い潰すだけの人間の方が、絶対的に多いんだから。
でもこの子は、そうしないんだ。ずーっとちゃんとしている。頑張り屋さんで、真面目で、正しくて、丁寧で、やさしい。
「おつかれさま!」
「おつかれさま、あの、誘ってくれてありがとうね」
「なに言ってんの、誘うよ! あたりまえ!」
「当たり前なんだ」
「そうだよ!」
この子みたいな強さって、わたしには正直ないし、してあげられることだって、たったのこれっぽっちなんだけど。
でも、あなたがどんより泣きそうな顔をしていることには、なるだけ早く気づきたいって思うし、そんな顔させる場所や人からはとにかく遠ざけてあげたいんだ。
「もうほんと、やなやつみんなタンスの角に小指ぶつけちゃえばいいのに!」
そうしてばかみたいなことばっかり言ってね、なあにそれってあなたがくすくす笑ってくれたらいいなって、本当に思うよ。

やさしいはシフト制だよ 今日きみはちょっといじわるでもいいんだよ/偏頭痛さん


11 あきさん



家からかなり離れたところにそのスタジアムはあって、遠いよねって言いながらも友達と電車に揺られていった。何だか朝から、もしかしたらその前の日から、いや本当はもっともっと前から、はしゃぎ回りたいくらいにうれしくてたまらなかった。
座席は割と上の方で、メインステージは真ん前に見えたけど、直線距離で言ったらそこそこ遠かった。でも、だからって、何だというんだろう。近さ遠さがどうって、そんなの問題じゃなかった。
だって。
だって、あそこに、今、わたしが見ている目の前に、同じ空間に、この場所に、君がいるんだ。
とにかくどきどきして、何度もこれは夢じゃないかって思った。ほんとうだよね、ほんものだよねって、熱に浮かされるみたいに、そばにいる子に繰り返し聞きもした。
テレビ画面の向こうじゃなくて。雑誌に載る、薄っぺらい写真のなかの姿ではなくて。今ここに、あそこに、同じ空気を吸って、君は立っている。
信じられないかもしれないけど、本当に発光して見えたんだ。遠く向こうにいる、豆粒みたいに小さな姿でも。きみの全身がひかりで包まれているみたいだった。

君のいる世界はとても美しいありきたりなんて言わないでくれ/あきさん


12 杏湯さん




ヒールの高い靴を履いてもふらつかなくなったのはいつからだったっけ。カツカツ高い靴音を立てて歩いていけるようになったのは。小綺麗なだけのオフィスカジュアルを、感情を挟まず何気なく着られるようになったのは。
月曜日が来るのを怖がっているなんて、家でぐずぐずに泣いていることなんて、誰にも微塵も想像させずにいられるようになったのは。
ひとりでも、平気だ。大丈夫。ちゃんと歩いていける。足が痛くなったって、絆創膏もきちんと持っているし、それを貼りながら、傷は傷として治しながら、正しく生きていける。
それでも。
行ってきますを言うときに。ただいま、って誰もいない家に帰りついたときに。ぱちん、って、自分で消したり点けたりする室内灯。
その、LEDの明るすぎるくらいの光が目に染みてしょうがないの、これまでだったら気にもならなかったのに。どうして。いつから?
泣きたい、わけじゃないのに、雨の前の日のにおいって、胸に迫ってくるから好きになれない。少しだけ開けていたベランダの窓をからから閉じる。ついでにカーテンも引いて、そうしたら、まぶたの裏にふっと、誰かの影が映る。
ベランダのそばのよく日のあたるところにぺたっと座り込んで、床にそのまま雑誌を置いて読んでいたっけ。目悪くなるよ、ってわたしが声をかけても、もうじゅうぶん悪いもん、とかって言うだけで、ぜんぜんちゃんと取り合わなくて。
ちょっとだけ丸まったきみの背中を見ているのが好きだった。おんなじ柔軟剤のにおいのスウェットを着て、寝癖もそのまんまにしてたっけ。平日はそれでもまあまあちゃんとするのに、休みの日はてんでだめだった。
どうせふたりだからいいじゃんか、なんてきみが笑ってた。あれ、もう何週間前のことだろう。

ひとりでも生きていけると思いたい きみの猫背の角度が恋しい/杏湯さん


13 遊佐さん




さっさと眠ったらいいのはわかってる。スマホブルーライト、ダークモードにしたって結局は煌々と目を焼くよくない光。眠る前の何時間かはスマホなんていじんないで本でも読んで、って、言われなくたってわかってる。
リラックスできる香り、っていうおすすめで買ってきたアロマだって、火をつけたり消したりが面倒で早々にやらなくなっちゃった。わたしはいつもそうだ。今度こそ、って、思うときは本気だし真剣なのに。
そのくせスマホだけは惰性で延々に弄っていられるの、本当に何なんだろうね。
インスタも、何か調べたいものや積極的に見たいものがあるわけじゃないのに、気づくと開いてしまっている。スマホのホーム画面をあっちこっちうろうろして、最終的に行き場のなくなった指先が押しやすい位置にアイコンがあるのが悪い。とかってこの配置にしてるのもわたしだ。ばかみたい。
前は結構喋ってたけど、今はもうそこまで密でもなくなっちゃった、わざわざ個別に連絡をとるほどじゃないな、ってひとが、わたしには何人いるんだろう。ていうかもう、そういうひとのが多いのかな。
うっすらと浮かんできたそんな思考は、ふわふわとして、きちんと形が捉えられない。でも、ちゃんとその全体を見ようとすると、何だかおそろしいものがすぐそこまで迫ってくるような気がして、わたしは結局、すぐに考えるのをやめた。
インスタのなかのひとって、いつも明るくってきれいだ。ストーリーを端から順々に見ていっても、本当にずーっときれい。このひとたちはきっと、アロマにちゃんと火をつけて、その始末もして眠れるんだろうなって思う。
わかってる。こんなことしてないでさっさと眠ったらいいって。スマホなんて開かないでおけばいいって。見たって何にもならないインスタ。ぜんぶ見ても見なくても変わらないストーリー。きらきらしたそれをどんなに浴びたって、わたしがそうなれるんでもないってことは、もうずっと、
スマホを伏せて置いて、掛け布団を頭からかぶる。無理矢理に作り出した暗闇のなかにいて、それでも瞼の裏にはちかちかと、今まで見ていた色とりどりの光が瞬いている。

ストーリーを右タップで飛ばしてく 対岸の煌めきは遠くて/遊佐さん


14 線香さん




嘘つきは泥棒の始まり、って言うけどさ、おれは別にものを盗もうとは思ってないんだ。嘘つきっていうのも、結果的にそうなっちゃったなあ、くらいの話で。
何の話かわかりにくい? ああうん、ごめんね。結論から話せってよく言われんの。あとあんま盛るなってさ。バラエティやんなくていいって……、いや、そっか、こういうのが余計なのか。ごめんごめん。
誰かの救いになりたいとか、そんな大層なことは考えてない。夢を与えたいとか、励ましたいとか。おれが、おれたちが出来ることって、本当にはあんまり多くなくって。
ありがたいことに、おれたちを見て元気をもらったとか、頑張れたとか、そんな風に言ってもらうことも結構ある。でも、そもそもおれたちの活動だって、周りのサポートがなければ絶対できないことも多いし。
でも。あのとき、コンサートの、ある曲の途中。
花道を歩いて行って、手を振った。近くにいて、こちらを見つめていた子と、はっきり目が合った。あの一瞬。
かみさま、って。見間違いじゃなければ、多分、きっと。
あのときのあの子はそう言ったんだ。
そうして、かみさま、って言われたおれも、黙って手を振り返した。ちがうよって、言えなかった。そんないいもんじゃないんだって。
だから、あのときからおれはずっと、あの子にとってのかみさまでいる。そうあり続けてる。本当はぜんぜん、そんなんじゃないのにね。
おれはただの嘘つきで、多分きっと、天国には行けない。それくらいの悪さは、まあまあふつうにしちゃってる、と思う。ちがうよ、って、思いながらも、ひらりと振り返した手のひらを、なかったことにはできない。
でも。おれはやっぱり、手を振ってしまうと思うんだ。また、あの子みたいに、こちらをきらきらした目で見つめる存在に出会ったら。かみさま、って、迷いなく呼びかけられたなら。
嘘つきでごめん。かみさまになんて、なれなくてごめん。思ってるのは、そうだね、多分、嘘じゃない。

かみさまの振りをしたから天国に行けないかもね、ごめんね、またね/線香さん


15 月食さん




隣の部署のお姉さんは、いつも背筋がぴんとしていて、見るからに仕事ができる人というかんじ。ふわふわしているわたしなんかが話しかけるの、恐れ多いな、と思って、これまで遠巻きにしてきたのだけれど、担当者変更があったみたいで、毎月数回、そのお姉さんとやり取りをすることになった。
とはいえ、まあ、これまでと大きな変化があるわけでもない。お姉さんはいつも通り凛としているし、わたしはふわふわしている。仕事上のやり取りも、そのまんま。すみません! って何回言ったかな、申し訳ない……。
ただ、ひとつ意外というか、予想もしていなかったことがある。
仕事のやり取りで、ちょっとしたメモをつけることが多々ある。そういうとき、わたしは会社の備品の、何の変哲もない付箋に書いて渡している。
でも、お姉さんは違うのだ。
毎回、何だかやたらとかわいいメモ帳に書いてくれている。メモ帳もかわいければ、それを貼り付けるためのマスキングテープもかわいい。
えっ、お姉さん、こんなの持ってたんだ……? って、失礼かもしれないけど、意外に思った。こんなこと言ったら本当は駄目なんだろうけど、お茶目でかわいい、って、お姉さんのことを大好きになった。
そして、今。
わたしはまた新たなお姉さんの一面にふれて、小踊りしたいのをどうにか堪えている。
お姉さんはいつも、メモ書きの最後に自分の名前のハンコを押してくれていた。でも、たまたま手元になかったのか、今日は違った。メモ帳も切らしてしまったのか、ふつうの付箋だ。だから、ちょっと趣向を変えてみようと思ったのかは分からない。
いつもならハンコが押されている位置にあったのは、多分……犬? と、山の絵。
お姉さんは、犬山さんというお名前だ。

本当の秘密は指向性があるから君宛、内緒にしてね/月食さん


16 碓氷さん




何をそんなに喋ってたんだっけ、って、思い返してみてもいろいろぼんやりしてる。中身のある話ってほとんどしてない。
好きなアイドル、ゲーム、お菓子、友達、学校のこと、行き帰りの道であったちょっとした出来事、嬉しかった、悲しかった、しんどかった、何でもかんでもごちゃ混ぜに、思いつくまま話してる。
一緒にいる間、喉が痛くなるまで喋り尽くしても、反対にしばらく黙ってたって、お互いぜんぜん構わないでいられるのは割と貴重なんだってわかったの、実は結構最近だったりする。昔からそうだったし、それが当たり前で、今更意識もしてなかったんだ。
わたしたちはもう、大人だから。子どものままではいられないから。合わない人もいる、苦手な人もいる、どうやったって噛み合わないって人だっていて、それでも、表向きはちゃんと付き合っていかないといけなくて。
そういうなかで暮らしていくの、当たり前なのはわかってるけど。たまにすごく、息がしにくくなる。溺れてしまわないように、慌てて深く呼吸をし直す。
そのたびに、ああ、君とだったら、って思うんだ。君と一緒のときは、こんなことないのになって。
あとから考えてみたら、何を話していたんだか、ぜんぜん思い出せないようなことばっか、ふたりで延々喋ってた。くだらないことで笑って、おなかが痛くなるまではしゃいでた。
ああいうの、ぜんぶ、特別だったんだね。かけがえのない、なんて言うの、こそばゆい気もするけど。でも本当に、大切だったんだ。無くなるなんて考えたくもないな。
わたしも、君も、出来る限りずっと長生きしたいね。それでずっと、何歳になっても、おんなじようなことを喋っていよう。

くだらないことで笑い合う時間が無くなると思うと死ぬのが怖い/碓氷さん


17 夏野さん




たとえばSNSの、たとえばあなたを悪く言う人。善意に見せかけた悪意。よく読まないとわからないけれど、確実に紛れ込ませている嫌味。
そういうの、全部、なくなればいいのにって思う。いくらスパブロしたってきりがなくって、一瞬わたしの目の前からはいなくなるけど、この世にあることには変わりなくって。
でも、あなたはそういうのも嫌がるんだろうね。
だってあなたはちゃんとやさしい。本当だったら、もうとっくに愛想を尽かしてしまっているだろうに、って何度となく思う。好き勝手に気持ちを慮られて、あることないこと喧伝されて、それでもまだここにいてくれる。わたしたちの方を向いてくれている。
どうしてそんなに強くあれるの、って、思ってしまうけど、別に強い訳じゃないんだろうね。そう見せてくれているだけで。特別な存在みたいに、振る舞ってくれているだけで。
あなたはずっと正しく偶像であってくれる。だから(なんて言うのも本当に勝手な話だけれど)、わたしたち、おんなじ人間なんだって、そんなひどく単純なことを、何度でも忘れてしまうんだ。
たとえばSNSの、たとえばあなたを悪く言う人と、わたしの違いって、なんなんだろうね。もうぜんぜん分かんないんだ。
だからどうか、わたしの言うことだって、ひとつもあなたの目には映らないままでいてって、最近はそれだけを祈ってる。おねがい、

