0801
町中の、むくげ、あさがお、さるすべり、昼のにおいを抱きしめている
夏中の、むくげ、あさがお、さるすべり、強い日差しを頬に受けてる(改)
0802
くたくたの帰りの電車よりもっといいとこで読む新しい本
0804
入って、のかわり日傘は傾いて右半分がじんわり熱い
0805
2時間目プールのあとの教室をたゆたっている僕らおさかな
0806
地下鉄の出口へ向かう階段で青く染まった19時を見る
0807
立ちのぼる雨のにおいに咽せそうで胸のあたりに貯めとく空気
ずたぼろになってもいなきゃなんないのなんでだろうね 目が覚めなくて
0810
何年も経ってようやく撫でられる生傷もある風があたって
0811
9月には閉まってしまうカメラ屋のディスプレイには色があふれる
0813
真昼間と夕べが混ざり合っている水彩絵の具を溶かすみたいに
0815
題:アイス
あ、好き、ってパピコのちっちゃいとこを吸うきみを見たときひらめいたんだ
0816
なんとなく顔を上げたら近かった、で許されるはずの接触
ばいばいが上手にできる/できないのどちらかに丸(備考:さみしい)
繋いでた手と手をほどき友人に適切だろう位置まで下がる
0817
目の前を横切っていくシャボン玉消えちゃうものはずっとまぶしい
夜風って呼ぶにはぬるい8月を部屋着で泳ぐ 終わってしまう
0818
感情の粗熱をとるタッパーにせっせと詰めておく作り置き
0820
いいねって押せないまんま流れてく すぐ見失う 喉が痛くて
ほんとには分かんないかも知んなくて、だけど思いを巡らすことは、
0821
題:お知らせ
あのときのメールは二度とひらかないフォルダの底で眠り続ける
【祝】頭にでかでか書いといて【うれしい】でもいい おねがい
もう何年経ったら平気? 振り向いた先でわたしがうずくまってる
0822
題:ちょっと怖い短歌
朝一で一回保存したきりのエクセルファイルが応答しない
リビングにおりたら誰もいなかった二度と姿を見かけなかった
両手からぱらぱら落ちてひとつずつ薄れてしまうわたしの名前
ああ夢か 夢でよかった 終わったと思った夢がずっと覚めない
0823
何回も振りかけている塩胡椒泣きたいのってどんなんだっけ
0826
いたくなさいきてたくなさいちばんに立ってた場所へ電車は来ない
0830
わたしにはわたしの仕事 銀行へ、シアター前の人波を抜け
ここじゃないどこかとしての弊社ビル斜向かい地下レストラン街
塩ラーメン半炒飯付このスープ涙ってよりちょっとしょっぱい
強そうなアップルソーダ午後いっぱい生き抜くための経費で落とす
あなたにはあなたの仕事 十六時、遠くから見る青いポスター
0831
映画 ラストマイル
朝起きるご飯を食べる家を出る職場に入る ロッカーの、鍵、
着膨れたジャンバーのなか段々にちいさくなっていく父を見る
警鐘はずっと鳴ってた 秒針のつもりで聞いてなかっただけだ
壊れてもひとつも変わらなかったよ上昇してくパーセンテージ
届かないことはないって思いたいわたしにもまだ朝日は差して