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短歌と感想ほかまとめ

#自選10短歌集2023 のこと(感想)

#自選10短歌集2023 を読んで、短いですが感想を書いていきます。
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わりと感覚的な、ふわっとした文章なのはご了承ください。
感想というか、読んで思ったこと、思考の断片というかんじです。
また、大幅な誤読や失礼な表現などもしあれば教えていただければ幸いです。
何かあればお題箱までどうぞ → しまのお題箱 (@shima_071) | お題箱


◆更新履歴
2024.01.17 071~079まで
2024.01.14 067~070まで
2024.01.12 049〜066まで
2024.01.11 033~048まで
2024.01.10 017~032まで
2024.01.09 001~016まで


001 鉛丹さん

またの名を「呪い」と言われる愛だから修正ペンで消しておいてね
アイドル短歌的に読みました。「呪い」にもなりかねない「愛」、身に覚えがありすぎる。「消して」おくけど、それは「修正ペン」でなんだなあと思って、結局なくなりはしないというか……ずっとそこに残る、痕跡が見てわかる、ということについても考えました。まっさらになるよりいいのかな。

002 ショウリュウ ヨクトさん

どうせなら一生法螺を吹いてくれたとえば明日星を食うとか
「法螺を吹」く内容が「明日星を食う」なの、あまりにも好きでした……。どうしたらこれを思いつくんだろう、すごいなあ、とぼんやりしてしまった。
10首目「奈落でも世界の果てで歌っても君とわかるよ、だって君だよ」も大好きです。「だって君だよ」の説得力。シンプルな言葉だとは思うのですが、これ以上ないなって思います。

003 昨さん

星屑は消える間際に輝いて 観測してた私を責める
美しい佇まいの短歌だなあって一読して思いました。過不足がまったくない、とも感じた。上の句のまぶしいくらいの光に対して、最後は「私を責める」で終わる、ある種の厳しさや痛みもあって。でも、そこから受けるマイナスの感情だけではない、きんと張りつめた美しさも感じて好きでした。

004 ナカモトハルさん

しっかりとだきしめられてておもたい なんなんですか 冬なんですか
冬の重たいアウターをしっかり着込んだ人に、真正面からぎゅうっと抱きしめられる、ところを想像しました。物理的にも重たいし、多分、そうやって感情を渡されることも重たいときがある。上の句すべてひらがなで、体に感じる重たさ・徒労感のようなものもあるなあと文字を打ちながら改めて思いました。下の句のどこかぼんやりとした問いかけにもそういった雰囲気がある。

005 碓氷さん

きらめきのすべてをあげたい 君にだけ降る幸運がありますように
これだけ真っ直ぐな言葉をそのまま詩歌に変えて、嘘のようには感じられない、確かな言葉にできるのがすごい……!難しいことは何も言っていなくて、「きらめき」の言葉のとおりまばゆいのに、本当なんですよね。すごいなあ……
7首目や8首目で特に感じたのですが、描写される色彩が本当に美しくって……ぱっと目を引くような緑や黄、輝いているなあ、と思います。

006 独活部さん

パセリって強いんだってあの人の隣が取られたわけじゃないって
「パセリ」は基本的にメインにはならない、そっと添えられている存在だと思っていたので、「強い」と言われて一瞬考えました。が、その後に続く内容を見て、それは確かに強い、と納得できました。卑屈にならない、したたかな強さがある。独活部さんの短歌は伸びやかで、日向で感じるぬくみや、電車やバスで聞く楽しげな明るい話し声のような雰囲気があるなあといつも思います。

007 鷹野しずかさん

永遠を君にあげたいシークバー止まったままの配信画面
ライブ配信アーカイブを、配信期間のぎりぎり(なんだったら数分すぎ)まで見ていたことを思い出した。永遠って本当にはないんだなあ、と、度々思いもするけれど、ないからこそあって欲しいと願うし、永遠に近しいものというか、永遠を目指すものをまばゆいと思うのかもしれない。ものすごく抽象的だけれどそんなことを考えました。

008 ささむらえみこさん

雪解けの水が光になり落ちるメープルシロップちょっとかけすぎ
情景が浮かぶなあ、と思って読んでいって、「メープルシロップ」が出てきて、わあと思った。繋がりが思いもよらなくて楽しい。そして比喩表現がどんぴしゃすぎる、確かに光がこぼれ落ちていく様子って、メープルシロップがたっぷり滴り落ちるときの色をしている。「ちょっとかけすぎ」の、困り笑いをしているような終わりもいいなあ。好きです。