ゆっくりと瞼を開くその時はやさしい花が揺れますように/夏野さん


18 飄さん




寝転がって無になる時間が長すぎるのは分かってる。さっき食べてそのまんまにした食器を洗う、脱ぎ散らかした服を洗濯機に入れる、ああそうだ、明日の準備もしてないし、そもそもお風呂にもまだ入ってない。
くるくるくるくる、思考は回る。やらなきゃいけないことが、次から次へと浮かんでくる。それなのに、わたしはベッドに寝転がったまま動けない。傍らに置いたスマホから目が離せない。
ラインの通知、ぜんぜん消せてない。既読だけでもつけたらいいのかな、それとも何にも見ない方がいいのかな。アイコンをタップして、目を通す、それだけのことが、何でか分からないけれど、本当に出来なくって。
だらだら見ていた動画が終わってしまって、でもまた違う動画の再生が始まる。プレミアムに入っててよかった、ってこういうときは本当に思う。何にもしなくたって、勝手に流れていってくれる。広告でぶちぶち切れたりしない。何かを流し続けている間は、我にかえらなくて済む。
本当は、もっと、ちゃんとしたかった。ちゃんと人付き合いして、ラインも溜めずに返して、自分からも連絡をまめにとって。もっとちゃんと。皆ができてるみたいにちゃんと。
スマホの画面にふっと、メッセージの通知が浮かんでくる。友人から。指先が一瞬戸惑って、でもそのおかげで、数日ぶりにラインが見られた。慌てたせいで、ほとんど事故みたいにタップして開いた、メッセージ画面。
「……えっ」
そうして、これもまた意図せずに、わたしは反射的に起き上がり、ベッドの上で座り直した。友人からのメッセージを、食い入るように見つめる。
友人と、わたしの好きなグループの、全国ツアー。日程はこの秋から冬。申込みは明日から。
一緒に申し込もう、日程の相談がしたい、と連絡をくれた友人に、慌てて返事をする。それから、カレンダーアプリを開いて、休みを確認。
数ヶ月先に、自分がどうなっているかなんて、本当にはわからない。今みたいに、いやもしかしたら、今よりもっとぐずぐずになって、動けなくなっているのかも。
それでも、まだ、もうちょっと。せめて今年の秋までは。君に会えるかもしれないときまでは。
もうちょっとだけ生きてても、ぐだぐだでもどうにかまだ、やっていけるかもって思うんだ。

もうちょっと生きてもいいなの繰り返し三度目の秋きみは約束(アイドル)/飄さん





改めまして、短文を書かせていただいた皆さま、本当にありがとうございました!
短歌をどう読みどう感じたか、感想とはまた違った形で表現するのは、難しい部分もありましたがとても楽しかったです。お読みくださった方々にも感謝しています(いきなり何を始めているんだろうと不思議に思われただろうな、とは感じています……)。
もしご感想などあればぜひお題箱まで↓
odaibako.net

いちごつみのこと

2023年12月から2024年1月にかけて、2名の方と計3回いちごつみを行いました。その記録及び自作解説をしたいと思います。
はじめに、これはいちごつみに限ったことではありませんが、解説とは言いつつも、そう読まなければいけないという訳ではありません。もちろん、違った解釈をしたらだめということは決してありません。わたしの短歌やブログを読んでくださる方には、自由に楽しんでいただければと思います。

ちなみに、いちごつみってなに? という部分については、こちらの記事が詳しいので、知らない方・気になる方はご参照ください。


3回分のいちごつみについて、ひとつの記事にまとめたので、結構なボリュームになりました。
見出しをつけておきますので、適宜ご利用ください。
※流れがわかりやすいように、いちごつみのお相手の方の短歌もそのまま載せています(+一言感想つき)。



2023年12月 遊佐さんとのいちごつみ

 ― 首数:10首(各5首)
 ― 奇数首:遊佐さん、偶数首:しま
 ― 期間:2023.12.19~2023.12.21
 ― 方法:Discordメッセージ
 ー 画像作成:しま



総括

遊佐さんとの初いちごつみ。首数が少なかったのもありますが、かなりのスピード感で進行しました。楽しかった!
いちごつみ全体を10首連作のように捉えて、ざっくり起承転結を想像しながら作りました。自分が偶数首担当=最後の短歌を作る役割ということで、最後の方はどう着地させるか結構頭を悩ませていた気がします。
遊佐さんの短歌とわたしの短歌はわりと作風が違っているかな? と思っていて、そのふたつが組み合わさることでの化学反応というか、バランスが面白いなあと感じました。

計10首(各5首)

01 赤ちゃんが人差し指を握るみたいに甘えてくれてもいいのよ?
遊佐さんの短歌を読むと、おすましな女の子が思い浮かびます。かわいい!


02 キスをする雰囲気すらも掴めないぼくらの恋は依然赤ちゃん(赤ちゃん)
「人差し指」を摘むといつも通りになりそうだったので(手指が好きすぎる)、普段ならほぼ詠まなそうな「赤ちゃん」を摘みたいと思っていました。全体の傾向としては恋愛系にしようかな? というイメージがあった。


03 口紅はキスの後にも直すってあの子が言った 踵をあげる(キス)
やっぱりかわいい! きゅっと踵を上げる情景が浮かびます。遊佐さんの短歌のかわいらしさ、水森亜土のイラストを連想するなあと思いました。


04 灰かぶり姫の真似してはしゃいでるきみと遊んで掃除は後で(後)
「踵」を摘みたかったのですがいろいろあってこうなりました。踵→靴を履かせる→シンデレラ→大掃除、というイメージ。時期的にも年末で、大掃除したくないな…と思っていたのが反映されている。


05 親指を唇に添え考えるクセを真似てもあの子になれない(真似)
少し方向性が変わった? と思った短歌。「あの子」ってどんな子だろう、とイメージが膨らみました。


06 ずいぶんと遠くをのぞむ目をしちゃうクセが好きって言ったら怒る?(クセ)
「あの子」が気になりつつも、恋愛系=恋人同士のイメージは引き続き持っていたため、ふたりにフォーカス。彼氏が彼女に言うようなイメージでした。


07 来世でもまた会ったなら遠くまできたもんだねと笑い合おうよ(遠く)
来世!! となった。話が展開していくきっかけを作ってくれるのは遊佐さんだなあとつくづく思います。SF(すこしふしぎ)な要素があって面白くってすきな短歌です。


08 またねって口にしながらお互いの手を離さないことがあったね(また)
SF要素を引き継ぎたくてこんなかんじに。「来世」と言っている「現世」の前にも巡り合っていたふたりをイメージ。


09 教わったピリカピリララとなえると強くなれるの口紅をひく(口)
「ピリカピリララ」はおジャ魔女どれみの呪文、ということで、発想がすごい。まず自分じゃ出てこない単語だなあと思います。


10 指先の真っ赤な糸をそっとひく誰に繋がるかはわかってる(ひく)
巡り合わせのあたりから「真っ赤な糸」が出てきた。また、1首目「人差し指」とも繋がるように、と思っていました。


2024年1月 遊佐さんとのいちごつみ

 ― 首数:20首(各10首)
 ― 奇数首:しま、偶数首:遊佐さん
 ― 期間:2023.12.30~2024.01.02
 ― 方法:Discordメッセージ
 ― 画像作成:遊佐さん



総括

遊佐さんとのいちごつみ2回目。1回目が10首(各5首)であっという間に進行したこともあり、倍に増やしてやってみることに。とはいえ結構なスピード感なのは変わらずでした。
今回はわたしが奇数首担当だったので、今度はどうやって始めるかで頭を悩ませることに(どちらにせようんうん悩んでいる)。1回目がかわいらしい雰囲気のいちごつみだったので、今度は薄暗くしてもいいかな? と思い、若干ダークめでスタートしました。
年末年始でいろいろあって、大変なときだったとは思うのですが、一緒に続けてくださった遊佐さんにはとにかく感謝しかないです。短歌も少しずつ明るい方へ向かっていくような雰囲気があって、本当に勝手ながら、よかった、と強く感じました。

計20首(各10首)

01 かんたんに折れる鎖骨の凹凸を他の誰にも知らせずにいる
わたしの短歌は気を抜くとどこかしら薄暗くなるのですが、この短歌も例にもれず……というかんじです。鎖骨は引っ張ったり強い力を加えたりするだけで簡単に折れるらしい、という話を聞いてから、怖いけど何だか気になってしまっていて、それを入れ込みました。


02 私など食べるか寝るか起きるかで 誰か代わりに生きてくれたら(誰)
遊佐さんからかなり暗めな短歌が返ってきて新鮮でした!


03 冷やごはんレンチンしないまま食べる泣きわめいても妥当な理由(食べる)
冷たいごはんってわびしくて本当につらいよなあ、という短歌。つらいけど、創作する上では結構好きで出してしまうアイテムでもある。


04 杖を持たないとまっすぐ歩けないぼくの生きてる理由はどこに(理由)
引き続き暗め……! どうやって摘もう、どうやって返そう、と悩みました。


05 わからないことだらけでも日々を行くなるだけ武器は持たないでいく(持たない)
前の短歌を受けて、暗いままで行くのもちょっと違うかも…? と思い、若干日が差すような雰囲気にしたかった。


06 こんなときどういう武器を選ぶのか教わってない涙は透明(武器)
「涙は透明」がきれいで本当に好きです。「涙」があるので少しまだ暗さはあるんですが、それだけじゃない雰囲気が見えてきたかんじ。


07 透明なコップに満たす水道水にさえ光は内包される(透明)
ありふれた光景かもしれないですが、少しでも救いというか、明るさが出たらいいなと思って作った短歌。この中だとかなり自分でも気に入っています。


08 神様の光がここに届かないそれでも私目を開けている(光)
「目を開けている」の凛としたかんじが大好き!


09 届かない郵便を待つ明日にも明日があるのを恐れはしない(届かない)
「あした」と「あす」にしたくて、ちょっと遊びを入れてみた短歌。
完全に個人的な話になりますが、明日が来るのが怖いというか、仕事嫌だなとかそういうことを思って眠るのがこの数年当たり前になっていて……でもそんなことを思わず眠れたらいちばんいいよな、と思って出来たところもあります。


10 満月を指差し「故郷」って言うの、ほんとに帰る恐れがあるな(恐れ)
ちょっとお茶目な雰囲気! この短歌が戻ってきたとき、遊佐さんの短歌の好きなところがぎゅっと詰まっていると思ってうれしかった。どことなくかぐや姫っぽいイメージ。


11 何もかもだめになっちゃえ 満月のせいにしたって誰も責めない(満月)
メンタル不調、月の満ち欠けにも影響されるようなので、そのイメージで。嫌なことやつらいこともあるけれど、思い悩むのではなくて、笑い飛ばすようにしたかった。


12 だめですか?落ち葉をわざと踏んでってちっちゃく憂さ晴らしをすること(だめ)
10首目に引き続き、暗さもありつつちょっとお茶目な楽しいかんじがある! 好きです。


13 きみに会う日付にちっちゃく丸をしてやっぱりおっきく書き直しとく(ちっちゃく)
カレンダーの日付部分に○をつけて、それを大きく書き直すと、「二重丸になる」という遊佐さんの解釈がとってもうれしかった短歌。元々は単に書き直すくらいのつもりだったのですが、この解釈を聞いたらもう……二重丸、よすぎる。


14 いま見たら日付の横に雨マーク それならわざと傘は持たない(日付)
濡れてもいいってことなのかな? たとえば泣いていても濡れちゃえば目立たないとか…? とイメージして読みました。
ちなみに、遊佐さんにあとからお聞きしたら、迎えにきてもらって相合傘になるように傘は持たない、ということで、本当にかわいい…!! となりました。


15 だとしても虹が出るのは足元にうつむく先に雨の向こうに(雨)
雨の後には虹が出ますが、空にかかるだけじゃなくて、足元とかアスファルトの上に小さく出ることもあるなあ、と思って作った短歌。あとは、何となく「だとしても」で始めてみたかった。


16 太陽で目が痛いからうつむくも覗き込まれちゃうから意味ない(うつむく)
太陽が覗き込んでくるイメージが膨らんで、茶目っ気があっていいなあと思いました。かわいい!


17 きみの顔覗きに行くよ苦笑いだって笑顔と人は呼ぶだろう(覗き)
前の短歌の覗き込んでくる太陽が好きだったため、この短歌も太陽目線(?)にしてみた。


18 あなたの名前を呼ぶときいつもより大きい声が出せちゃう不思議(呼ぶ)
「いつもより大きい声」っていいなあ…としみじみ感じました。わたし自身、コンサートに行ったとき、普段では出ないような声が出せたことがあるなあとも思い出しました。そして全体的にかなり前向きなかんじ!


