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短歌と感想ほかまとめ

相互題詠のこと

2023年11・12月に、3名の方と「相互題詠」をしました。
その記録及び自作解説をしたいと思います。

はじめに、これは相互題詠に限ったことではありませんが、解説とは言いつつも、そう読まなければいけないという訳ではありません。もちろん、違った解釈をしたらだめということは決してありません。わたしの短歌やブログを読んでくださる方には、自由に楽しんでいただければと思います。

ちなみに、相互題詠ってなに? という部分については、鷹野さんのこちらの記事が詳しいので、知らない方・気になる方はぜひご参照ください。


3回分の相互題詠について、ひとつの記事にまとめたので、結構なボリュームになりました。見出しをつけておきますので、適宜ご利用ください。



1)2023.11.18 遊佐さんとの相互題詠

 ― 首数:6首固定
 ― 題:コスメ

すぐどっか行っちゃうリップばっか買う才能なんてあるはずもない
面の皮(物理)が保つだけの下地ってここ扱ってます?
花の名のついたチークを指先で軽く叩いた 粉々になれ
急募・可愛げのある女の子 何にも叶いやしないんだって
ゴミ箱に放ったときが最高の発色らしい無難なシャドウ
安売りのメイク落としで適当に消してあげるね、ばいばいわたし


総括

はじめにお題を見たとき、正直、割と不得意な分野だ…! と思いました。「コスメ」、ほぼ詠んだことがないレベル。自分だと選ばない、出てこないお題をもらえるのが、相互題詠のよいところです。
おそらくかわいらしいもの、華やかなものにする方が、お題には沿っているんだろうなあ、とは思いつつ、なかなか詠めず……。最終的にはいつも通りというか、自分の素直な感覚でいこう、と決めてこんなかんじになりました。ちょっと暗い。あとコスメに興味なさそうなのがびしばし伝わってくる。興味ない訳でもないけど、通勤のときとかは面倒が勝ちますね……。
6首あるので、何となくメイクの工程をなぞっていきたいな、と思って作りました。なので連作の並びはそんなかんじになっています。下地だけで終わってるのでめちゃくちゃ中途半端ではありますが……マスカラとかも入れられたらよかったなあ。

すぐどっか行っちゃうリップばっか買う才能なんてあるはずもない

リップ、なくすよなあ、という歌。あとそもそも塗るのを忘れる(折角買ったのに)。ちゃんと使い切れたことない気がします。
一応上の句で切れるイメージでしたが、「すぐどっか行っちゃうリップばっか買う才能」と繋げて読んでも訳わかんなくて面白いかな、とも思っていました。割とろくでもない才能。しかもその才能すら「ない」ので救いがない。

面の皮(物理)が保つだけの下地ってここ扱ってます?

「つらのかわかっこぶつり」と読んでもらう想定。こういう、括弧書きを入れたりするのは、あんまり使いすぎると効果が弱まるかな……とは思いつつ、好きなので結構使ってしまう。連作の中にひとつくらいなら入れてよしという自分ルールがあります。
文末の「?」も普段はあんまり使わないので、これは自分としては結構イレギュラーな短歌でした。

花の名のついたチークを指先で軽く叩いた 粉々になれ

「粉々になれ」あたりにメイクへの意識の低さというか、あんまり好きじゃなさそうなかんじが滲み出ている。メイク用品、色の名前とかかわいらしいものが多くて、見ている分には好きなんですが、自分がそれを使うかは別……みたいな感覚がずっとあります。自意識の拗れ。

急募・可愛げのある女の子 何にも叶いやしないんだって

「きゅうぼてんかわいげのあるおんなのこ」と読むと音数が合う。これも若干イレギュラー寄り。
この短歌を作っている間、割とメンタルがたがたかつ今後の身の振り方に悩んでいたため、求人広告風の短歌になりました。また、これは笑い話ですが、新卒1年目のとき、当時の上長に「○○さんっていけしゃあしゃあとしてるよね」と言われたことも頭にあった。今思い返すとなかなかひどい言われようだな。

ゴミ箱に放ったときが最高の発色らしい無難なシャドウ

この辺りも……メイク嫌いなの? ってかんじの短歌ですね。色やラメのかんじ、綺麗だなあとは思っているんですが。社会人になるとどうしても、ほとんど会社用のメイクになってしまうので、シャドウも何もかも無難な色味を選びがち。
あと確かこの頃、身の周りのあれこれを整理していて、実際にもう使わないなっていうシャドウを捨てたりもしていました。使い切れない化粧品類、たまにがさっと整理するとめちゃくちゃすっきりします。

