0601
言葉より早くまばたきより遅くフィルムへあなたを閉じ込めてゆく
0602
雨の日の硝子を拭うときの手ではじめて触れるひとの曲線
ちぐはぐな味とにおいのコーヒーもとうに慣れたよ きみのせいでさ
抱きしめるのってこんなでよかったか一緒の夜に分かんなくなる
0603
ほんとうは紅茶のが好きでもきみが挽いてる豆の音は知りたい
バス停の脇で香っていた枝にようやく気づく夜もあるだろう
何回か洗ったあとのやわらかいタオルできみを包ませてほしい
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わかってる どれだけ指を組んだってこれも等しく祈りではない
0613
海という言葉を使わず海を詠む
濁ってる水でもきみが指先で散らせばやたら欲しくなるんだ
水底で見上げた色がぼくの知るいちばんだった 泡になりたい
ここはまだ浅瀬だなんて嘯いてふたりは夜を知らんふりした
0616
嘘じゃないっぽいと思えるトーンでのよかったねが出せてゆるまる
画面から汚れは取れずひび割れはずっとあったと気付いてしまう
乗り換えを急ぐあなたが間に合えば 間に合えばって思えればまだ
0619
題:白玉
耳朶に黙ってふれてこっちのが食べたいなんていつもの声で
言ってないことのが多いありったけ冷凍フルーツぶちまけている
白玉の硬さはたぶん変わらないきみが隣にいなくなっても
0623
題:ずるい
きみのこと嫌いにさせて 凪いだ目にLEDの光は射さず
その時期になったら香る花だった忘れたくても忘れらんない
ずるいよね、ごめんねなんて平淡に笑った声も好きでやんなる
0624
題:わらび餅
バーコード位置は正しく思い出すあのとき何を喋ってたっけ
壊さないようにすすいで、自分より大事にできるものがあること
氷水 細い指環を眺めてる 欲しがるのってうまくできない
0629
題:すれ違い
きみがいたらしいソファの隅っこの凹みをなるべく撫でないでおく
すれ違いざまに一瞬抱きしめて分かったような気分にさせて
どこからがさよならだった すぐそばの顔をあんまり思い出せない