19 不思議って一緒にいるといくつでも たとえばこの手を繋げてること(不思議)
盛大な字足らずをやらかす……(すみませんでした)。最初は「不思議っていくつもあってたとえばこの手を繋げてること」としていました。まったく気づいておらず、でもどうにか修正できてよかったです。


20 たとえばきみが大事だと言うことがかんたんなんて知らなかったよ(たとえば)
1首目の「かんたん」にも繋がるようにしてくれている! そしてこのからっとした明るさ、軽やかさ。
20首全体として、はじめの、わたしの作った薄暗めのところからここまでゆるやかに変化して、最後明るいところに着地できて本当によかったです。


2024年1月 昨さんとのいちごつみ

 ― 首数:50首(各25首)
 ― 奇数首:しま、偶数首:昨さん
 ― 期間:2024.01.19~2024.01.25
 ― 方法:Discord専用サーバー
 ― 画像作成:しま



総括

昨さんとの初いちごつみ。各25首ということでこれまでより首数が多いため、どうなるのかほとんど想像がつきませんでした(わたし個人として、これまでに経験したいちごつみでは各15首が最多だった)。そのため起承転結のことは基本的に考えず、その場その場の変化や流れに身を任せることに。
もうひとつ自分の中で決めていたテーマ(?)は、昨さんの作風に寄せてみる、でした。あまり自分では作らないタイプの短歌だなあという感覚があったので。結果として、まあまあ寄せられたかもと思うところと、やっぱりぜんぜん違うな、と思うところとありましたが、どちらかというと後者が強かったかな……。なかなか寄せられるものでもなかったです。

計50首(各25首)

01 雨の日のねむい匂いを吸い込んでこのまま煙草にしちゃいたかった
スタートは思い切り自分の好きな要素を詰め込んでみた。何というか、手癖が出てるなあという気がする。


02 銘柄を覚えようにも匂いしか記憶になくて問い合わせ 肺(匂い)
「煙草」は摘んでないのに煙草の「銘柄」の話になっているの、すごいな~!! と思いました。何となく「肺」で終わるの、昨さんっぽい、気がする。


03 ざわめきに名前はあるか 問い合わせメールにもらう自動返信(問い合わせ)
あんまり普段使わない単語を…と思った結果「問い合わせ」を摘みました。「ざわめきに名前はあるか」フレーズとしては気に入っているけど、どういう意味? と聞かれるとよくわからない短歌だなあと思う。


04 イニシャルと出会った日付羅列してメールアドレスは恋の遺言(メール)
「恋の遺言」いいですね…!! 昨さんのこの言語感覚、すごく素敵だなあと思っていて……聞きなじみのある単語だけど思いつかない組み合わせや、少し変わった(でもわかる気がする)言い回しで、どこかぴりっとスパイスが効いているかんじがします。


05 あのときの人とは別の人といて(あれが終電)日付が変わる(日付)
「恋」の要素があるなあと思って、恋人同士のようなかんじに。ただストレートに幸せそうだったり甘かったりするのは違うかな…と少し影のような要素も入れてみました(あのときの人とは別の人)。


06 じゅうにじを超えない終電 じゅういちじ過ぎの夜行で また会いたいな(終電)
前の短歌、「日付が変わる」だから、「終電」と言いつつまだ夜十一時台なんですよね。単語を摘むだけじゃなくて文脈ごと繋げてくれているかんじ、この短歌に限らずですが、すごい……。


07 繋がれた手がいつまでも冷たくて心は積載量を超えない(超えない)
5首目で若干影のある恋人たちを出したので、そこから引き続き。手は繋ぐだけの仲だけど、一線を引いているようなかんじがしますね。


08 城壁は冷たくあって わたし特段困ってはないはず、なのに(冷たく)
ここで「城壁」が出てくる! なぜ……発想の繋がりがすごい。これも「超えない」ものとしてのイメージなのかなあ。


09 きみの目の揺らいでるのがうつくしくお願いもっと困ってほしい(困って)
これ、自分で作っておいて、若干きもちわるいな……と思いました。下の句がちょっとべちゃっとしている。「困ってほしい」ってなんだろう。


10 開く目が大きくないとダメなんて言ってなかった まぶしい みたい(目)
どういうことなんだろう? と頭を悩ませた短歌。目はぱっちり大きい方がいい、とかそういう言説と、でも実際大きく目を開くのってまぶしいしつらいこともあるよね、というようなことかなあ。全然違ったらすみません。


11 光あれとかってぬかす神さまはポンコツみたい苦しいばっか(みたい)
「まぶしい」から「光」へ連想。あんまり普段摘まない語を選ぼうとした結果「みたい」を摘みました。これは結構自分でも気に入っている短歌。


12 え そうじゃん ぬか漬け食べて寝たらいいいちばんいいって! 言ってたキミは? (ぬか)
「ぬか漬け」が出てくるとは思わなくって……笑 これ、いちばん度肝を抜かれた短歌でした。びっくり。そして自分でももっと自由にやろう! というきもちになった。


13 泣きながらごはんいっぱい平らげてぜんぜん平気そうじゃんわたし(そうじゃん)
ということで(?)「そうじゃん」を摘んでみた短歌。ただし内容としては割と自分のやりがち要素が強い(ごはんの話が好き)。


14 言われればごはんですよの経験はなかったですね パン派は寝てます(ごはん)
ごはんですよ」……もうこの辺り昨さんすごいな!! と思いつつ読んでました。発想が柔軟すぎる。


15 経験値1から上がんないバグをたったひとつの個性とされる(経験)
これも、「経験」そのままじゃなくて何かひねりたいな~と思って「経験値」にしてみた。自分としてはちょっと冒険。


16 今さっきうだつの上がんない君が『確変です』って一抜けていた(上がんない)
流れとして、何となくゲームっぽさが出てきて面白かった。「確変」も単語としては知っているし分かるけど、短歌に入れたことないなあ……。


17 ゴールするときは一緒の約束でさっきまでなら好きだったのに(さっき)
「一抜け」されてしまったので、マラソン大会とかでありがちな情景を詠んでみた短歌。この辺り若干素というか、うっすら暗い部分が出ている。


18 人生でゴールテープを切ったことなくても最後義務があります(ゴール)
昨さんの短歌の、この切れ味というか……さっぱりしているけど持ち重りのするかんじ、すごいバランスだなあとつくづく感じる。


19 もみくちゃになっても最後の最後までわたしはわたしでいられる権利(最後)
「義務」ときたので「権利」を持ち出したかった。なかなかしんどい日々ではありつつ、どうにかこうにかやっていけますように、の気持ちも込めてます。


20 きもちよさでもみくちゃくちゃになれたら生きてる証 原型はない(もみくちゃ)
「もみくちゃくちゃ」、声に出して読みたい。定型にぴったりはまっていなくても自然というか、音として読めるかんじ。内容の鋭利さに対してこの自由さがあるの、おもしろい……。


21 原型がわかんないまま組み立てるおそらく心おそらく体(原型)
個人的には、この辺りからわりと自由度が増したような気がしてます。即興性というか、全体の流れよりひとつ前の短歌から受ける印象でぱっと返すようなイメージ。半分くらいまで進んできて慣れたのもあるかもしれない。


22 組み合わせ次第では君と付き合う あとは命日の遅延になる(組み)
「命日の遅延」これ大好きです。本当にこの言葉の並び、思いつかない。


23 式次第どおりに済ます生前葬ぼくらはここで拍手する役(次第)
個人的に結構気に入っている短歌。わりと昨さんの作風に寄せられたような印象(勝手に)。


24 これ以上拍手喝采浴びせても他人事みたい こうかはないよ(拍手)
「こうかはないよ」がゲームの表記のようでもあり、こうか=効果=校歌?と想像できたりで、面白いなあと思った。ひとつの音で複数の意味を持たせるの、膨らみが出ますね。


25 さよならはこうかふこうか聞こえないパイプ椅子ってやけに冷えるね(こうか)
「こうか」をさらに違う言葉に変えたくてこんなかんじに、本当だったらひらがなより漢字で書いたほうが相応しいかな、とは思いつつ……。何となく式典っぽさを引き継いだ結果、「パイプ椅子」が出てきた。


26 着慣れないジャケットを乗せパイプ管に擬態できる 5年かかった(パイプ)
「擬態」から何となく、社会人とかサラリーマンとか、そういう世間一般的に求められる姿をイメージ。「5年」というあたりがリアルだなあと思う。


27 実のとこ石の上には5年いてかなしむのってどうやんだっけ(5年)
「石の上にも三年」と言うけれど、それよりもっと要領が悪かったら三年以上になるかな、と思ってこんなかんじに。イメージは社会の荒波にもまれるうち摩耗しきったサラリーマン(しんどい)。


28 私でもかなしむ資格取れてたし誰でもできる布団の中で(かなしむ)
「どうやんだっけ」と聞いたら「誰でもできる」が返ってきて、おお!!と思わず声が出ました。この切れ味、昨さんの短歌だ~と思う。


29 掛け布団わけたげるってそういうの何度やってもよくは言えない(布団)
前の短歌からどう繋げるか考えてはみたものの、うまい返しが浮かばず、まったく違う方向へ……。気遣いであるとかやさしさをさりげなく渡せる人っていいよなあ、そんな風になかなかなれないなあ、というやっぱり若干薄暗めの短歌。


30 灰皿になれますように何度でもお願いしてる 穴は開けない(何度)
どうやったら「灰皿になれますように」が出てくるんだろう……?!!


31 両耳に増やした穴の向こうから吹いてくる風 これは合法(穴)
「穴」をどんな穴にしようかな、と考えた結果、ピアスホールになりました。「これは合法」がわりと気に入っている。


32 カフェオレとカフェラテのことおなじだとほら吹いてくるみたいにだっこ(吹いてくる)
「ほらを吹く」になるとは思わなかった……。カフェオレとカフェラテ、未だに違いがわかりません。聞いたときは一瞬理解するけどすぐに忘れる。


33 僕なしじゃ立ってらんなくなるくらいおんぶにだっこしたげたかった(だっこ)
09の短歌と少し似通ったものを感じる。自分で作っておいてなんだけど若干べちゃっとしていてきもちわるめ。


34 明日の夢 荒野にひとり立っていて夜を伸ばして朝と結婚(立って)
……と思っていたら「ひとり立っていて」が返ってきて、よかった~と思いました。勝手に軌道修正してもらったきもちになっていてすみません。凛とした雰囲気で好きな短歌です。


35 ここからはおひとりさまで行かせてね辛くはないのおあいにくさま(ひとり)
格好いい短歌を返していただいたので、それを活かしていきたかった。「おひとりさま」と「おあいにくさま」は完全に言葉遊びというか、意味よりリズム重視で使ってます。


36 放たれた 自由になれよ希望たち 会いに行かせてもう奪わない(行かせて)
「自由になれよ希望たち」が格好いいですよね……。


37 大声で叫ぶわたしは奪わない奪わせやしない手離すもんか(奪わない)
この短歌も35の流れを汲んでいるかんじ。なるべくばしっとした雰囲気にしたかった。


38 マグカップ割れた理由を大声に押し付けている(もう聞こえない)(大声)
この辺り、どんなイメージだったのかお聞きしてみたい。実のところあんまり具体的な背景が浮かばなくて(マグカップは誰のものなんだろう?どこにあるんだろう?等)、昨さんがどうやって繋げていっていたのか気になるなあと思っていました。


39 聞こえないふりでずんずん歩いてく振り向かないで 空が高いね(聞こえない)
35・37の流れを汲んだ短歌。わたしの短歌単体としては作れていると思うんですが、割とぶちぶち切れるというか、昨さんの短歌からはうまく繋げられていないなあと思います……反省点。


40 雨降りの空が言うには確率で当てないことも出来るらしい(空)
何となく「空」が摘まれるのが意外だった。でも改めて見返すと前の短歌、動詞ばっかりだな……。普通に作ると、次の方がどうにも摘みにくい短歌になっちゃうことが結構あるので反省してます。


41 話したい人が見つかる確率の出し方 簡単 なんてサジェスト(確率)
「確率」を摘みたかった。あと「サジェスト」とか、検索エンジンっぽさを入れ込みたくてこんなかんじに。短歌のなかにそういった要素を入れ込むのが好きで結構やりがち。


42 晒すのは気軽手軽簡単な無理心中 用意できたよ(簡単)
「晒す」だったり「無理心中」だったり、少しひやっとする要素が入っているけれど、最後「用意できたよ」は軽やかで、そのバランスがすごいなあと思う。


43 ご紹介するのは手軽な逃避行、手に手をとって走り出すだけ(手軽)
「無理心中」から「逃避行」へ。創作する上で好きな要素なので、どうしても内容を引き継ぎたかった。


44 手を繋ぐ 享受しないで生きてきて握られるまま返せなかった(手を)
「握られるまま返せなかった」のもの悲しさ、ツボです……。ちょっと切ないかんじ。


45 最後まで返せなかったメールにも名前はあってもう呼ばれない(返せなかった)
なんとなく、いちごつみの最初の方を読み返し、もう一度「メール」を出してみた。そこから繋がっているような繋がっていないような。


46 今日ぐらい最後ぐらいは人がいい 冬は続くよ安心してね(最後)
下の句は冬眠する熊視点、とあとから教えていただいて、!!!となった短歌。好きです。


47 降り続く雨、じゃなくって雪だった。傘はなくっていいよ、それじゃあ(続く)
リズムも文字も崩したくっていろいろやった結果こんなかんじに。「冬」から「雪」への連想、シンプルではありますが自分では結構気に入ってます。


48 手紙にはそれじゃあまたねだけあって紙だけずるいヤギじゃ寝れない(それじゃあ)
ヤギ……??! となった短歌。「紙だけずるい」は何だろう、食べられてしまうことかなあ。「寝れない」のは羊じゃないから……?