009 ショカさん

ドブ川も君にかかればカシオペア喉に降る泥は星くず
「ドブ川」という言葉にぱっと目をひかれて、でも続くのは「カシオペア」。この取り合わせ、どうやったら思いつくんだろう……すごい……。どういうことだろう?なんの比喩なのかな?といろいろ想像が膨らむ短歌でした。
他9首も読みながら、必ずしもすべて57577のリズムにはまっている訳ではないのですが、全体にさらりと声に出して読めるリズムで、それがすごく不思議で魅力的だなと思いました。

010 はるなさん

トーストにバターがじゅんわり染みわたり少しの焦げも輝いていく
「じゅんわり」が、もうそうとしか思えず……おいしそう……これからトーストを食べるときはこの短歌のことを思い出す気がします。個人的にはトーストを焦がすと、ああ……と打ちひしがれてしまうのですが、焦げすら「輝いていく」のがすごい。他9首もそうなのですが、まっすぐに明るい短歌をつくられる方だなあ、と強く感じました。まぶしい。でもからりとしていて、押しつけがましいようなところがまったくない。すごく素敵なバランスだなあと思います。

011 椎野カミゴヤさん

カレンダー愛の数だけ丸つけたサラダつくるの追いつかなくて
すごく幸福な情景だなあと思って……。たとえば誰かに会うとか、ライブとか、楽しい予定をカレンダーに書いていくのは誰しも経験があると思うのですが、その頻度というか、「サラダつくるの追いつかな」いくらいの「愛の数」があるのか!という驚き。こんな風に好きなものへの感情を表現できるんだなあ、と思いました。

012 さいとう(西藤智)さん

開けないアプリの増えた夏が過ぎ だけどしれっと笑いたいよね
アプリゲームのサービス終了のことかな、と思うのですが、この下の句が本当に好きです。もちろん悲しいし納得できない怒りや憤りだってある、だろうけれど、「しれっと笑いたい」とするその気持ちの強さ。自分の感情にきちんと向き合って、気持ちの置き場を正しく見つけようとしている、その姿勢が本当に格好いいなあと思います。他の短歌にもそういった凛とした空気を感じて好きでした。

013 あくにんさん

枯らしたくないと干される切り花の色と香りと時の移ろい
ドライフラワーのことが浮かんで、確かにあれはいずれ枯れてしまう花を、出来る限りそのまま留めておこうとしているものなのかな、と思ったりした。本当ならただ枯れていくだけの花を、そうやって手元に置いておこうとするのは、もしかしたらこちらのエゴでしかないのかもしれない。でもその花を美しいと思ったのは、その色や香りを好きだと思ったのは本当なんだと思う。

014 ゆり呼【渡邉裕美】さん

切なさの 月を見上げるその先に 望んでいたのは あなたの手でした
素直な歌だなあ、と感じて、そのまっすぐさに惹かれました。「月」という遠い存在に対して、望むのは「あなたの手」という、身近であたたかさのあるもの。手は繋げたのかな、繋げていたのならいいな。わたしもそんな風に素直に思えました。

015 みもりさん

南十字星みたいで 優しさという輝きはどこに居たって
どことなくさみしさがある短歌だなあ、と感じて、そこに惹かれました。「南十字星」が見られる場所は限られていて、作中主体が日本にいるとしたら、基本的には見られない。それでも確かに空にはあって、他の星と同じように輝いている。その輝きが「優しさ」というのもまた、どこかやわくてさみしいな、と思って好きでした。

016 山本ほらさん

不器用な俺でもできることがあるケーキをこわさず持ち帰られる
ケーキを買って帰る道って、たまにすごく怖くなります。ふつうにしていれば特に崩れもせず行けるのだろうけど、もしかしたら不意に何かが起こって、この手をぱっと離してしまうかもしれない。箱は地面に叩きつけられて、ケーキはぐちゃぐちゃになるかもしれない。そんな想像。「不器用な俺」がケーキをちゃんと持ち帰るのにはどれくらいの注意が必要なんだろう。そうしてそれはどれほどの意思や感情なんだろう。