安売りのメイク落としで適当に消してあげるね、ばいばいわたし

最終的に「メイク落とし」が出てきた。洗顔でもよかったんですが、より一層雑で肌に悪そうなもの、と思ってこうしています。しかも「安売り」だからよりだめっぽい。メイクの工程を(かなりざっくりではありますが)なぞっていって、最後ここで終わる、という構成を思いついて、きちんと収められたのはうれしかった。

その他

わたしから遊佐さんへお渡しした題は「嫌いになれない」でした。
遊佐さんの短歌にある、ちょっとおしゃまな女の子のようなかわいらしさ・感情の瑞々しさが好きなので、感情をテーマにおきたかった。ただ、好き/嫌いだとストレートすぎるかな? と思ったので、少しひねってみました。
また、内容によっては短歌にもアイドル短歌にもなるかな、と思っていました。元々好きだった人(担当)についてとか。


2)2023.11.28 綴さんとの相互題詠

 ― 首数:4〜6首の間で自由
 ― 題:街

休ませてください、とだけ言う電話 発車ベルってずっとうるさい
無くたって何ともなんなかったって習いたかった泣いたってなに
フィルターでいえばガゼット色あせた路地には僕が立ち尽くしてる
街灯がぶれてほんとうよりきれい乱視でよかったのはそれくらい
輝けない星へ毛布を シャッターが上がるときまでそばにはいたい


総括

なかなか思いつかず苦戦した連作でした……。5首目だけ先に思い浮かんでいて、でも全体の構成も組み立てられないし、そもそも短歌自体が上手く作れなくて、どうしよう……と途方に暮れたおぼえがあります。
「街」というテーマは、自分としては得意な分野のようにも感じていたのですが、どんな街にするか・どういった展開を作るかを決めかねて迷走しました。5首目だけ作ってしばらく動けず、次に1首目が出来たんだったかな。この短歌を作れたことで、何となくではありますが全体の流れが決まった気がします。2023年夏頃からの自分の不調については、別途「ある故障」という連作も作っていたのですが、今改めて見ると、その流れに近いようにも思います。
ちなみに3首目を除く4首には共通点があって、最後の2音がすべて「街」と同じ「ai」になっていました。「(うる)さい」、「なに」、「(それく)らい」、「(い)たい」。

休ませてください、とだけ言う電話 発車ベルってずっとうるさい

ほぼ実話。メンタルがおしまいなとき、どうにか家は出たものの、そのまま仕事に行くのがしんどくて、駅のベンチで何本も電車を見送ることがありました。これ以上見送ると流石にまずい、という辺りでよろよろ出社したり、がんばれないときはそのまま会社に電話して休みの連絡を入れたりしていた。本当にしんどいときは休みの連絡すら入れる元気がなかったりするんですけどね……。そうなる前に手を打った方がいい、というのは経験談

無くたって何ともなんなかったって習いたかった泣いたってなに

ちょっと遊びに走った短歌。これも、連作の中にひとつくらいならイレギュラー短歌を入れてもいい、という自分ルールに則っています。とにかく「無」いかんじを出したくて、ひたすら「な」の音を入れています。
「泣いたってなに」は、学校や会社で泣いてしまう=普通ではないことについて、それを聞かされた側が言いがちな台詞、と思って入れました。泣きたくて泣いた訳でもないのにさらに問い詰めるように言われるの、つらいよなあ、という短歌。

フィルターでいえばガゼット色あせた路地には僕が立ち尽くしてる

これだけ作りが若干違っています。最後の2音が「ai」ではなくて、「立ち尽くしてる」で終わる。そのことで本当に、どこにも行けないかんじが出るといいなあと思っていました。
ガゼット」はX(旧Twitter)の写真加工用フィルターのひとつ。街の情景として、このフィルターの少し色あせたような色味がイメージとしてあったので、そのまま持ってきました。画像を添付するとき、わたしはよくこのフィルターを使います(蛇足)。