49 ずるいねと言ってやれたら(なんだって言うんだ)欠伸もしくは結露(ずるい)
若干手癖が出ている。括弧書き、好きなんですよね……。「欠伸もしくは結露」は語感重視で入れた記憶。


50 ねむいとき欠伸はでない かなしいと涙はでない 一緒にいれない(欠伸)
一周している…!! 遊佐さんのときもそうでしたが、一周するとすごくうれしいきもちになりますね。畳みかけるような「ない」も好きです。



以上、いちごつみの感想+自作を振り返ってみました。やり切った感!
お読みいただきありがとうございました。ご感想などあればぜひお題箱まで。

相互題詠のこと

2023年11・12月に、3名の方と「相互題詠」をしました。
その記録及び自作解説をしたいと思います。

はじめに、これは相互題詠に限ったことではありませんが、解説とは言いつつも、そう読まなければいけないという訳ではありません。もちろん、違った解釈をしたらだめということは決してありません。わたしの短歌やブログを読んでくださる方には、自由に楽しんでいただければと思います。

ちなみに、相互題詠ってなに? という部分については、鷹野さんのこちらの記事が詳しいので、知らない方・気になる方はぜひご参照ください。


3回分の相互題詠について、ひとつの記事にまとめたので、結構なボリュームになりました。見出しをつけておきますので、適宜ご利用ください。



1)2023.11.18 遊佐さんとの相互題詠

 ― 首数:6首固定
 ― 題:コスメ

すぐどっか行っちゃうリップばっか買う才能なんてあるはずもない
面の皮(物理)が保つだけの下地ってここ扱ってます?
花の名のついたチークを指先で軽く叩いた 粉々になれ
急募・可愛げのある女の子 何にも叶いやしないんだって
ゴミ箱に放ったときが最高の発色らしい無難なシャドウ
安売りのメイク落としで適当に消してあげるね、ばいばいわたし


総括

はじめにお題を見たとき、正直、割と不得意な分野だ…! と思いました。「コスメ」、ほぼ詠んだことがないレベル。自分だと選ばない、出てこないお題をもらえるのが、相互題詠のよいところです。
おそらくかわいらしいもの、華やかなものにする方が、お題には沿っているんだろうなあ、とは思いつつ、なかなか詠めず……。最終的にはいつも通りというか、自分の素直な感覚でいこう、と決めてこんなかんじになりました。ちょっと暗い。あとコスメに興味なさそうなのがびしばし伝わってくる。興味ない訳でもないけど、通勤のときとかは面倒が勝ちますね……。
6首あるので、何となくメイクの工程をなぞっていきたいな、と思って作りました。なので連作の並びはそんなかんじになっています。下地だけで終わってるのでめちゃくちゃ中途半端ではありますが……マスカラとかも入れられたらよかったなあ。

すぐどっか行っちゃうリップばっか買う才能なんてあるはずもない

リップ、なくすよなあ、という歌。あとそもそも塗るのを忘れる(折角買ったのに)。ちゃんと使い切れたことない気がします。
一応上の句で切れるイメージでしたが、「すぐどっか行っちゃうリップばっか買う才能」と繋げて読んでも訳わかんなくて面白いかな、とも思っていました。割とろくでもない才能。しかもその才能すら「ない」ので救いがない。

面の皮(物理)が保つだけの下地ってここ扱ってます?

「つらのかわかっこぶつり」と読んでもらう想定。こういう、括弧書きを入れたりするのは、あんまり使いすぎると効果が弱まるかな……とは思いつつ、好きなので結構使ってしまう。連作の中にひとつくらいなら入れてよしという自分ルールがあります。
文末の「?」も普段はあんまり使わないので、これは自分としては結構イレギュラーな短歌でした。

花の名のついたチークを指先で軽く叩いた 粉々になれ

「粉々になれ」あたりにメイクへの意識の低さというか、あんまり好きじゃなさそうなかんじが滲み出ている。メイク用品、色の名前とかかわいらしいものが多くて、見ている分には好きなんですが、自分がそれを使うかは別……みたいな感覚がずっとあります。自意識の拗れ。

急募・可愛げのある女の子 何にも叶いやしないんだって

「きゅうぼてんかわいげのあるおんなのこ」と読むと音数が合う。これも若干イレギュラー寄り。
この短歌を作っている間、割とメンタルがたがたかつ今後の身の振り方に悩んでいたため、求人広告風の短歌になりました。また、これは笑い話ですが、新卒1年目のとき、当時の上長に「○○さんっていけしゃあしゃあとしてるよね」と言われたことも頭にあった。今思い返すとなかなかひどい言われようだな。

ゴミ箱に放ったときが最高の発色らしい無難なシャドウ

この辺りも……メイク嫌いなの? ってかんじの短歌ですね。色やラメのかんじ、綺麗だなあとは思っているんですが。社会人になるとどうしても、ほとんど会社用のメイクになってしまうので、シャドウも何もかも無難な色味を選びがち。
あと確かこの頃、身の周りのあれこれを整理していて、実際にもう使わないなっていうシャドウを捨てたりもしていました。使い切れない化粧品類、たまにがさっと整理するとめちゃくちゃすっきりします。

安売りのメイク落としで適当に消してあげるね、ばいばいわたし

最終的に「メイク落とし」が出てきた。洗顔でもよかったんですが、より一層雑で肌に悪そうなもの、と思ってこうしています。しかも「安売り」だからよりだめっぽい。メイクの工程を(かなりざっくりではありますが)なぞっていって、最後ここで終わる、という構成を思いついて、きちんと収められたのはうれしかった。

その他

わたしから遊佐さんへお渡しした題は「嫌いになれない」でした。
遊佐さんの短歌にある、ちょっとおしゃまな女の子のようなかわいらしさ・感情の瑞々しさが好きなので、感情をテーマにおきたかった。ただ、好き/嫌いだとストレートすぎるかな? と思ったので、少しひねってみました。
また、内容によっては短歌にもアイドル短歌にもなるかな、と思っていました。元々好きだった人(担当)についてとか。


2)2023.11.28 綴さんとの相互題詠

 ― 首数:4〜6首の間で自由
 ― 題:街

休ませてください、とだけ言う電話 発車ベルってずっとうるさい
無くたって何ともなんなかったって習いたかった泣いたってなに
フィルターでいえばガゼット色あせた路地には僕が立ち尽くしてる
街灯がぶれてほんとうよりきれい乱視でよかったのはそれくらい
輝けない星へ毛布を シャッターが上がるときまでそばにはいたい


総括

なかなか思いつかず苦戦した連作でした……。5首目だけ先に思い浮かんでいて、でも全体の構成も組み立てられないし、そもそも短歌自体が上手く作れなくて、どうしよう……と途方に暮れたおぼえがあります。
「街」というテーマは、自分としては得意な分野のようにも感じていたのですが、どんな街にするか・どういった展開を作るかを決めかねて迷走しました。5首目だけ作ってしばらく動けず、次に1首目が出来たんだったかな。この短歌を作れたことで、何となくではありますが全体の流れが決まった気がします。2023年夏頃からの自分の不調については、別途「ある故障」という連作も作っていたのですが、今改めて見ると、その流れに近いようにも思います。
ちなみに3首目を除く4首には共通点があって、最後の2音がすべて「街」と同じ「ai」になっていました。「(うる)さい」、「なに」、「(それく)らい」、「(い)たい」。

休ませてください、とだけ言う電話 発車ベルってずっとうるさい

ほぼ実話。メンタルがおしまいなとき、どうにか家は出たものの、そのまま仕事に行くのがしんどくて、駅のベンチで何本も電車を見送ることがありました。これ以上見送ると流石にまずい、という辺りでよろよろ出社したり、がんばれないときはそのまま会社に電話して休みの連絡を入れたりしていた。本当にしんどいときは休みの連絡すら入れる元気がなかったりするんですけどね……。そうなる前に手を打った方がいい、というのは経験談

無くたって何ともなんなかったって習いたかった泣いたってなに

ちょっと遊びに走った短歌。これも、連作の中にひとつくらいならイレギュラー短歌を入れてもいい、という自分ルールに則っています。とにかく「無」いかんじを出したくて、ひたすら「な」の音を入れています。
「泣いたってなに」は、学校や会社で泣いてしまう=普通ではないことについて、それを聞かされた側が言いがちな台詞、と思って入れました。泣きたくて泣いた訳でもないのにさらに問い詰めるように言われるの、つらいよなあ、という短歌。

フィルターでいえばガゼット色あせた路地には僕が立ち尽くしてる

これだけ作りが若干違っています。最後の2音が「ai」ではなくて、「立ち尽くしてる」で終わる。そのことで本当に、どこにも行けないかんじが出るといいなあと思っていました。
ガゼット」はX(旧Twitter)の写真加工用フィルターのひとつ。街の情景として、このフィルターの少し色あせたような色味がイメージとしてあったので、そのまま持ってきました。画像を添付するとき、わたしはよくこのフィルターを使います(蛇足)。

街灯がぶれてほんとうよりきれい乱視でよかったのはそれくらい

これもほぼ実話。一度外出したときに、出先で目と頭が痛くなり、コンタクトを外したことがありました。裸眼視力が0.1ない+乱視が入っているので危ないといえば危ないんですが、通い慣れた道を戻るだけだったので、そのまま歩いて帰ってきた。
そのときに見た街灯がやけにぶれて綺麗だった。ただ、綺麗だなと思って写真に撮ろうとしても、見ている通りには写せない。乱視でぶれて見えているので、写真に撮るとそのぶれが歪みがなくなって、すっきりしすぎてしまうんですよね。そういう短歌でした。

輝けない星へ毛布を シャッターが上がるときまでそばにはいたい

連作の中で、いちばんはじめに作った短歌。「輝けない星へ毛布を」のフレーズだけぽんと浮かんで、そこからどうするべきか決まらず、うんうん悩んでいました。
「シャッターが~」は後から付けたんだったかなあ……1首目とリンクさせるようにして作ったような記憶。1首目が駅の話なので、そこに繋がるように「シャッター」を入れたんだった、はず。実際には何ができるでもないけれど、でもそばにはいたい、何も考えていないわけではない、気持ちとしては寄せている、という……言い訳がましいかもしれないけれど、そんな祈りを込めていました。

その他

わたしから綴さんへお渡しした題は「体温」でした。
シンプルに、「体温」、好きなんですよね……。創作の中で出てくるとうれしくなる要素。綴さんの短歌は、わたしには到底作れないなあと思うタイプのもので、そういった方にこのお題を渡したらどうなるんだろう? 予想もつかないものが返ってくるんじゃないか? ということで、こちらをお願いしました。


3)2023.12.26 昨さんとの相互題詠(アイドル短歌)

 ― 首数:5~8首の間で自由
 ― 対象:関ジャニ∞ 丸山隆平さん
 ― 題:消せない 曲:赤い公園「消えない」

ぼくのことぼくがいちばんわかってる どうせお前はずっと消えない
綺麗事ばっか歌って(なんてこと、)イヤフォンを取る指の冷たさ
何回も聴いてた曲の歌詞なんてぜったい間違えたくはないのに
生傷はなくなりもせず痛くないふりだけやたら上手くなってく
踏み外す、ところで気づき足先は正しい位置に戻ってしまう
あたりまえみたいに僕を買いかぶる誰かをいっそ嫌いたかった
ちょっとくらい薄れてくれてよかったな あなたの声が今も消せない


総括

前2回とは異なり、特定の人物を対象としたアイドル短歌での相互題詠でした。題と曲を指定して行ったのですが、新鮮で楽しかった! 昨さんとは丸山さんが好きという共通項があり、かつ彼についての目線であるとか、見てきたものがかなり重なっているように感じていて……だからこそ、それぞれが連作を作ったときに出てくる共通点や違いがすごくおもしろかったです。
首数については、丸山さんのことを考える上で、7人のときの関ジャニ∞、というものがどうしてもずっと横たわってあるため、7首にしました。また、題と曲がリンクするようになっていたため、「消えない」で始まって「消せない」で終わる構成も、かなり最初のうちから考えていました。
全体としては、7首すべて丸山さんの視点のイメージで作っています。彼から見た現・旧メンバーやファン、そして彼自身のことを歌ったつもり。

ぼくのことぼくがいちばんわかってる どうせお前はずっと消えない

この「お前」は、旧メンバーの渋谷すばるさん・錦戸亮さんのイメージと、丸山さん自身のことでもありました。変わっていく歌割やダンスのフォーメーションの中でも、きっとすばるくんや亮ちゃんのこと、彼らの歌声や気配はなくならないんじゃないかな、というのがひとつ。もうひとつは、何だかんだといろいろあったって、丸山さん=ぼく=お前は、結局アイドルを辞めないでいる、消えないでいるだろう、という声が、彼の中にあるんじゃないかな、という……ものすごくわたしの主観でしかないですが、そんな歌でした。

綺麗事ばっか歌って(なんてこと、)イヤフォンを取る指の冷たさ

アイドルの皆さん、明るい歌を歌ってくれることがかなりあって、それはすごくありがたいんですけど、その思想であるとか前向き加減に心がついていかないこともあるんじゃないかな、という短歌。特にエイトは人生の応援歌っぽいというか、特に5人体制になってからのシングルはそういった傾向が顕著なので、ふっと我に返ることがあるんじゃ……と思ってしまった、わたしの考えがめちゃくちゃ出ている。
途中の(なんてこと、)は2つ意味がとれるように、というざっくりしたイメージがありました。ひとつめは「綺麗事ばっか歌って、なんてことを思った」という単なる独白。ふたつめは「(綺麗事ばっか歌って)今なんてことを考えたんだ自分は」という自覚、後悔、後ろめたさ。どちらにとってもらってもいいかなと思います。

何回も聴いてた曲の歌詞なんてぜったい間違えたくはないのに

これは具体的な出来事が下敷きにあって……すばるくんが抜けた後のライブで、元々はすばるくんが歌っていた部分の歌割を丸山さんが引き継いだのですが、そこを間違えてしまう、ということがありました。そのときのことを短歌にしています。
見ているこちらは、誰だって間違えることはある、と思うし、そもそも歌割が変わっているのだから慣れなくたって当然だ、とも思いますが、本人はそうは思えなかったんだろうな、絶対に間違えたくなかったろうな……とも強く感じた。繰り返し考えていた出来事のことでもあったので、この短歌は連作の中でもかなり早く出来ていました。