017 Dr.ギャップさん

いつまで、の問いを恐れる 永遠とはあなたのことではなかったのか
「永遠」……!!となりました 永遠、好きな要素すぎる。「あなたのことではなかった」の絶望感、と思ってから、そもそも「いつまで」と問いかけられることは、終わりがある、と不意に気付かされてしまうことでもある…と思い至り、すっと背筋が冷えるような気分になりました。構成が格好よくてそれも好きです。

018 おばけちゃんさん

次に会う時は銀河の真ん中で 百年先の予定を立てて
「百年先の予定」ってめちゃくちゃいいな……と思いました。そういう、先の予定、誰かとの約束があれば、それをよすがに生きていけることがある。また、「銀河」という言葉を目にしたときに、アイドルのコンサートで見るペンライトの海を連想しました。これはかなり勝手な想像ですが、どれだけ先でも、お互い別の存在になっていたとしても、またいつか同じ場所で、ペンライトの光の中で巡り合えたならそれはとても幸運なことだと思う。

019 遠山エイコさん

ちょっとだけいつも傾いてるマイクになれたらいつも触れてくれるね
か、かわいい……!! 情景がリアルに浮かんできました。「マイクになれたら」という発想、どこから出てくるんだろう、すごいなあ……。それもふつうのマイクじゃなくて「ちょっとだけいつも傾いてる」という描写があるのも、イメージが膨らみやすくてすごい。
2首目の 舞い降りたペガサスは言う「翼など休ませる、君と歩きたいんだ」 もすごく好きです。SF(すこしふしぎ)っぽいというか、ファンタジーのような雰囲気がある。そしてかなり情熱的だなと思います。

020 十文字八千代さん

「これを見るまでは死ねない、あとこれも」生きる理由はいくつでもいい
本当にそう……と思いました。生きる理由、たくさんあればあるだけいい。それをこんなに真っ直ぐ詠めることがすごく素敵に感じます。
8首目も、すごく覚えがある風景で……「また会えたら」という約束、「消して」しまったのかな、どうだろう。消していなかったらいい、と思うけど、消してしまうときの気持ちもまたすごくわかります。

021 一榎さん

手作りの綺麗な方を手渡してくれることを愛と呼ぶのだ
「綺麗な方」、すごくよく分かる。そんな愛のかたちがとても愛おしいし、こうやってやわらかなかたちで表せることが素敵だなあって思います。
3首目の「お返しだって三倍くれる」のもとっても好きです。全体に視点がやわらかく穏やかで、春の日差しみたいにぽかぽかしていて……こんな風に短歌を詠めるの、いいなあ、と深く思いました。

022 屋上エデン(岡田美幸)さん

恐竜の絵本注文してあるし嫌なこと全部踏んでもらおう
とっても好きです。繰り返し読みたい。読んで自分のお守りにしたい。そんな風に思いました。「恐竜の絵本」の時点で好きなんですが、「嫌なこと全部踏んで」もらえるんだ……という、その着地が本当に大好き。嫌なこととか理不尽なこととか腹の立つことって生きている間たぶんずっとあるけど、それはそれとしてどうにか生きていかないとならなくて、そのときにこの歌があれば、かなり心強いと思う。

023 中野イサオさん

くたくたに ふらふらになり もみくちゃになり ぼろぼろである
会社でもうどうにもならないことがあって、心がぼきぼき折られて、帰るにしたって満員電車の、もうどうやっても乗れないだろ…みたいな中に入っていくしかなかったときのことを思い出しました。つらい。でもこうやって歌になっていることで、ああ、わかる、と思える。自分だけじゃなかった、と少しだけほっとする。
8首目の「夢によく来る」もすごく好きです。どことなくさみしい空気があるんですけど、さみしいだけじゃなくて、人肌のぬくみ、のようなものを感じる短歌だなあって思いました。

024 月ノ華さん

SHOWDOWN やるしかねーだろ?後はない 全てを賭けろ、カンダタとなれ
二次創作短歌ということで、対象になっているものをわたしは知らないのですが、短歌としてすごく惹かれました。格好いい。カンダタは「蜘蛛の糸」の盗賊……でいいのかな。
表題の短歌もかなり格好いいですよね、痺れる……。「推しの未来に全てを投ず」とまで言い切れる対象=推し、それだけ魅力的なんだろうな、と思いました。

