0903
企画「地獄めぐりの旅」提出作
地獄とは言わないままに妹の死を語りゆく八月の祖母
覚えとらんことも多かと長崎に生きて幾度の夏をあなたは
首のない聖人像の前に立ち握られた手の強かったこと
0912
頼むからどっかにやっちゃわないでって聞いた気がして蓋を閉めとく
折りたたみ傘もいつかのヤマザキの皿もわたしも急に壊れる
カンカンへ大事になおしといたのにいっとうきれいなはずだったのに
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ざらざらの写真用紙が好きだった実家のアルバム捨てたんだっけ
好きじゃない人の手紙も破けないそういう風に出来てるみたい
月だって言っても大体なあにって聞き返される ううん、好きだよ
0915
痛いっていつから分かんなくなった眠れば楽になれてたのって
大丈夫 許されていた回答は残念ながらこれだけでした
パソコンもお茶碗だって壊れたら取っ替えるのに人って不便
0916
ある故障
乗り換えを急ぐあなたが間に合えば 間に合えばって思えればまだ
指パッチンできない方はあいにくと何にも変身いただけません
折りたたみ傘もいつかのヤマザキの皿もわたしも急に壊れる
目を閉じて、次の瞬間あっけなく消えられるよう祈っておいて
大丈夫 許されていた回答は残念ながらこれだけでした
うずくまり無くなりたいのにそこそこの音量で鳴るばかな胃袋
息継ぎの合間泣かずに済んだこと 白線だけが正しく見えて
画面から汚れは取れずひび割れは常にあったと気付いてしまう
からっぽになってもラムネ瓶は正 ごめんなさいは言わなくていい
0917
お題:朝
清潔な朝の光を浴びましょうそのまま消えてなくなりましょう
もう二度と来なくていいと拒まれる気分はいかが 新しい朝
この先が明るいことの証明を組み立てるうちまた朝になる
0918
お題:違国日記
いま何て言ったのなんて聞けてたのいつまでだっけ 忘れちゃったな
「雑踏のなかでいきなり繋がって」「喋ってたこと?」「とかさ、未来も」
かわいそうにはならないねわたしたち そこだけちゃんと聞こえた、さっき
なんだって答えてもらえる特権をどうして誰も僕にくれない
思うよりあなたは上手くやっていて憎いだなんて笑っちゃうよね
どこにでもいる顔をしてどこにでもいない誰かに憧れていた
0921
いつからかやさしくないって知ってたろう いいよぜんぜん、怒んないから
ぼくなんか嫌ってくれてかまわない、嘘つきだって笑ったってさ
ほんとうのことを言うとね、泣いているきみが好きなの ばかみたいでしょう
0922
お題:積読
新しい紙とおんなじにおいって僕にとってはいちばん好きな
とくべつな地層が家にあるらしい(これは新手のお誘いですか)
買ってきたばっかの文庫をてっぺんに ショートケーキの苺あげるよ
0929
お題:猫とネズミ
世界一有名な某ネズミでも猫とは一緒に住めないらしい
飼育下にあれば我々猫だってネズミ諸君を食いやしないよ
猫型のロボットをふと脅かして弱者とされる憂さを晴らした