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短歌と感想ほかまとめ

ネットプリント「ある故障」のこと

2023年9月26日に、ネットプリント「ある故障」を発行しました。
今回、そのPDF版を公開します。

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内容としては、9月16日にTwitterで発表した9首連作をベースに、8首を新たに加え、再構成したものです。
以下、簡単ではありますが、内容や作ったときに考えていたことなどを振り返ってみます。ただ、これはあくまで記録であり、連作をそう読まなければならない、ということはまったくありません。自由に想像して読んでいただければ幸いです。


1)9月16日Twitter公開版

 乗り換えを急ぐあなたが間に合えば 間に合えばって思えればまだ
 指パッチンできない方はあいにくと何にも変身いただけません
 折りたたみ傘もいつかのヤマザキの皿もわたしも急に壊れる
 目を閉じて、次の瞬間あっけなく消えられるよう祈っておいて
 大丈夫 許されていた回答は残念ながらこれだけでした
 うずくまり無くなりたいのにそこそこの音量で鳴るばかな胃袋
 息継ぎの合間泣かずに済んだこと 白線だけが正しく見えて
 画面から汚れは取れずひび割れは常にあったと気付いてしまう
 からっぽになってもラムネ瓶は正 ごめんなさいは言わなくていい


6月から9月にかけて作っていた短歌のうち、同じようなテーマ・背景と思われる短歌から構成した。どれもあまり愉快な内容ではないため、個人的には「どんより短歌」と呼んでいた。
まず、「どんより短歌」と思われるものをすべて抜き出してきて並べ、似た内容のものや、あまり気に入っていないものを弾いていった。並べてみると、繰り返し同じようなことを言っているのがよくわかる。そこまでで全体の3分の1くらい(約10首)にまで減った。
それから、全体の並びを考えていく。この時点で、「大丈夫 許されていた回答は残念ながらこれだけでした」をキーにしたらいいかな、という考えが浮かんでいた。「大丈夫」の意味をどう取るか。大丈夫? と聞かれて「大丈夫」と答える人は、実際には大丈夫じゃない、という話もある。

連作を組むときに、時系列で並べたり、何かストーリーをつけたりすると分かりやすい・読みやすいものになるかな、と思っているので、今回もその手法をとることにした。「大丈夫」の短歌を中心にして、大丈夫じゃなくなるまでと、その後、という並びにしてみることに。
あとは細かく並びを整え、表記も少しずつ修正していく。Twitterで発表する際に画像をつけるつもりだったので、文字を組んでみて、見やすいように調整。「大丈夫」の短歌を中心に、シンメトリーになりそうだったので、順番を入れ替えたり漢字・ひらがな表記を変えたりもした。結果、はじめの発表時とは若干変わっている短歌もある。
変更があった短歌の一例は次の通り。

 変更前 うずくまり消えちゃいたいのにそこそこの音量で鳴るばかな胃袋
 変更後 うずくまり無くなりたいのにそこそこの音量で鳴るばかな胃袋

「消えちゃいたい」→「無くなりたい」に変更している。これは字数を合わせたかったので、似たような意味の言葉へ置き換えている。「なくなりたい」とひらがな表記にするか悩んだが、より無のかんじが出るかなと思って「無くなりたい」とした。

2)9月26日ネットプリント版:形式

ネットプリント「ある故障」は、短歌17首をまとめたひとつの連作。
形式はA4用紙1枚。数だけを見れば17首あるので、小冊子形式にもできた。しかし、連作の内容を考えると、そこまでかしこまらず、あくまで軽く扱われるものがいいだろう、と思っていた。加えて、小冊子形式にすると、それだけ印刷代が高くなるのも気になった。
また、近い時期にフォロワーさんが発行されたネットプリントは、はがきサイズのもので、収録首数としても同じくらいだったので、そういった形もいいかなとは少し考えていた。しかし、やはり内容をふまえると、もっと雑に扱えて、そのうちどこかへやってしまってもいい、捨てるときにもまったく気が咎めないようなものにしたかった。