生傷はなくなりもせず痛くないふりだけやたら上手くなってく

丸山さんのことでもあり、関ジャニ∞の他のメンバーのことでもあり、ファンであるわたしのことでもある短歌。
生傷、ずっとあるんですよね。なくなりはしない。最近になってようやっと、傷があるなあと思って、傷の加減を見られるようになりましたが、それまでは傷を直視することだってしんどくて上手くできなかった。今だって思い出したように鈍く痛むことはありますが、でも、まだ少しマシというか、痛いなあ、痛いよ、と目を背けずにちゃんと思えるようになった気がします。

踏み外す、ところで気づき足先は正しい位置に戻ってしまう

丸山さんについて、馬鹿になれないというか、我を忘れられない悲しさ、みたいなものがずっとあるなあという気がしています。無茶苦茶な、訳わかんないようなことをしているようで、ずっとどこか凪というか、冷静さを捨てきれない。
グループにしても……たとえば、抜ける、辞める、という選択肢は、彼の中にもあったのかもしれない。それでも、結局戻ってきた、関ジャニ∞という場所に、今の立ち位置から抜け出さなかった、抜け出せなかった? という、そういう短歌です。

あたりまえみたいに僕を買いかぶる誰かをいっそ嫌いたかった

これは……なんというか、他の6首に比べてより一層わたしの主観バリバリな短歌です……。丸山さんは、すばるくんにしろ亮ちゃんにしろ、彼らは特別、自分とは違う、という意識をずっと持っているように感じていて。歌が上手いとか、人を惹きつける魅力があるとか。
でも、丸山さんにだって彼にしかないものって確かにあって、すばるくんも亮ちゃんもそれはずっと伝えてくれていたと思うのですが、丸山さん自身は素直に受け取ってこれなかったんじゃないかな、と……。マルはすごい、マルはやればできるのに、なんでやんないの、ってそんな風に言ってくれるのが、ありがたいけどちょっとだけ重たいような、うるさく感じるようなところがあったのかも、でもだからといって嫌いにはなれなかったんじゃないか。
本当にこれを書いていてちょっと恥ずかしくなってきました……どうにも思想強め。

ちょっとくらい薄れてくれてよかったな あなたの声が今も消せない

ここでの「あなた」は、すばるくんであり、亮ちゃんでもあり、メンバーでもあり、ファンでもある、というイメージでした。辞めてしまおう、消えてしまいたい、と思ったこと、少なからずあるんじゃないかな……と勝手に思っているんですが、その度に耳によみがえる声があるんじゃないか、それを忘れられないんじゃないか、というところから作りました。また、1首目の「消えない」ともリンクするようになっています。

その他

わたしから昨さんへお渡ししたのは、題「臆病」+曲「魔法の歌/PEOPLE1」でした。
題は、丁度その近辺で丸山さんのWEB日記を読んでいたところ、ファンからの「真面目」という評に対して「臆病なだけかも」といった風に返されていて……そういう自己分析なんだ、という驚きと、ああでも分かるかもしれない、という感覚と両方あって印象的だったので。
曲は、今回の相互題詠をやるにあたって気付いたのですが、自担のイメソンをほぼ持っていませんでした。丸山さんでどうにか浮かぶの、2曲くらいかもしれない。という訳で、この曲にするのはほとんど悩みませんでした。「臆病」というテーマともそう離れていないからいいかな、とも思っていました。


以上、いつもよりは詳しめに自作を振り返ってみました。楽しかった!
お読みいただきありがとうございました。ご感想などあればぜひお題箱まで。

log:202401 短歌

0101
花吐き病

泣くよりも先に気配がやってくるときの正しささえ沈丁花
誰からも見られずに咲く立葵 手折ったときがいっとう好きだ
花びらが気管に入り粘膜の味がどんなか分かんなくなる
正解を知らないままのきみが塗る金木犀のハンドクリーム
ほっそりとした首筋を撫でていく寒椿にも痛みはあるか



0103
いちごつみ20首 偶数首:遊佐さん

【1】かんたんに折れる鎖骨の凹凸を他の誰にも知らせずにいる
【2】私など食べるか寝るか起きるかで 誰か代わりに生きてくれたら(誰)
【3】冷やごはんレンチンしないまま食べる泣きわめいても妥当な理由(食べる)
【4】杖を持たないとまっすぐ歩けないぼくの生きてる理由はどこに(理由)
【5】わからないことだらけでも日々を行くなるだけ武器は持たないでいく(持たない)
【6】こんなときどういう武器を選ぶのか教わってない涙は透明(武器)
【7】透明なコップに満たす水道水にさえ光は内包される(透明)
【8】神様の光がここに届かないそれでも私目を開けている(光)
【9】届かない郵便を待つ明日にも明日があるのを恐れはしない(届かない)
【10】満月を指差し「故郷」って言うの、ほんとに帰る恐れがあるな(恐れ)
【11】何もかもだめになっちゃえ 満月のせいにしたって誰も責めない(満月)
【12】だめですか?落ち葉をわざと踏んでってちっちゃく憂さ晴らしをすること(だめ)
【13】きみに会う日付にちっちゃく丸をしてやっぱりおっきく書き直しとく(ちっちゃく)
【14】いま見たら日付の横に雨マーク それならわざと傘は持たない(日付)
【15】だとしても虹が出るのは足元にうつむく先に雨の向こうに(雨)
【16】太陽で目が痛いからうつむくも覗き込まれちゃうから意味ない(うつむく)
【17】きみの顔覗きに行くよ苦笑いだって笑顔と人は呼ぶだろう(覗き)
【18】あなたの名前を呼ぶときいつもより大きい声が出せちゃう不思議(呼ぶ)
【19】不思議って一緒にいるといくつでも たとえばこの手を繋げてること(不思議)
【20】たとえばきみが大事だと言うことがかんたんなんて知らなかったよ(たとえば)



0103
題:エレベーター

開ってボタンをずっと押している私をみんな追い抜いていく
もう一回押したらなかったことになる ならない なる なってくれない
たぶんそうだけどお互い他社さんの顔であっさり押しとく閉



題:餅(のびる/風物詩/ちょっと危ない)

ふくれてるきみの頬のがおもちよりよく伸びてって ごめん、降参
好きだけどちょっと飽きちゃうこともある、なんてね、これはおもちの話
やきもちも餅には違いないってこと うっかりしたら息も止めるの



0104
題:夜明け

まぶしさの方へまっすぐ行けばいい始発電車はトンネルを出る
こわくないこわくないから新聞の落ちてく音を救いとしたい
真っ暗な中より糸の先ほどの光がまぶたに触れれば夜明け



0109

完全じゃ完全じゃないどもったり噛んだり舌を千切れなかったり
肘下のうすくてやわい皮膚になら爪を立ててもいいと習った
かなしいのほんとうなのに泣き出した瞬間ぜんぶうそっぽくなる


0112
癖短歌(「駆け落ち」という言葉がよぎっているけれど絶対に口に出さないし実行もしないふたり)

降りることこの先一生なさそうな駅に行きたい いきたいだけだ
終電がいつか知ってる僕たちは曽根崎だってそらんじている
行き先があるから違う ちがうよね 繋いだ手だけ軽く揺らして



0113
お題:行き帰りのバスで話すくらいしか関わりのない(けれどそこで家庭での愚痴をふんわり聞き及んだりしている)、距離感のふたり

ぬるまった炭酸水を飲みくだす待っててなんて言えやしないのに
学年と停留所だけわかってる、あとはもうちょい喋りたいのも
弟の名前を先に知っていてこの子のことはまだ呼べてない
いないのに押さないとって思ってる点かないままの降りますランプ
何組、と初めて聞いた いまさらと笑ってくれるだけでよかった



お題:台詞「それでもよかったのに」「ひどいひと」「幸せになろう」+関係性「お互いに肩を並べて隣にいて同じ景色を見ていると思ったのにいつの間にか見てる景色が変わってしまった2人」

幸せになろうね四葉のクローバーあるだけ摘んできみにあげるね
泣くほどのことじゃないってあやしてた僕は愚かな道化師だった
こんなときばっかり口が回るのをひどいひとって詰ってもいい
クラウンに抱きしめられて息絶える僕はそれでもよかったのにね
君とならどこまでだって行けるって思ってたのはほんとだったよ



0114
お題:「パスタあと何束あった?」という台詞

そんなには買わないくせに買いもの用カートを引くの大好きだった
パスタあと何束あった? 覚えてる、このときはまだ日が差していた
茹でこぼす茹でこぼされる熱湯の側にいつから立ったのだろう
スプーンを使ったところでおんなじのぜんぜん上手く巻けないパスタ
賞味期限切れのソースをぶちまけてようやく泣けたわんわん泣いた



お題:煙草

大切にしたいんだってそれっぽく だけど手遅れだよって思う
首筋に指を這わせた真綿よりきみにやさしくできるだろうか
副流煙 そばにいるから意味のある言葉は他になにがあるっけ



0115
お題:対角線にある二人の共通点が見える瞬間

(あ、ほくろ)鏡写しになる位置にきみのほくろがあって気になる
ばーかって呟くイントネーションがそっくり同じで振り向くふたり
同じだけ進んで同じだけ戻る永遠にする人生ゲーム
補色ってどっちがどっち? ふたりして相手の色のが好みだなんて
向き合ってばっかじゃだめなこともある例えばきみと手を繋げない



0116
映画 PERFECT DAYS

叶わないものとわかっていたくせに今度こんどと重ねた声は
さよならのそぶりを何度見ただろうこの先何度思い出すだろう
まぶしいと目を伏せるにはやわらかくそれでも忘れがたい木漏れ日



春になったら#01

泣き声で始まっていくものだって這い出る先を光としたい
今はまだ両の瞳が滲むまで笑ってたいよ 笑わせててよ
何回のゆびきりをして叶えたかきっと教えて春になったら



0123

爆速でつんでくいちごはあまくって歯痛になっても食べてんだろう
Ctrl+C Ctrl+V Ctrl+Z(コピペして元に戻して)コマンドが使えないってバグのある日々
耽溺、の意味を調べる不意打ちで(よくないことに)なんて言われる



春になったら#02

どんまいとほんとに思っているとおり言ってくれるの僕は好きだよ
友達のまんま大事なひとになる分岐はどこにあったんだろう
春までのうすい日差しが白波とおんなじくらいまぶしい いたい



0125
お題:恋人との予期しない別れ

寝室のカーテンくらい引いといてって言ったの先週だっけ
ぬるま湯じゃうまく溶けない(知ってるよ)インスタントじゃやっぱだめだな
ぐちゃぐちゃな布団を直せば直すだけ熱は逃げてく 君はいなくて、



0126
お題:まつげ

まばたきの度にちかちかするようできみは最近やけにきれいで
まつげって触れようとした瞬間にひとのものって思ってしまう
マスカラを念入りにして式へ行く決して泣いてなんかやらない



0127
お題:「冷蔵庫に生クリーム(泡立て済でもそうでなくても)がある」という状態

まだ今日も特別になるスーパーでらくらくホイップ買って帰ろう
へいきだよ シフォンケーキを敷きぶとん生クリームを毛布とおもう
とろとろとねむりにおちる明日には苺のショートきみにあげたい



お題:朝焼けor 朝の月

なんらかの手違いがありここにいる始発電車はしばらく来ない
お月さま取り残されてかわいそう、とかってわたしを棚に上げてる
朝5時のマクドナルドは明るくて何にも見たくなかったのにね



0127
いちごつみ50首 偶数首:昨さん



0130
春になったら#03

ほんとうにはしゃぎたかったきみはもういないのだけどそれでもいいか
何回も書き直してはぐちゃぐちゃになってく手帳 消したくないよ
大切にしたいのだって嘘じゃない、ないけど、ごめん、ごめんね、ごめん

log:202401 アイドル短歌

0101

何度でも巡り合うだろう(怖くない)いくらも前に振られた右手
過去はもうないし未来はまだなくて現在地だけ確かめていく
願うより先に叶うよ、叶えるよ 降りそそぐのはいつもひかりだ



0108
末澤誠也(PRIDE)

その辺に放っておかれた額縁の埃を払え 錆びちゃないだろう
ひび割れた鏡の中の誰かには顎を上げろと叫んでやった
雷鳴を 何回だって轟けよ絶対膝をついてやるかよ


正門良規(復活LOVE)

さよならのかたちに動く唇のやわさは終ぞ そうでしかなく
きみはもうどこにも行かずおかえりの言葉は二度と意味をもたない
言いかけ、てやめる冬には吐く息が色づくことを幸いとして



0110
祭 GALA

大げさと笑われようと板上でなければもはや息もできない
きみに降る花も雨滴も祝祭の 光の渦のただなかにいた
白色の埃は美しく回るはじまりのおわりおわりのはじまり



0122
Snow Man
デビュー4周年おめでとうございます!

痛くない、はずない傷もそのままに光は遠く彼方から来る
ふざけてるふりでこっそり撫でたのはたった今までそこにいたのは
無敵って口パクで言うおまじない真っ直ぐずっとライトが灯る
渡せないものがこの身にひとつだけ(仕損じるなよ)息を吸い込む
むずがって泣いちゃわないで目をあけて怖いことなら消しておくから
雨じゃなく晴れを集めて君にって理屈じゃなくてそう思うんだ
珍しい色した雲を見てふっと連絡をする それだけでいい
右足をはじめに前へ、歩き出すリズムは鼓動そのものだった
叫ぶよりもっと豊かにほがらかに大好きだって全身で言う




0124
KANJANI∞ 20FES 〜前夜祭〜

光っててほしくてごめん光ってることをよすがにしちゃってごめん
この歌のここのフレーズ聴きなれているのはあなたじゃないってだけは
走ってく どうしようもなく走ってくリズムをそれでもいいと思った



0129
お題:アダムとイヴ(関ジャニ∞横山さん・大倉さんユニット曲)