街灯がぶれてほんとうよりきれい乱視でよかったのはそれくらい

これもほぼ実話。一度外出したときに、出先で目と頭が痛くなり、コンタクトを外したことがありました。裸眼視力が0.1ない+乱視が入っているので危ないといえば危ないんですが、通い慣れた道を戻るだけだったので、そのまま歩いて帰ってきた。
そのときに見た街灯がやけにぶれて綺麗だった。ただ、綺麗だなと思って写真に撮ろうとしても、見ている通りには写せない。乱視でぶれて見えているので、写真に撮るとそのぶれが歪みがなくなって、すっきりしすぎてしまうんですよね。そういう短歌でした。

輝けない星へ毛布を シャッターが上がるときまでそばにはいたい

連作の中で、いちばんはじめに作った短歌。「輝けない星へ毛布を」のフレーズだけぽんと浮かんで、そこからどうするべきか決まらず、うんうん悩んでいました。
「シャッターが~」は後から付けたんだったかなあ……1首目とリンクさせるようにして作ったような記憶。1首目が駅の話なので、そこに繋がるように「シャッター」を入れたんだった、はず。実際には何ができるでもないけれど、でもそばにはいたい、何も考えていないわけではない、気持ちとしては寄せている、という……言い訳がましいかもしれないけれど、そんな祈りを込めていました。

その他

わたしから綴さんへお渡しした題は「体温」でした。
シンプルに、「体温」、好きなんですよね……。創作の中で出てくるとうれしくなる要素。綴さんの短歌は、わたしには到底作れないなあと思うタイプのもので、そういった方にこのお題を渡したらどうなるんだろう? 予想もつかないものが返ってくるんじゃないか? ということで、こちらをお願いしました。


3)2023.12.26 昨さんとの相互題詠(アイドル短歌)

 ― 首数:5~8首の間で自由
 ― 対象:関ジャニ∞ 丸山隆平さん
 ― 題:消せない 曲:赤い公園「消えない」

ぼくのことぼくがいちばんわかってる どうせお前はずっと消えない
綺麗事ばっか歌って(なんてこと、)イヤフォンを取る指の冷たさ
何回も聴いてた曲の歌詞なんてぜったい間違えたくはないのに
生傷はなくなりもせず痛くないふりだけやたら上手くなってく
踏み外す、ところで気づき足先は正しい位置に戻ってしまう
あたりまえみたいに僕を買いかぶる誰かをいっそ嫌いたかった
ちょっとくらい薄れてくれてよかったな あなたの声が今も消せない


総括

前2回とは異なり、特定の人物を対象としたアイドル短歌での相互題詠でした。題と曲を指定して行ったのですが、新鮮で楽しかった! 昨さんとは丸山さんが好きという共通項があり、かつ彼についての目線であるとか、見てきたものがかなり重なっているように感じていて……だからこそ、それぞれが連作を作ったときに出てくる共通点や違いがすごくおもしろかったです。
首数については、丸山さんのことを考える上で、7人のときの関ジャニ∞、というものがどうしてもずっと横たわってあるため、7首にしました。また、題と曲がリンクするようになっていたため、「消えない」で始まって「消せない」で終わる構成も、かなり最初のうちから考えていました。
全体としては、7首すべて丸山さんの視点のイメージで作っています。彼から見た現・旧メンバーやファン、そして彼自身のことを歌ったつもり。

ぼくのことぼくがいちばんわかってる どうせお前はずっと消えない

この「お前」は、旧メンバーの渋谷すばるさん・錦戸亮さんのイメージと、丸山さん自身のことでもありました。変わっていく歌割やダンスのフォーメーションの中でも、きっとすばるくんや亮ちゃんのこと、彼らの歌声や気配はなくならないんじゃないかな、というのがひとつ。もうひとつは、何だかんだといろいろあったって、丸山さん=ぼく=お前は、結局アイドルを辞めないでいる、消えないでいるだろう、という声が、彼の中にあるんじゃないかな、という……ものすごくわたしの主観でしかないですが、そんな歌でした。

綺麗事ばっか歌って(なんてこと、)イヤフォンを取る指の冷たさ

アイドルの皆さん、明るい歌を歌ってくれることがかなりあって、それはすごくありがたいんですけど、その思想であるとか前向き加減に心がついていかないこともあるんじゃないかな、という短歌。特にエイトは人生の応援歌っぽいというか、特に5人体制になってからのシングルはそういった傾向が顕著なので、ふっと我に返ることがあるんじゃ……と思ってしまった、わたしの考えがめちゃくちゃ出ている。
途中の(なんてこと、)は2つ意味がとれるように、というざっくりしたイメージがありました。ひとつめは「綺麗事ばっか歌って、なんてことを思った」という単なる独白。ふたつめは「(綺麗事ばっか歌って)今なんてことを考えたんだ自分は」という自覚、後悔、後ろめたさ。どちらにとってもらってもいいかなと思います。

