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短歌と感想ほかまとめ

log:202302 短歌

0205
題:電信柱・スターバックス・カレンダーのどれか→スターバックス

おすすめのカスタマイズは何だっけ 思い出すのはきみの声とか
凹んでる部分に多めのハチミツをかけるくらいは許してほしい
ふさわしくなれない僕は甘すぎたラテのカップを持てあましてる



0206
題:おばけ

もう人じゃないので可愛げなんてものはなから探さないでください
くっついていたかっただけ、触れたって温度はわからなくても、それでも
目が合った人がわたしをいるもののように見ていて泣いてしまった



0207
題:コレクター

吐く息が白くなるころ鼻先にあった泣きたい外気の小瓶
薄れてくあの一瞬の轟音と皮膚の震えを集めています
水彩の二度とおんなじ姿にはならない滲みを留めた標本

そのときの、そのときだけの音階をひとりの鼓膜に響かせている



0207
「リフレイン」

違うとこばっかのきみといたかった やけにココアが残っちゃってさ
あ みぞれ 別に信じてくんなくて(傷つかなくて)いいことばっか
人工のオレンジ色に照らされてぼくらは別の生きものだった
風が強い 耳を塞いでくれた手もざわめいていて怖かったこと
もうぜんぜん痛いとかない無造作にいつもの場所へ収めるピアス
皺になりにくい素材のシャツを着て何度もわたしを抱きしめている
大丈夫 まだ死んでない うす暗い給湯室で落とすケチャップ
そのときの、そのときだけの音階をひとりの鼓膜に響かせている
おすすめのカスタマイズは何だっけ 思い出すのはきみの声とか
くっついていたかっただけ、触れたって温度はわからなくって、それでも
アスファルトだって光って いつまでも上手くならないままの息継ぎ




0209
題:夜行列車

反対のホームばかりが明るくてここには誰もいないみたいだ
行きだけの切符に月光 撫であっているうちふたりじきに眠った
カーテンの向こうで笑う声たちを遠い世界のものとして聞く



0212
田沼朝「四十九日のお終いに」を読んで

血が出てることすら人に教わってようやく気づく これがすりきず
スイッチのひとつで消える室内灯あっけなくってなんでおれには
あいまいな体の上下まだ落ちてないというならそうなんだろう
見逃してもらってるのは線香のにおいにかぶせてつけた煙草の
離したくなくってずっと掴んでた、らしいとわかるひとつの成果
飲み終わるまで7センチ あと 多分おれよりおれを知っている人



0219
山手線ドア閉まります駆け出して行くのもぼくには難しくって
ラジオなら放送事故になるだけの空白ののちビールを頼む
上滑りしてる言葉をとめられずごめんねと言う 思ってもない



0222
短詩の風

誰が聞くでもない歌を口ずさむぎこちなくってもわたしの声で
できたての春は加減がへたくそで丸まる背中を強く押し出す
掃いて捨てられるものだと知っていて拾い集める花びらがある

上から2023年、2022年(修正)、2021年に作ったものでした。3首目のみアイドル短歌。



0223 
逃避行(仮)ってスケジュール立てといたからあとで見といて

逃避行するって聞いていいよって答えてもらうまでの永遠
真冬ってずっとまぶしい波を蹴る背中を押したくなって困った
あとからは見ない写真を何枚もやっぱ好きって思いつつ撮る
観覧車てっぺん来たらキスしよ、っか 最後の最後まで決めきれない
指先を見ないで深く絡め合うことは随分じょうずになった
船が沈む古い映画の老夫婦みたくなれないままに眠って
朝ごはん何が食べたい おしまいにするには相応しくない話題