過ちであるとわかって手を離す美徳といえばそうなんだろう
半分に割った林檎を渡すのは、いつからだろう、貴方ではなく
せめてもの餞として一度だけ身もだえるほど欲しがってくれ
ぐらぐらと煮えたぎるのは糖蜜の はたして罪はわたしが犯す

#自選10短歌集2023 のこと(感想)

#自選10短歌集2023 を読んで、短いですが感想を書いていきます。
note.com


わりと感覚的な、ふわっとした文章なのはご了承ください。
感想というか、読んで思ったこと、思考の断片というかんじです。
また、大幅な誤読や失礼な表現などもしあれば教えていただければ幸いです。
何かあればお題箱までどうぞ → しまのお題箱 (@shima_071) | お題箱


◆更新履歴
2024.01.17 071~079まで
2024.01.14 067~070まで
2024.01.12 049〜066まで
2024.01.11 033~048まで
2024.01.10 017~032まで
2024.01.09 001~016まで


001 鉛丹さん

またの名を「呪い」と言われる愛だから修正ペンで消しておいてね
アイドル短歌的に読みました。「呪い」にもなりかねない「愛」、身に覚えがありすぎる。「消して」おくけど、それは「修正ペン」でなんだなあと思って、結局なくなりはしないというか……ずっとそこに残る、痕跡が見てわかる、ということについても考えました。まっさらになるよりいいのかな。

002 ショウリュウ ヨクトさん

どうせなら一生法螺を吹いてくれたとえば明日星を食うとか
「法螺を吹」く内容が「明日星を食う」なの、あまりにも好きでした……。どうしたらこれを思いつくんだろう、すごいなあ、とぼんやりしてしまった。
10首目「奈落でも世界の果てで歌っても君とわかるよ、だって君だよ」も大好きです。「だって君だよ」の説得力。シンプルな言葉だとは思うのですが、これ以上ないなって思います。

003 昨さん

星屑は消える間際に輝いて 観測してた私を責める
美しい佇まいの短歌だなあって一読して思いました。過不足がまったくない、とも感じた。上の句のまぶしいくらいの光に対して、最後は「私を責める」で終わる、ある種の厳しさや痛みもあって。でも、そこから受けるマイナスの感情だけではない、きんと張りつめた美しさも感じて好きでした。

004 ナカモトハルさん

しっかりとだきしめられてておもたい なんなんですか 冬なんですか
冬の重たいアウターをしっかり着込んだ人に、真正面からぎゅうっと抱きしめられる、ところを想像しました。物理的にも重たいし、多分、そうやって感情を渡されることも重たいときがある。上の句すべてひらがなで、体に感じる重たさ・徒労感のようなものもあるなあと文字を打ちながら改めて思いました。下の句のどこかぼんやりとした問いかけにもそういった雰囲気がある。

005 碓氷さん

きらめきのすべてをあげたい 君にだけ降る幸運がありますように
これだけ真っ直ぐな言葉をそのまま詩歌に変えて、嘘のようには感じられない、確かな言葉にできるのがすごい……!難しいことは何も言っていなくて、「きらめき」の言葉のとおりまばゆいのに、本当なんですよね。すごいなあ……
7首目や8首目で特に感じたのですが、描写される色彩が本当に美しくって……ぱっと目を引くような緑や黄、輝いているなあ、と思います。

006 独活部さん

パセリって強いんだってあの人の隣が取られたわけじゃないって
「パセリ」は基本的にメインにはならない、そっと添えられている存在だと思っていたので、「強い」と言われて一瞬考えました。が、その後に続く内容を見て、それは確かに強い、と納得できました。卑屈にならない、したたかな強さがある。独活部さんの短歌は伸びやかで、日向で感じるぬくみや、電車やバスで聞く楽しげな明るい話し声のような雰囲気があるなあといつも思います。

007 鷹野しずかさん

永遠を君にあげたいシークバー止まったままの配信画面
ライブ配信アーカイブを、配信期間のぎりぎり(なんだったら数分すぎ)まで見ていたことを思い出した。永遠って本当にはないんだなあ、と、度々思いもするけれど、ないからこそあって欲しいと願うし、永遠に近しいものというか、永遠を目指すものをまばゆいと思うのかもしれない。ものすごく抽象的だけれどそんなことを考えました。

008 ささむらえみこさん

雪解けの水が光になり落ちるメープルシロップちょっとかけすぎ
情景が浮かぶなあ、と思って読んでいって、「メープルシロップ」が出てきて、わあと思った。繋がりが思いもよらなくて楽しい。そして比喩表現がどんぴしゃすぎる、確かに光がこぼれ落ちていく様子って、メープルシロップがたっぷり滴り落ちるときの色をしている。「ちょっとかけすぎ」の、困り笑いをしているような終わりもいいなあ。好きです。

009 ショカさん

ドブ川も君にかかればカシオペア喉に降る泥は星くず
「ドブ川」という言葉にぱっと目をひかれて、でも続くのは「カシオペア」。この取り合わせ、どうやったら思いつくんだろう……すごい……。どういうことだろう?なんの比喩なのかな?といろいろ想像が膨らむ短歌でした。
他9首も読みながら、必ずしもすべて57577のリズムにはまっている訳ではないのですが、全体にさらりと声に出して読めるリズムで、それがすごく不思議で魅力的だなと思いました。

010 はるなさん

トーストにバターがじゅんわり染みわたり少しの焦げも輝いていく
「じゅんわり」が、もうそうとしか思えず……おいしそう……これからトーストを食べるときはこの短歌のことを思い出す気がします。個人的にはトーストを焦がすと、ああ……と打ちひしがれてしまうのですが、焦げすら「輝いていく」のがすごい。他9首もそうなのですが、まっすぐに明るい短歌をつくられる方だなあ、と強く感じました。まぶしい。でもからりとしていて、押しつけがましいようなところがまったくない。すごく素敵なバランスだなあと思います。

011 椎野カミゴヤさん

カレンダー愛の数だけ丸つけたサラダつくるの追いつかなくて
すごく幸福な情景だなあと思って……。たとえば誰かに会うとか、ライブとか、楽しい予定をカレンダーに書いていくのは誰しも経験があると思うのですが、その頻度というか、「サラダつくるの追いつかな」いくらいの「愛の数」があるのか!という驚き。こんな風に好きなものへの感情を表現できるんだなあ、と思いました。

012 さいとう(西藤智)さん

開けないアプリの増えた夏が過ぎ だけどしれっと笑いたいよね
アプリゲームのサービス終了のことかな、と思うのですが、この下の句が本当に好きです。もちろん悲しいし納得できない怒りや憤りだってある、だろうけれど、「しれっと笑いたい」とするその気持ちの強さ。自分の感情にきちんと向き合って、気持ちの置き場を正しく見つけようとしている、その姿勢が本当に格好いいなあと思います。他の短歌にもそういった凛とした空気を感じて好きでした。

013 あくにんさん

枯らしたくないと干される切り花の色と香りと時の移ろい
ドライフラワーのことが浮かんで、確かにあれはいずれ枯れてしまう花を、出来る限りそのまま留めておこうとしているものなのかな、と思ったりした。本当ならただ枯れていくだけの花を、そうやって手元に置いておこうとするのは、もしかしたらこちらのエゴでしかないのかもしれない。でもその花を美しいと思ったのは、その色や香りを好きだと思ったのは本当なんだと思う。

014 ゆり呼【渡邉裕美】さん

切なさの 月を見上げるその先に 望んでいたのは あなたの手でした
素直な歌だなあ、と感じて、そのまっすぐさに惹かれました。「月」という遠い存在に対して、望むのは「あなたの手」という、身近であたたかさのあるもの。手は繋げたのかな、繋げていたのならいいな。わたしもそんな風に素直に思えました。

015 みもりさん

南十字星みたいで 優しさという輝きはどこに居たって
どことなくさみしさがある短歌だなあ、と感じて、そこに惹かれました。「南十字星」が見られる場所は限られていて、作中主体が日本にいるとしたら、基本的には見られない。それでも確かに空にはあって、他の星と同じように輝いている。その輝きが「優しさ」というのもまた、どこかやわくてさみしいな、と思って好きでした。

016 山本ほらさん

不器用な俺でもできることがあるケーキをこわさず持ち帰られる
ケーキを買って帰る道って、たまにすごく怖くなります。ふつうにしていれば特に崩れもせず行けるのだろうけど、もしかしたら不意に何かが起こって、この手をぱっと離してしまうかもしれない。箱は地面に叩きつけられて、ケーキはぐちゃぐちゃになるかもしれない。そんな想像。「不器用な俺」がケーキをちゃんと持ち帰るのにはどれくらいの注意が必要なんだろう。そうしてそれはどれほどの意思や感情なんだろう。

017 Dr.ギャップさん

いつまで、の問いを恐れる 永遠とはあなたのことではなかったのか
「永遠」……!!となりました 永遠、好きな要素すぎる。「あなたのことではなかった」の絶望感、と思ってから、そもそも「いつまで」と問いかけられることは、終わりがある、と不意に気付かされてしまうことでもある…と思い至り、すっと背筋が冷えるような気分になりました。構成が格好よくてそれも好きです。

018 おばけちゃんさん

次に会う時は銀河の真ん中で 百年先の予定を立てて
「百年先の予定」ってめちゃくちゃいいな……と思いました。そういう、先の予定、誰かとの約束があれば、それをよすがに生きていけることがある。また、「銀河」という言葉を目にしたときに、アイドルのコンサートで見るペンライトの海を連想しました。これはかなり勝手な想像ですが、どれだけ先でも、お互い別の存在になっていたとしても、またいつか同じ場所で、ペンライトの光の中で巡り合えたならそれはとても幸運なことだと思う。

019 遠山エイコさん

ちょっとだけいつも傾いてるマイクになれたらいつも触れてくれるね
か、かわいい……!! 情景がリアルに浮かんできました。「マイクになれたら」という発想、どこから出てくるんだろう、すごいなあ……。それもふつうのマイクじゃなくて「ちょっとだけいつも傾いてる」という描写があるのも、イメージが膨らみやすくてすごい。
2首目の 舞い降りたペガサスは言う「翼など休ませる、君と歩きたいんだ」 もすごく好きです。SF(すこしふしぎ)っぽいというか、ファンタジーのような雰囲気がある。そしてかなり情熱的だなと思います。

020 十文字八千代さん

「これを見るまでは死ねない、あとこれも」生きる理由はいくつでもいい
本当にそう……と思いました。生きる理由、たくさんあればあるだけいい。それをこんなに真っ直ぐ詠めることがすごく素敵に感じます。
8首目も、すごく覚えがある風景で……「また会えたら」という約束、「消して」しまったのかな、どうだろう。消していなかったらいい、と思うけど、消してしまうときの気持ちもまたすごくわかります。

021 一榎さん

手作りの綺麗な方を手渡してくれることを愛と呼ぶのだ
「綺麗な方」、すごくよく分かる。そんな愛のかたちがとても愛おしいし、こうやってやわらかなかたちで表せることが素敵だなあって思います。
3首目の「お返しだって三倍くれる」のもとっても好きです。全体に視点がやわらかく穏やかで、春の日差しみたいにぽかぽかしていて……こんな風に短歌を詠めるの、いいなあ、と深く思いました。

022 屋上エデン(岡田美幸)さん

恐竜の絵本注文してあるし嫌なこと全部踏んでもらおう
とっても好きです。繰り返し読みたい。読んで自分のお守りにしたい。そんな風に思いました。「恐竜の絵本」の時点で好きなんですが、「嫌なこと全部踏んで」もらえるんだ……という、その着地が本当に大好き。嫌なこととか理不尽なこととか腹の立つことって生きている間たぶんずっとあるけど、それはそれとしてどうにか生きていかないとならなくて、そのときにこの歌があれば、かなり心強いと思う。

023 中野イサオさん

くたくたに ふらふらになり もみくちゃになり ぼろぼろである
会社でもうどうにもならないことがあって、心がぼきぼき折られて、帰るにしたって満員電車の、もうどうやっても乗れないだろ…みたいな中に入っていくしかなかったときのことを思い出しました。つらい。でもこうやって歌になっていることで、ああ、わかる、と思える。自分だけじゃなかった、と少しだけほっとする。
8首目の「夢によく来る」もすごく好きです。どことなくさみしい空気があるんですけど、さみしいだけじゃなくて、人肌のぬくみ、のようなものを感じる短歌だなあって思いました。

024 月ノ華さん

SHOWDOWN やるしかねーだろ?後はない 全てを賭けろ、カンダタとなれ
二次創作短歌ということで、対象になっているものをわたしは知らないのですが、短歌としてすごく惹かれました。格好いい。カンダタは「蜘蛛の糸」の盗賊……でいいのかな。
表題の短歌もかなり格好いいですよね、痺れる……。「推しの未来に全てを投ず」とまで言い切れる対象=推し、それだけ魅力的なんだろうな、と思いました。

025 しま

自選のかんたんな振り返り記事もあります。よければぜひ。
2023年 短歌・アイドル短歌振り返り - scrap


026 遊佐さん

夕暮れはただの景色と思ってた あなたがいると美しいんだ
こんなに素直であたたかい告白ってないな……と思って。どんなにきれいな夕暮れも、心が動かなければ確かに「ただの景色」なんですよね。あるのが当たり前というか、特別に意識もしなくなっていて、見ているようで目にも入らないことだってある。でもそれを塗り替えるのは「あなた」の存在なんだ、という……素敵だなって思います。
いい加減繰り返し言いすぎてますが5首目も大好きです。かみさま、コンパス持って描いてくれるんだ……と思ってきゅんとする。