何回も聴いてた曲の歌詞なんてぜったい間違えたくはないのに

これは具体的な出来事が下敷きにあって……すばるくんが抜けた後のライブで、元々はすばるくんが歌っていた部分の歌割を丸山さんが引き継いだのですが、そこを間違えてしまう、ということがありました。そのときのことを短歌にしています。
見ているこちらは、誰だって間違えることはある、と思うし、そもそも歌割が変わっているのだから慣れなくたって当然だ、とも思いますが、本人はそうは思えなかったんだろうな、絶対に間違えたくなかったろうな……とも強く感じた。繰り返し考えていた出来事のことでもあったので、この短歌は連作の中でもかなり早く出来ていました。

生傷はなくなりもせず痛くないふりだけやたら上手くなってく

丸山さんのことでもあり、関ジャニ∞の他のメンバーのことでもあり、ファンであるわたしのことでもある短歌。
生傷、ずっとあるんですよね。なくなりはしない。最近になってようやっと、傷があるなあと思って、傷の加減を見られるようになりましたが、それまでは傷を直視することだってしんどくて上手くできなかった。今だって思い出したように鈍く痛むことはありますが、でも、まだ少しマシというか、痛いなあ、痛いよ、と目を背けずにちゃんと思えるようになった気がします。

踏み外す、ところで気づき足先は正しい位置に戻ってしまう

丸山さんについて、馬鹿になれないというか、我を忘れられない悲しさ、みたいなものがずっとあるなあという気がしています。無茶苦茶な、訳わかんないようなことをしているようで、ずっとどこか凪というか、冷静さを捨てきれない。
グループにしても……たとえば、抜ける、辞める、という選択肢は、彼の中にもあったのかもしれない。それでも、結局戻ってきた、関ジャニ∞という場所に、今の立ち位置から抜け出さなかった、抜け出せなかった? という、そういう短歌です。

あたりまえみたいに僕を買いかぶる誰かをいっそ嫌いたかった

これは……なんというか、他の6首に比べてより一層わたしの主観バリバリな短歌です……。丸山さんは、すばるくんにしろ亮ちゃんにしろ、彼らは特別、自分とは違う、という意識をずっと持っているように感じていて。歌が上手いとか、人を惹きつける魅力があるとか。
でも、丸山さんにだって彼にしかないものって確かにあって、すばるくんも亮ちゃんもそれはずっと伝えてくれていたと思うのですが、丸山さん自身は素直に受け取ってこれなかったんじゃないかな、と……。マルはすごい、マルはやればできるのに、なんでやんないの、ってそんな風に言ってくれるのが、ありがたいけどちょっとだけ重たいような、うるさく感じるようなところがあったのかも、でもだからといって嫌いにはなれなかったんじゃないか。
本当にこれを書いていてちょっと恥ずかしくなってきました……どうにも思想強め。

ちょっとくらい薄れてくれてよかったな あなたの声が今も消せない

ここでの「あなた」は、すばるくんであり、亮ちゃんでもあり、メンバーでもあり、ファンでもある、というイメージでした。辞めてしまおう、消えてしまいたい、と思ったこと、少なからずあるんじゃないかな……と勝手に思っているんですが、その度に耳によみがえる声があるんじゃないか、それを忘れられないんじゃないか、というところから作りました。また、1首目の「消えない」ともリンクするようになっています。

その他

わたしから昨さんへお渡ししたのは、題「臆病」+曲「魔法の歌/PEOPLE1」でした。
題は、丁度その近辺で丸山さんのWEB日記を読んでいたところ、ファンからの「真面目」という評に対して「臆病なだけかも」といった風に返されていて……そういう自己分析なんだ、という驚きと、ああでも分かるかもしれない、という感覚と両方あって印象的だったので。
曲は、今回の相互題詠をやるにあたって気付いたのですが、自担のイメソンをほぼ持っていませんでした。丸山さんでどうにか浮かぶの、2曲くらいかもしれない。という訳で、この曲にするのはほとんど悩みませんでした。「臆病」というテーマともそう離れていないからいいかな、とも思っていました。


以上、いつもよりは詳しめに自作を振り返ってみました。楽しかった!
お読みいただきありがとうございました。ご感想などあればぜひお題箱まで。