A4用紙1枚という形式は、以前にもネットプリントで使ったことがあった。その際、印刷してくれた方が「紙を折らずきれいに持ち帰るのが少し大変だった」とおっしゃっていたことが頭にあったので、どうしようかな、と引っ掛かっていた。確かに、A4用紙だと折っていいものか悩むかもしれない。クリアファイルなど、紙を挟んでおけるものをいつも持ち歩いている人もそう多くはないだろう。
しかし、この紙はありふれた紙なんだ、と思えばどうだろう。どこにでもある紙をきれいに持ち帰ろうと思うひとは、そこまで多くないはず。二つ折りにも四つ折りにもするだろうし、持ち帰るうちぐしゃぐしゃになっても、仕方なかったこととして済まされるだろう。
ありふれたかたち、すぐくしゃくしゃになる頼りなさ。学校や職場でもらうお知らせの紙のイメージが浮かんできた。ぱっと読んだらそれでおしまいで、すぐに捨てられたり、裏紙にされたりする。下手したらろくに読まれもせず、鞄の奥底でくしゃくしゃになっている、そんな紙。そう思ったら、内容ともきちんと合うし、これがいい、と自分の中でしっくりきた。

デザインも、あくまでシンプルに、と思って横一列で組むことに。
写真は数年前に撮ったフィルム写真。生活感のあるものがいいかな、と思ってベッドが写っているものを選んだ。確か友人とホテルお泊り会をしたときのもの。ひたすらだらだらする会だったので、ベッドの上が割と雑然としている。

3)9月26日ネットプリント版:内容

 乗り換えを急ぐあなたが間に合えば 間に合えばって思えればまだ
 繰り返し繰り返し寝る繰り返し日曜日って安心してる
 指パッチンできない方はあいにくと何にも変身いただけません
 半額のシールを剥がして手の甲に貼ったところで誰も買わない
 折りたたみ傘もいつかのヤマザキの皿もわたしも急に壊れる
 吐くときの泣きたい気持ち忘れてたそういやいつもこんなだったわ
 目を閉じて、次の瞬間あっけなく消えられるよう祈っておいて
 せめてもの殊勝な顔で受け取った分厚い聖書ばかみたいだね
 大丈夫 許されていた回答は残念ながらこれだけでした
 うずくまり無くなりたくてもそこそこの音量で鳴るばかな胃袋
 適切な傷つけかたが分からない包丁だって持っているのに
 息継ぎの合間泣かずに済んだこと 白線だけが正しく見えて
 スーパーで駄々をこねても許される人生ひとつ売ってください
 からっぽになってもラムネ瓶は正 ごめんなさいは言わなくていい
 もうずっと青信号を渡れない迷ったふりで道に立ってる
 画面から汚れは取れずひび割れは常にあったと気付いてしまう
 職業は会社員です(まだ)不要品って引き取れますか


前述の通り、フォロワーさんのネットプリントを手にする機会もあり、自分でも何か作りたい気持ちが膨らんでいた。何を題材にするか、と考えて、その時点でTwitter発表版「ある故障」が気に入っていたので、手を入れることに。

まず、ネットプリントにするにあたり、短歌はもう少し増やした方がいいだろうと考えた。わざわざ印刷してもらうのにTwitter発表版とほぼ同じというのも味気ない。
どう増やすか、と考えたときに、Twitter発表版の並びが不十分であることが気になった。不十分というか、その時点であるもので構成しているので、並びが半端に感じられていた。そのため、基本はTwitter発表版として、不足しているところを補い、全体としてまとまるように組むことにした。
はじめに、足らなそうなところに目星をつけ、どの辺りに新しい短歌を入れたらいいかを考えてみた。そうしながら、短歌を作り、まとめていく。この辺りは紙面デザインも合わせて、同時並行で進めていた(仮で組んでみて、バランスを見ながら短歌を作り足す、など)。
結果、新たにできた8首は下記の通り。

 繰り返し繰り返し寝る繰り返し日曜日って安心してる
 半額のシールを剥がして手の甲に貼ったところで誰も買わない
 吐くときの泣きたい気持ち忘れてたそういやいつもこんなだったわ
 せめてもの殊勝な顔で受け取った分厚い聖書ばかみたいだね
 適切な傷つけかたが分からない包丁だって持っているのに
 スーパーで駄々をこねても許される人生ひとつ売ってください
 もうずっと青信号を渡れない迷ったふりで道に立ってる
 職業は会社員です(まだ)不要品って引き取れますか

作った順番がどうだったか、細かいところは記録していないが、「職業は会社員です(まだ)不要品って引き取れますか」あたりが早かったはず。反対に、「せめてもの殊勝な顔で受け取った分厚い聖書ばかみたいだね」は、ネタとしては前からあったが上手くまとまらなかったもの。この連作を組み始めたらするっと出来た。