027 すいさん

才能は分水嶺を流れない お前と何を分かち合えたか
格好いい…!!と痺れました。そもそも「分水嶺」という語が出てきて、これだけびしっと決められるのがすごい。過不足のなさ、美しいな~…と繰り返し読んでしまいました。
そして9首目、こちらの短歌、はじめて目にしたときからほんとうに大好きです。「岸」という名を持つ人にあてる短歌としてこれ以上ないっていつも思います。

028 熱湯さん

晴天に傘をさしだす泣き顔を見せないために隠せるように
すごくすごくやさしい歌だなあ、と感じて好きです。「泣き顔」を「見せない」のも「隠」すのも、相手を思ってのことだと思うんですよね。心配をかけないようにとか。と、ここまで書いて、泣いているのは傘をさす人なのか、さしかけられる人なのか……とはたと思いました。どちらでもあるのかな。どちらにしてもやっぱりやさしいなって思います。

029 悠未さん

深淵を覗きませんか? 憧れがきらめいていた夢の底とか
「夢の底」でもう……苦しくなってしまって……ぎゅうっと胸を掴まれるような、痛みもあるけどその苦しさ、切実さがとても好きでした。深淵を覗くとき深淵もまた……というフレーズがぱっと浮かんで、となるとこちらを覗き返してくる「夢の底」にいるものは、一体だれなんだろう。アイドル短歌的に読んだので、たとえば叶わなかった夢だとか、その夢を抱いた人だとか……だともう本当に苦しいなと思って、そういう部分もたまらなく好きです。

030 古迫ねねさん

あの頃は石ころだった僕達が夢と野望と相思相愛
「夢と野望と相思相愛」、よすぎる。口に出して言いたい。アイドル短歌として読んだので、ジュニアやまだ進む道もはっきりしていない存在が、それでもやりたいこと・目指したいものをたくさん胸に抱いて、ぎらぎらした目でずうっと上を見つめて(いっそ睨みつけて)いるようなイメージが浮かびました。

031 黒江さん

遠くって海より遠く?スマホすら捨てられなかったくせに遠雷
スマホすら捨てられなかったくせに遠雷」が好きすぎる。この無駄のなさ、言い捨てるような最後の「遠雷」。どこか遠くに行きたいね、みたいな、叶わないと知っていて口にする望みについての返答なのかなあ、なんて考えつつ読みました。
この短歌だけでなく全体に凛とした雰囲気があって、どの短歌も格好いいな~…と噛みしめてしまった。こういう雰囲気、かなり好きだなあ。

032 千愛さん

あのねって 紡ぐ先には きみがいて 溢れる言葉 聞いてほしいよ
かわいい……!!こんなに素直に短歌へ変えられる感情をお持ちなの、本当に素敵だなって思います。10首すべて好きな方やグループへ向けられたもの、とのことで、読みながら何だかぽかぽかしてくるというか、勝手に幸せをおすそ分けしてもらったような気持ちになりました。

033 しまおかさよさん

そうっとじゃなくってぎゅっがいいなんてLINEで言うなばか。走り出せ
「ばか。」で終わらず「走り出せ」と続くのが…めちゃくちゃいいですよね…。言っているのが「LINE」なのも効いてる、かんじがします。ラインとかメールとか、生活のかんじというか、身近なものを効果的に使えることに憧れがある……格好いいなあと感じました。全体にむずかしい言葉はなくて、普段の等身大の言葉のようなんですが、だからこそ真っ直ぐ届いてくる短歌だなあと思いました。好きです。

034 夏野さん

歓声を食べてるひとの双眸に宿る琥珀は火よりも熱い
ぱっと見たときに漢字の多い、かちっとした雰囲気を感じるんですが、読んでみると目の前にその情景が浮かんできて、描写の確かさに驚かされます。何て言ったらいいんだろう、わざと難しくしているのではなくて、すべて必要だからここにある、というか……。そこ以外にないんですよね、ここがいちばんしっくり来る場所、しっくりくる表現。精緻だなあと思います。

035 線香さん

大人っていいものですか 丸まった背中が愉快そうに揺れてる
この短歌だけではないんですが、情景描写が本当に丁寧で正確だなあと思います。ぱっとそのシーンが浮かぶんですよね。「丸まった背中」の持ち主はきっと、悪くはないよって答えてくれるような気がします。
5首目の「絡まったお気に入りのネックレス だいじょぶよって解いてくれた」も…本当に何回言うんだってかんじなんですけど、大好きなんですよね…。改めて読んで、やっぱり好きだなあって噛みしめました。

036 yugureさん

盲目でいいよわたしの目を覆う両手がきみのものであるなら
はじめて見たときの衝撃をそのままに、今ここで読んでも同じように感じます。「盲目でいいよ」から始まって、「きみのもの」へ繋がるこの構成……。読み終えて、ああ、と思わず声が出てしまう。少しの諦め、どうしようもない、とわかっていて、でもそれに見合うだけの覚悟があるような、腹を括ったような、そんな空気も感じる短歌だなあと思います。

037 いとさん

「きみは星」なんて最初に言ったのはわたしだったね わたしだったの
「わたしだったの」がもう……よすぎる。本当には言ってなくてもいいんだと思うんですよね。「わたしだった」と思うことが、そう思いたくなる対象がいることそれ自体が、得難く大切なものなのだと思う。ここからはより一層主観的な話になりますが、アイドルを星であるとか輝かしいものであると捉えることは時として残酷にもなると思っていて…でもそう思うこと、星だと定義することを、覚悟の元にしているような、そんな強さも感じました。

038 あんさん

半券をもぎられるとき楽しみの半分がもう過ぎた気がする
わ、わかる~…!!と思わず声が出ました。舞台なりコンサートなり、チケットを持っていって、入口でそれを手渡すまでがいちばんどきどきするようなところ、ある。もちろん観に行ったもの自体も楽しみには違いないんですが、そこに至るまでの高揚感もすごく大事だなって思います。次の「会いたいと思えることがバロメータ きみに会いたいわたしでいたい」も、すごくよく分かるなあと思って何度もうなずいてしまった。

039 しましまさん

21時届くメールで1日の終わりを知る よく生きました
わたしもWEBの日記を見る習慣があるので、めちゃくちゃわかる…!!となりました。自由更新になっていても決まった時間にずっと更新してくれるアイドル、本当にありがたい……(もちろん自由なのでいつ更新しても/しなくてもいいのですけど、やっぱり読めるとうれしい)。「よく生きました」の締めがすごく効いてるなあと思ってすごく好きです。

040 せのびさん

ピノどころじゃなくて雪見だいふくもくれそうだから絶対言わん
雪見だいふくもくれ」るの、かなりの愛だ……と思って、「くれそう」な人ってどなたなんだろう、と想像が膨らみました。具体的なお名前がわからなくても、すごく魅力的な人だってことがストレートに伝わってきて好きです。
表題の「200色あんねんにかなり説得力持たせてくれる君の姿は」もすごく好きで……ぱっと見て、あのことだ!と分かるフレーズを効果的に使えるのすごいな、いいなあ、と思いました。

041 春さん

俺たちとみんなにそれぞれの人生 おかえりを言う さよならがある
「さよならがある」……!!個人的な話になりますが、応援しているグループからメンバーが脱退する、という事象を複数回経験しているため、ぱっとそのことが浮かんで、ぎゅっと胸を掴まれたようなきもちになりました。でも苦しいだけじゃない、湿っぽくならなくて、どこかからっとした空気を感じるのは、「おかえり」の力なのかなあ、なんて思います。

042 千野さん

寝るんなら布団で寝なね賞味期限切れた酢昆布食べるのやめなね
愛だなあ、と思いました。生活感というか、実家で声をかけられているような雰囲気、少し雑なんだけど確かにあたたかい。「賞味期限切れた酢昆布」が絶妙なのかなあ……。賞味期限が切れているもの、で「酢昆布」ってなかなか出てこないような気がする。
他の9首も、全体にむずかしくない言葉で、さらりと読める雰囲気なんですが、どういう背景なんだろう?と思う要素がちょこちょこ含まれていたりして、なんだか気になる…と繰り返し読みました。

043 残星さん

ホルマリン漬けでも悪くないのです いのちはどうせ美しいので
「どうせ」が本当に好きで……。「いのち」という言葉には、どうしても前向きな明るいイメージがついてくるように思うのですが、「どうせ」という少しだけ投げ出すような言葉と組み合わさると、こんな風になるんだ…!という驚き。意外な組み合わせなのに不思議としっくり来る。
2首目「星くずのかたちをしてる紙ゴミもきみの感情なら光るんだ」もすごく好きでした。「きみの感情なら光る」っていいなあ。

044 わらびもちさん

愛ならば地上であげるよお姫様アフターだったら宇宙がいいな
「アフターだったら宇宙」ってめちゃくちゃいいなと思って。この言葉の取り合わせ、どうやったら思いつくんだろう。すごい。10首目の「睡眠は臨死体験」も同じようなインパクトがありました。言われてみると確かにそうだな…と思うんですが、自分だと思いつかない言葉の並び。やわらかな発想ですごいなあと思います。

045 入瀬さん

ばいばい、としろくあかるい指先が揺れてばいばい、点くな客電
「点くな客電」が…本当によくわかる…と思って。舞台やコンサートを観に行ったときの、アンコールもぜんぶ終わってふっと、公演終了を告げるアナウンスが流れ始めるときのことを思い浮かべました。あのときのわたしの心情だ、と勝手に感情移入してしまった。
10首目「あふれないようにあつめた星たちをいまならぜんぶきみに渡せる」もすごく好きです。星を「ぜんぶきみに渡せる」だけの感情、すごくきらきらして、素敵だなあって思いました。

046 るねさん

照明に照らされ0に立つ君は祈るみたいにマイクを握る
もうこの情景がそのまま目の前に浮かんできて、その確かな描写、言葉の選びかたがすごいな~…と深く感じました。自分が見たものをそのまま伝えるのって、やってみるとかなり難しいところがあると思うのですが、この短歌は本当に、ぱっとイメージが出来て……すごいなあ。

047 。さん

冬に咲く向日葵だけの花束は地獄へ続く片道切符
どういった背景があるのかは分からないんですが、一読してどきっとして……「向日葵」という、夏の明るいときの花が「冬に咲く」違和感と、「地獄へ続く片道切符」というどことなく不穏なイメージ。怖いけど気になる短歌でした。
5首目「将来の夢は神になることです きみに飴だけ降らせたいから」もすごく好き。「飴だけ降らせたい」っていいなあ。

048 貼゜さん

星が燃え尽きる間際の煌めきが一番綺麗であってたまるか
大好きです。もうこの無駄のなさ、ばしっと決まっていて本当に格好いい。アイドル=星というのはどうしたって浮かんでくるイメージなんですが、星っていつかは燃え尽きるものなんですよね。そう考えるとかなり残酷なことを思っているのかも…と思うことも多々あって。それに対して「一番綺麗であってたまるか」、こうやって言い切ってくれることの強さ、正しさ。本当に素敵だなあと思います。

049 月食さん

快速に陳列された足の数たまに奇数のことがある夏
少し怪談っぽいというか、どうしたらこんな風に詠めるんだろう…と何回も首をひねってしまう。発想もそれを短歌にする力もすごい。「快速に陳列された足の数」、自分が電車に乗っているときも数えてしまいそうです。奇数になっていたら怖いからやめた方がいいかもしれない。
月食さんの短歌は、とにかく理知的なのが魅力的だなあと思っているのですが、10首目「億千の光は光である、しかしまばゆい順にID.01」のように理知的でかつ情緒的であるのが本当にすごいなと感じます。

050 偏頭痛さん

流星群の中でたったひとりだけ私に向かって降ってきた星
星は…もう…アイドルを語る上で必修科目なので…(???)「たったひとりだけ」っていいですよね。あなたとわたし、ひとりとひとりで向かい合っているような、不意にぱっと目の前が開けて、ぴかぴかに輝く存在が現れたような、そんなイメージが浮かびました。
他の短歌も、言葉自体が輝いているような、祈りとして発せられた声がそのままきらめくような、そんな印象を受けました。

051 杜さん

ほんとうに光ることない星でした 流星になってはじめて燃えた
この短歌が本当に好きで……好きです(告白)。「流星になってはじめて燃えた」の…なんだろう、ままならなさ。それでも最後には光ったのだという、そのことを救いと思いたい。そんなことを考えました。
4首目「夜更けまで共に過ごした馬鹿騒ぎで君より長く起きていること」もすごく好きです。すっと受け取れる、やさしい言葉で紡がれる詩だなあって感じます。

052 穂村さん

君のこと傷つけるこの世のすべてサンドイッチにして食べちゃいたい
こんなに大きな愛ってありますか……?と思って。「サンドイッチにして食べちゃいたい」、よすぎる。どうしてこの言葉が、この詩が出てくるんだろう。ここから先は本当に(今まで以上に)個人的な思いの吐露ですが、穂村さんの短歌は、わたしには作れない、と思うもので。読むたびに正直悔しいような、苦しいような、それでもどうしようもなく好きだな、と感じる短歌です。

053 シノノメユフさん

生理痛 ミニストップのハロハロを諦めて何が女の幸せ
この短歌を詠んでくれて本当にありがとうございます、と言いたくなった。「何が女の幸せ」、格好よい……。こう言い切ってくれたおかげで、今まで自分が諦めてきたいろいろなものが、この先ももしかしたら諦めるしかないものが、ほんの少しでもうかばれる。
9首目もすごく好きです。全体にさばけているというか、湿っぽくならず、自分の感情を一歩引いて眺めているような空気を感じる短歌だなあと感じました。好きです。