025 しま

自選のかんたんな振り返り記事もあります。よければぜひ。
2023年 短歌・アイドル短歌振り返り - scrap


026 遊佐さん

夕暮れはただの景色と思ってた あなたがいると美しいんだ
こんなに素直であたたかい告白ってないな……と思って。どんなにきれいな夕暮れも、心が動かなければ確かに「ただの景色」なんですよね。あるのが当たり前というか、特別に意識もしなくなっていて、見ているようで目にも入らないことだってある。でもそれを塗り替えるのは「あなた」の存在なんだ、という……素敵だなって思います。
いい加減繰り返し言いすぎてますが5首目も大好きです。かみさま、コンパス持って描いてくれるんだ……と思ってきゅんとする。

027 すいさん

才能は分水嶺を流れない お前と何を分かち合えたか
格好いい…!!と痺れました。そもそも「分水嶺」という語が出てきて、これだけびしっと決められるのがすごい。過不足のなさ、美しいな~…と繰り返し読んでしまいました。
そして9首目、こちらの短歌、はじめて目にしたときからほんとうに大好きです。「岸」という名を持つ人にあてる短歌としてこれ以上ないっていつも思います。

028 熱湯さん

晴天に傘をさしだす泣き顔を見せないために隠せるように
すごくすごくやさしい歌だなあ、と感じて好きです。「泣き顔」を「見せない」のも「隠」すのも、相手を思ってのことだと思うんですよね。心配をかけないようにとか。と、ここまで書いて、泣いているのは傘をさす人なのか、さしかけられる人なのか……とはたと思いました。どちらでもあるのかな。どちらにしてもやっぱりやさしいなって思います。

029 悠未さん

深淵を覗きませんか? 憧れがきらめいていた夢の底とか
「夢の底」でもう……苦しくなってしまって……ぎゅうっと胸を掴まれるような、痛みもあるけどその苦しさ、切実さがとても好きでした。深淵を覗くとき深淵もまた……というフレーズがぱっと浮かんで、となるとこちらを覗き返してくる「夢の底」にいるものは、一体だれなんだろう。アイドル短歌的に読んだので、たとえば叶わなかった夢だとか、その夢を抱いた人だとか……だともう本当に苦しいなと思って、そういう部分もたまらなく好きです。

030 古迫ねねさん

あの頃は石ころだった僕達が夢と野望と相思相愛
「夢と野望と相思相愛」、よすぎる。口に出して言いたい。アイドル短歌として読んだので、ジュニアやまだ進む道もはっきりしていない存在が、それでもやりたいこと・目指したいものをたくさん胸に抱いて、ぎらぎらした目でずうっと上を見つめて(いっそ睨みつけて)いるようなイメージが浮かびました。

031 黒江さん

遠くって海より遠く?スマホすら捨てられなかったくせに遠雷
スマホすら捨てられなかったくせに遠雷」が好きすぎる。この無駄のなさ、言い捨てるような最後の「遠雷」。どこか遠くに行きたいね、みたいな、叶わないと知っていて口にする望みについての返答なのかなあ、なんて考えつつ読みました。
この短歌だけでなく全体に凛とした雰囲気があって、どの短歌も格好いいな~…と噛みしめてしまった。こういう雰囲気、かなり好きだなあ。

032 千愛さん

あのねって 紡ぐ先には きみがいて 溢れる言葉 聞いてほしいよ
かわいい……!!こんなに素直に短歌へ変えられる感情をお持ちなの、本当に素敵だなって思います。10首すべて好きな方やグループへ向けられたもの、とのことで、読みながら何だかぽかぽかしてくるというか、勝手に幸せをおすそ分けしてもらったような気持ちになりました。

033 しまおかさよさん

そうっとじゃなくってぎゅっがいいなんてLINEで言うなばか。走り出せ
「ばか。」で終わらず「走り出せ」と続くのが…めちゃくちゃいいですよね…。言っているのが「LINE」なのも効いてる、かんじがします。ラインとかメールとか、生活のかんじというか、身近なものを効果的に使えることに憧れがある……格好いいなあと感じました。全体にむずかしい言葉はなくて、普段の等身大の言葉のようなんですが、だからこそ真っ直ぐ届いてくる短歌だなあと思いました。好きです。