ひと通り短歌を作れたので、並びを決める。Twitter発表版を元にするとはいえ、その並びにこだわりはないので、一回ばらして、新しい短歌を含めて考えていく。
最初の「乗り換えを〜」はそのままにしたかったので動かさず、終わりをどうしよう? と思ったところで「職業は〜」にも「まだ」が入っているので、これを最後に持ってくることに。何となく、ループするかんじになった。「ある故障」は、あくまで故障=不調、不具合の話で、元に戻るところまでは行かない……というイメージがあり、それにも合致する。

全体の構成としては、Twitter発表版の、
「大丈夫」の短歌を中心にして、大丈夫じゃなくなるまでと、その後
という流れを活かしたいので、Twitter発表版に足りないと思われるあたりに、作った短歌を入れていく。
この作業をしているうち、Twitter発表版にある短歌と、新しく作った短歌を、交互に並べられるかも? と思いついた。これは完全に自分の好みだが、何か法則性がある方が作業しやすいし、作りやすい、というのもある。試しにやってみると、何とかなりそうなので、その線で進めることに。

そして更に、少し組んでみると、いちごつみ(=前の短歌から一語を摘み、新たな短歌を作る)とまではいかないまでも、前の短歌から意味を引き継いでくるような並びにも出来そうだ、ということが分かった。
これは、いちごつみではないが、「語だけじゃなく、句のイメージや読み取れた意味を根こそぎ摘んで、つづけてみ」る……という「川柳諸島がらぱごすvol.3」で行われていた「川柳九十九句摘み」を参考にした。

こちらの記事を読み、面白そう! やってみたい! と思っていたので、自分でやってみることに。
たとえば、1首目から2首目。

 1首目 乗り換えを急ぐあなたが間に合えば 間に合えばって思えればまだ
 2首目 繰り返し繰り返し寝る繰り返し日曜日って安心してる

単語は特に摘んでいないが、1首目で「間に合えば」を「繰り返し」ていて、2首目では「繰り返し」を2回言っている、という繋がりになる。
また、その他でいうと、少し前で書いた通り、最初と最後の短歌はどちらも「まだ」が入っているので、これは完全にいちごつみになる。
……と、いうようなかんじで、若干無理やりのところもあるが、前後の短歌でどこか繋がるような並びにしてみた。ちなみに、自分でも気に入っているのは、2首目から3首目と、4首目から5首目。

それからもうひとつ。真ん中を「大丈夫」の短歌にしていたので、そこを中心にして反転するような仕組みも入れることにした。
ここの並びは下記の通り。

 せめてもの殊勝な顔で受け取った分厚い聖書ばかみたいだね
 大丈夫 許されていた回答は残念ながらこれだけでした
 うずくまり無くなりたくてもそこそこの音量で鳴るばかな胃袋

「せめてもの~」と「うずくまり~」、どちらも「ばか」という単語が入っている。また、「せめてもの~」は「ばかみたい」という形容だが、「うずくまり~」は「ばかな」と言い切っている、という違いもあった。
さらに、「大丈夫」の短歌はキーになるものとして、他の短歌とは別扱いにするなら、この短歌を挟んで「せめてもの~」「うずくまり」もいちごつみ出来る(=「ばか」で摘める)。もうここまでくると完全に自己満足の域だが、考えている間は楽しかった。

並びが決まったら、あとは全体を見通してバランスを調整。この辺りは完全にフィーリングで、通して読んだときに詰まるかんじがないか? ぱっと見たときの印象はどうか? など、気になるところがあったらそこを見直す。
最後まで変更がかかった短歌は下記。この1首はTwitter発表版でも一度変更されているので、何というか、そういう役回りだったんだな……と思う。

 変更前 うずくまり無くなりたいのにそこそこの音量で鳴るばかな胃袋
 変更後 うずくまり無くなりたくてもそこそこの音量で鳴るばかな胃袋

「無くなりたいのに」→「無くなりたくても」に変更。これは、この次に来る短歌「適切な傷つけかたが分からない包丁だって持っているのに」とのバランスをとった。「のに」が続くのが気持ち悪いな……と思ったので。ちなみに、「適切な~」を変えるよりは「うずくまり~」を変えた方がやりやすかった。意味も変わらないし。あと変更後の方が、口に出したときの言いやすさが上がる、気がする。


というわけで、ざっくりではありますが、振り返りをしてみました。
改めて書いてみると、自分でも、こんなこと考えていたんだなあ……という発見がありました。これからも時々、こういう振り返り記事を書いていきたい。
何かあればお題箱まで。感想等いただけると大変うれしいです。