054 あきさん

花束を優しく包んでいつまでも枯れない魔法をかけて渡すね
やさしい……(;;)こんなにやさしい愛、と思って、すごく素敵だなあと感じました。「優しく包」むのもやさしいし、「いつまでも枯れない魔法」……。こんなにたっぷりの愛を渡されるひとも、渡してくれるひとも、どちらもすごくすてきなひとなんだろうな。
7首目「いつの日か火星に住める日が来ても変わらず光っているんだろうな」も好きです。火星かあと思って、やわらかな発想がすごくいいな、好きだな、と感じました。

055 綴さん

目尻から溢れたものは星であるあんまり楽しい夜だったから
すてき……!と思って、友人と飲んで喋って、笑いすぎて涙が出てきたあの夜を、ライブを観て、泣きたいわけでもないのだけど、涙がこぼれて仕方なかったあの夜を、いくつも思い出しました。これからそういう夜に「目尻から溢れ」てきたものは「星」と思う。そう思うんだとおもう。
4首目「天国の犬は体温だけ還りぬるめの風呂で私をつつむ」も大好きです。わたしは犬を飼っていないのですが、でも、天国の犬、わかるなあ……と強く思った。「ぬるめの風呂」な体温。

056 寸さん

雨 ビニール傘を伝って落ちた ただ眺めるだけの日も悪くない
情景描写がうつくしい~……と思って好きです。「ただ眺めるだけの日も悪くない」の温度感も好き。4首目「視界ならいつも良好 澄み切った空を見上げて首を痛めた」もそうなのですが、少しドライなかんじ、平温で紡がれる詩の空気がすごくツボでした。特別な、劇的なことがなくたって、日常に詩はあるんだなあと強く感じる。

057 maruさん

髪を梳く誰も殺したことがない訳じゃないのにそんな振りして
「殺した」という語に一瞬ぎょっとして、でもこの短歌に含まれる大きくて強い愛情表現に、すごく惹きこまれました。「そんな振りして」、いいなあ……。相手に触れていいんだろうか、この手で、と思いながらも、せめて何も知らないような、何の罪も犯していないふりで、やさしく触れるんだろうなあ、なんて想像しながら読みました。

058 ヤマモトさん

ただ走れ何者だろうとひた走れここにボールが来ると信じて
「何者だろうとひた走れ」、めちゃくちゃ好きです…!!プロフィール欄を拝見して「THE FIRST SLAM DUNK」の二次創作短歌なのかな?と思い…映画を見てはいない=作品を詳しく知らないんですが、それでもすごく魅力的な短歌だなあと感じました。格好よい……。

059 ぺちかさん

ざわめきをかき消すことも生むことも 全ては君の思い通りに
読んでおもわず、あっと声が出ました。ざわめきって確かに、そのひとによって「かき消」されもするんだ……という発見。ライブが始まる前のざわめき、声が発せられる、音が響く前の一瞬、息をのむあの静かな時間を思い出して、こんなにあざやかに描き出せるんだ、すごいなあと噛みしめてしまった。

060 朱子さん

この春の桃は特別 あなたからピンクを預かって開くから
「あなたから~」の部分がたまらなく好きです。「特別」な「桃」のひみつをそっと教えてもらったような高揚がある。ひとつ前の短歌 「夕焼けが美しいのはこの夜を特別にするためなんですよ?」 にも似たような喜びを感じました。とっておきのひみつ、特別にうつくしい、何かすごくよいものを渡してもらったような。

061 やわぬのさん

延々と永遠いのる のろいだと分かっていても消えてあげない
どういうことなのか読み取れたわけではないんですが、すごく気になる短歌でした。口に出してみたくなるところがまず好きです。「延々」と「永遠」の音のかんじ。「いのる」「のろい」とひらがなで書いてあるのにも意図があるのかな。個人的な感覚として、ひらがなになっていると一音一音をより丁寧に発音する、ゆっくりと口にする、ような傾向があって。「消えてあげない」の通り、いつまでも残るかんじがあっていいなあと思いました。

062 古月ももさん

掬っては青ではないと確かめて安心するため海に行きたい
「海に行」く理由としてこういった内容が来るとは思わず……どういう背景なんだろう?と考えたくなる短歌でした。たしかに海って、遠目で見たときと、実際の水の色と、ぜんぜん違いますよね。そんな色について「青ではない」と思うことが「安心」に繋がるんだなあ、という…自分にはなかった感覚なので興味深く読みました。

063 戸田静さん

光に夢を見つけた少年 ステージに立つため生まれてきたひと
もう…この…つながりが完璧じゃないですか? 完璧だ、と思って、何回も読んでしまった。「ステージに~」というこのフレーズにつながるものとして、「光に夢を見つけた少年」の、もうこれ以上ないはまり具合。そういう「少年」が今までどれほどいたんだろう。これから先どれだけいるのかな。

064 加藤悠希さん

澄みて澄みてどこまでも澄みわたる空よ 空をゆく風 無限に聞き取れてゐる
「澄みて澄みて」からのつながりが美しくって……音読したくなるリズムだなあ、と感じて、実際口に出して読んでみました。やっぱりすごく気持ちのいい音と響きなんですよね。それこそ「空をゆく風」の爽やかさのような、その音を聞いているような。57577のリズムとは違うんですけど、そのずれもまた、吹き抜ける風のように感じられるなあなんて思いました。

065 くぼたむすぶさん

いつもより可愛い靴を履いたので定時で推しに会いに行きます
かわいい…!!!すっごく好きです。こんなにまっすぐ素直に詠めるの、いいなあ……。もう絶対定時で会いに行ってほしい。定時間際に何か業務を持ちかけてくるような人がいたらわたしが押し留めておくので颯爽と職場を出てほしい。ついついそんなことを考えてしまいました。

066 花依ゆずさん

私には重すぎるもの押し付けてごめんね でもね生きててほしい
「重すぎるもの」ってなんだろう、と思って、続く「生きててほしい」を見てああ…と思わず声が出ました。それが「重すぎるもの」になるのか、そうか、という……頭をがんと殴られたような感覚。わたし自身、好きなひとに対して、幸せでいてほしいとか、そんなことを思ったりもするんですけど、それもすべては「生きててほしい」の延長線上にあるんですよね。生きるのって結構、ふつうに大変なことも多いのに。すごく苦しいけど、大切なことを教えてもらったような気がします。

067 ましもさん

まぶしくて手が届かない星でいて同じなんだと知るのは怖い
「同じなんだと知るのは怖い」…!!頭をがんと殴られたような衝撃がありました。「星」にたとえること、「星」のような存在でいてと願うこと、にはある程度覚えがあるというか、そういう存在でいてほしいとどうしても願いがちなんですが、その理由にまで考えが及んでいなかったなあ、と自分を振り返ってみて思いました。

068 たこわさ子さん

輝きを覚えててくれTシャツよパジャマに生まれ変わった後も
ライブグッズのTシャツ、ライブに着て行った後は部屋着にしがちなので、わ、わかる~…!!と頷いてしまいました。「輝きを覚えててくれ」が本当に大好き。割とさらっと(?)部屋着として着てしまってたんですが、確かにこのTシャツはあのライブの、あの光と音を浴びていたんだな…と思い返してより愛おしくなりました。

069 早藤尚さん

この色を選ばなかった頃何を選んでいたのか記憶にない
「この色」をメンバーカラーとして読んで、すごくわかるなあ…と思いました。複数色あるときにぱっと手に取る色、今はもう決まっているんですけど(紫かオレンジ)、アイドルを好きになるまでのわたしだったら、オレンジはまず手に取らなかったなあ、とか。
8首目の「諦めるコツ覚えたし上手く好きでいられてる気するきみのこと」もすごく好きです。「上手く好きでい」るのって、結構難しい。こんな風にさらりと言えるようになりたい。でも同時に、さらりとしているからこそ「諦める」やりきれなさも際立つ気がして、ぎゅっと切なくなりました。

070 柘榴の君さん

わらびもちだいふくしらたまぷりんぐみより喰い付きたいあなた。もちゃもちゃ。
おいしそうな食べものが並んでいて、いいなあやわらかそうだなあ、と思っていたら「喰い付きたい」が来るインパクト。そして「あなた。もちゃもちゃ。」の語感。文字で読んだときのちょっとした違和感(句読点がある珍しさ)。全部が組み合わさって、「もちゃもちゃ」食べられる「あなた」をリアルに想像してしまいました。食べちゃいたいほどかわいい、愛おしい、ってことなのかな。苛烈だけど、でもとてつもなく深い愛情表現なんだろう、と思います。

071 澄さん

行間に溢れた君のすこやかを拾い集めておむすびにする
「すこやか」、そして「おむすび」が大好きすぎて……。この語の繋がり、納得感しかない。しかも「行間に溢れ」てるんですよね、そこもいいなあと思いました。「君」がどんな人なのかは分からないんですが、すごくきもちのいいひとなんだろうな、と感じます。まっすぐで、誠実なかんじ。そして使う言葉もきっとまっすぐなんじゃないかな。でも本人は気負いなく過ごしてるんじゃないかな、なんて想像を膨らませてしまいました。

072 福山桃歌さん

魂も奪っていてよ そしてまた返してもらうため会いに行く
「魂」を「返してもらうため」ってめちゃくちゃいいですね…!!わたしはライブに行ったとき、ここに来るだけちゃんと頑張ってきたか、と自問自答するのが習慣なんですが、 そうか、魂を返してもらうために会いに行って、また奪われて、っていう方もいるんだな…と。ライブやアーティストとの向き合いかた(当然ながら)その人それぞれ違って楽しい。
8首目「ひかりとはきみのことだから落ちていく夜の底でも息ができてる」も大好きです。どうしようもないときに好きなアーティストの楽曲をお守りみたいに聴いたことを思い出しました。

073 にうむさん

好きなとこ10個数えた手のひらで指の長さを想う 11
最後の一字あけ後の「11」が…ふっと気が付いてしまったかんじがしてすごく好きです。10個、両手の指の数だけ、ってかなり多いと思うんですけど、それでも尽きない、という表現……。でも何となく、そういう自分を俯瞰で見ているかんじもして、その加減もいいなあと思いました。
8首目「残業で(ホント)道路が混んでいて(ホント)録画も忘れてた(ウソ)」も、やっぱり俯瞰しているかんじがあってツボでした。内容としても、個人的にもすごく覚えがあるというか…自分のことを言われている気がしてどきっとしました。

074 ヲガタさん

終わりも始まりもaiで終わるのふしぎだねってわらうとこじゃん
ほんとだ…!と思ってから、つい声に出して確かめてしまった。ai、あい、愛。「ふしぎだねってわらうとこじゃん」のかんじが絶妙だなあと思って、そこがすごく好きです。「わらうとこじゃん」という言いかたは、愛って改めて言うのは少し照れくさいから、いっそ笑ってほしい、みたいな感情からくるのかなあ、なんて考えました。

075 杏湯さん

泣きたいと思った夜に泣く場所がきみの星にもありますように
なんてやさしさなんだろう、と思って、数回読み直しました。何回読んでもやっぱりやさしい。「きみの星」だから、わたしとは違うところにいる、そのことも分かっているけど、もし「きみ」にもつらいときがあるなら、と想像するやさしさ。
次の「なんだって願ってほしいやさしさはぜんぶ巡ってほしいとおもう」も特別やさしいなって思います。こういう心持ちでいられるようになりたい。

076 飄さん

劇場の顔から駅の顔になる 蛍光灯が帰るよ、と言う
こちらの短歌が本当に大好きで…もういい加減好きと言いすぎてますがとにかく好きです。日常と地続きの感覚がすごく瑞々しく表現されているなあといつ読んでも思う。3首目にある「よい子の私は規制退場」、6首目「単四3つの閃光は死ぬ」といった表現も同じく、わかる~となる事象・感覚を、こんなにあざやかに詠めるんだ!とびっくりします。
10首目「ステージと客席の距離を理性だと言いつつ醜い恋が止まない」で終わるのも、連作として見たときすごく格好よいなあと感じました。この締め、すごい……。

077 パン粉さん

「誰推し?」聞かれても応えたくないし、「人気だよね」でまとめてくれるな。
ああ~……と深く頷いてしまった。わかる。わかる、とこんな簡単に言ったらよくないかもしれないけれど、でもわかるなあと思いました。句読点があるのも効いているなあと思います。もう絶対「誰推し」だなんてそんなこと言ってくれるなよ、という気持ちの強さを感じる。
2首目はアクスタや一般発売チケットを購入するときかな?と思って読み、こちらもすごく共感しました。「偶像」としている、そうと分かっている視点、そのバランスがすごくいいなあと思います。

078 昭田さん

悲しみよ 波に攫われても最後は私の元に帰ってきて
「私の元に帰ってきて」がすごくいいなあと思って……。「悲しみ」ってわりとネガティブなイメージがあって、あまり自分の元にない方がいいかも、と感じていたので、「帰ってきて」ほしいのがはじめは意外でした。でも、「悲しみ」だって自分の感情には違いないんですよね。それが「波に攫われて」しまうということは、勝手にどこかへやられてしまうということだから……、そう考えると、きちんと自分の感情、自分の痛みとして抱いておこうとする姿勢は、すごくまっすぐだし、誠実だなと思います。

079 アナーニ事件さん

幸福は摂理ではない きみという獣は足を血に濡らし行く
格好いい!というのがいちばんの印象でした。他9首についても、すべての背景・意味を汲めたわけではないのですが、言葉の選びかた、構成がとにかく格好いい。ぴしりと伸びた背筋、遠くを眺め渡す視線、を連想しました。「幸福は摂理ではない」、どうしたらこの言葉が出てくるんだろう……。すごいなあ。