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短歌と感想ほかまとめ

log:202403 短歌

0301
「短歌桜」参加作

目の前をよぎる桜はあの街のまたは舞台の上にのみ咲く


0302
花束を抱いたあなたはまっすぐに飛び立ってゆく この先は春

にせのほし題詠
001 正義
善いものになりたいなれない全身に真綿の縄が絡みついてる
002 告解
あやまったやつから楽にしてやれる告解室の重たい扉
003 口ずさむ
特別なところは何にもないぼくの名前もきみにかかれば歌に
004 ピッチ
息が詰まる。僕の奏でる音程はいつも正しい場所をなぞった
005 カトラリー
特別なときに食べると決めているケーキにそそぐ明るいひかり
006 滲み
くたびれた体をソファに投げ出してわたしは部屋の大きな滲み
007 いいひと
(どうだって)いいひとなんていませんよ 本当に、って言ってやりたい
008 予感
ああきっとわたしあなたをすきになる たとえば揺らす爪の血色
009 トランジット
乗継ぎを待つあのひともあのひともまぶしいみんな行き場があって
010 翼
ぼくだけの飛べない翼、いいでしょう あなたの分はあなたが誇れ



0303
にせのほし題詠

011 ポーカーフェイス
飄々、とたぶん書けないきみなのにわたしばっかりこんなに好きで
012 ロードムービー
毎日が休前日とするならば暗くならない映画をえらぶ
013 砂の城
この城をいつか崩れるものとして建てたことさえ抱きしめていく
014 グリッター
偏光をきみは見ないね 知っている それでもグラデはきちんとつくる
015 紡ぐ
一音を決めかねる夜があるためにわたしの骨は成り立っている
016 やきもち
やきもちを焼いたところで許されるあの子みたいになりたかったよ
017 罠
かわいげの意味を調べておそらくは「-がない」例だと気づいてしまう
018 奇跡
両の手に残ったままの生傷をいいものみたくされてたまるか
019 くすぐったがり
こそばゆい顔して笑ってくれるから何回だってほめちぎりたい
020 きらきら
きみにならシュガーレイズドドーナツのレイズド部分をあげたっていい



短歌ワンドロ「ライブ」

キーボード、PC、機材に囲まれていくつも音を奏でる天使
舞台上スポットライトを浴びながら天使が低く鳴らしたベース
カウントが天使によって刻まれる スネアドラムのかすかな響き
週末になったらふっと現れる天使はギターを弾いてるらしい



0305

深く息を吐いて潜ったおふとんの奥に銀河があるのはひみつ
すり減っていったわたしの断面がせめてまあるくありますように


0309
春になったら#08

おなかから大きい声を出していくこわいばっかでいられなくって
動けなくなっちゃう前にエプロンを自分ではずし襷としたい
焼きつける、のは比喩じゃなく 眼裏のあなたを何度思うのだろう



0310
お題「ホワイトボード」または「黒板」

縦書きのときだけ無敵 左手で握ったチョークは迷わず動く

うっすらと浮かんだきみの落書きのゆるいカーブを指で辿った
日直の名前を大きく丁寧に 呼びかけられもしないあなたの



癖短歌(例え一緒にいる事で不幸になったとしても側に居たい考えすぎる人と、その人が幸せでないなら一緒にいなくても構わない能天気な人のすれ違い)

この先はひとりで行くよ、大丈夫 泣いてくれなくたっていいんだ
桜の木 たとえば重い亡骸をおまえと一緒に埋めたっていい
指先が冷えてていたい いたかった 離れてやっと気づくだなんて



0314

告白の仕方も知らないぼくなのに何でか愛の手紙は書ける


0317
春になったら#09

スターにはなれなくってもきみたちがいてくれるならぼくを選ぶよ
ファインダーの向こうがぼんやり光ってて撮っとかなきゃって強く思った
指きりの代わりいくつも口にした、春になったら、が忘れらんない



0318

平日のやり過ごしかたを教えてよ あんまり難しくないやつを


0321
春になったら#10

わがままのオンパレードを人生でたったの一度許してほしい
ただいまが宙に浮かんで消えていくからっぽの家 はやく帰ろう
ああ そうだ ぼくたちを見る瞳には光が多く含まれていた



0327
題:青

壊れちゃう一瞬前の瞬きの ブルースクリーンは美しかった
この春に色を塗るなら透きとおる朝の光の淡さを選ぶ
ほんとうは違う色だと気づいてる それでも青って呼んでてあげる
底抜けに明るい空のただなかでからっぽになるまで泣いとけよ
永遠にしたくて肌の刺青を撫でてくおれを謗ってもいい



0330
題:雨になったら

来週の天気予報がようやっと雨になったらあなたに会える
どこにでも売ってるビニール傘だってきみから借りたがつけば特別
髪の毛の先から光がこぼれてく拭いちゃう前にかるく見惚れた



春になったら#11

一歩だけ先に進んで待ってるよ 春の空気を吸いこみながら
いくつもの、春になったら、の営みをあのとききっとぜんぶ愛した
ぼくたちは光を焼きつけ生きている永遠なんてないとしたって



0331
題:岸

いくつもの生活がありいくつもの感情があるひとりの岸辺
最後までまぶしく過ごす人にさす強いひかりを覚えていたい
こんなにもひとりの人の幸福を願えた おれはそれでよかった
結局は敬称付きで呼んでいて誰も何にも憎めなかった
さっぱりと笑った子から溢れてく春の陽気に包まれている