034 夏野さん

歓声を食べてるひとの双眸に宿る琥珀は火よりも熱い
ぱっと見たときに漢字の多い、かちっとした雰囲気を感じるんですが、読んでみると目の前にその情景が浮かんできて、描写の確かさに驚かされます。何て言ったらいいんだろう、わざと難しくしているのではなくて、すべて必要だからここにある、というか……。そこ以外にないんですよね、ここがいちばんしっくり来る場所、しっくりくる表現。精緻だなあと思います。

035 線香さん

大人っていいものですか 丸まった背中が愉快そうに揺れてる
この短歌だけではないんですが、情景描写が本当に丁寧で正確だなあと思います。ぱっとそのシーンが浮かぶんですよね。「丸まった背中」の持ち主はきっと、悪くはないよって答えてくれるような気がします。
5首目の「絡まったお気に入りのネックレス だいじょぶよって解いてくれた」も…本当に何回言うんだってかんじなんですけど、大好きなんですよね…。改めて読んで、やっぱり好きだなあって噛みしめました。

036 yugureさん

盲目でいいよわたしの目を覆う両手がきみのものであるなら
はじめて見たときの衝撃をそのままに、今ここで読んでも同じように感じます。「盲目でいいよ」から始まって、「きみのもの」へ繋がるこの構成……。読み終えて、ああ、と思わず声が出てしまう。少しの諦め、どうしようもない、とわかっていて、でもそれに見合うだけの覚悟があるような、腹を括ったような、そんな空気も感じる短歌だなあと思います。

037 いとさん

「きみは星」なんて最初に言ったのはわたしだったね わたしだったの
「わたしだったの」がもう……よすぎる。本当には言ってなくてもいいんだと思うんですよね。「わたしだった」と思うことが、そう思いたくなる対象がいることそれ自体が、得難く大切なものなのだと思う。ここからはより一層主観的な話になりますが、アイドルを星であるとか輝かしいものであると捉えることは時として残酷にもなると思っていて…でもそう思うこと、星だと定義することを、覚悟の元にしているような、そんな強さも感じました。

038 あんさん

半券をもぎられるとき楽しみの半分がもう過ぎた気がする
わ、わかる~…!!と思わず声が出ました。舞台なりコンサートなり、チケットを持っていって、入口でそれを手渡すまでがいちばんどきどきするようなところ、ある。もちろん観に行ったもの自体も楽しみには違いないんですが、そこに至るまでの高揚感もすごく大事だなって思います。次の「会いたいと思えることがバロメータ きみに会いたいわたしでいたい」も、すごくよく分かるなあと思って何度もうなずいてしまった。

039 しましまさん

21時届くメールで1日の終わりを知る よく生きました
わたしもWEBの日記を見る習慣があるので、めちゃくちゃわかる…!!となりました。自由更新になっていても決まった時間にずっと更新してくれるアイドル、本当にありがたい……(もちろん自由なのでいつ更新しても/しなくてもいいのですけど、やっぱり読めるとうれしい)。「よく生きました」の締めがすごく効いてるなあと思ってすごく好きです。

040 せのびさん

ピノどころじゃなくて雪見だいふくもくれそうだから絶対言わん
雪見だいふくもくれ」るの、かなりの愛だ……と思って、「くれそう」な人ってどなたなんだろう、と想像が膨らみました。具体的なお名前がわからなくても、すごく魅力的な人だってことがストレートに伝わってきて好きです。
表題の「200色あんねんにかなり説得力持たせてくれる君の姿は」もすごく好きで……ぱっと見て、あのことだ!と分かるフレーズを効果的に使えるのすごいな、いいなあ、と思いました。

041 春さん

俺たちとみんなにそれぞれの人生 おかえりを言う さよならがある
「さよならがある」……!!個人的な話になりますが、応援しているグループからメンバーが脱退する、という事象を複数回経験しているため、ぱっとそのことが浮かんで、ぎゅっと胸を掴まれたようなきもちになりました。でも苦しいだけじゃない、湿っぽくならなくて、どこかからっとした空気を感じるのは、「おかえり」の力なのかなあ、なんて思います。

042 千野さん

寝るんなら布団で寝なね賞味期限切れた酢昆布食べるのやめなね
愛だなあ、と思いました。生活感というか、実家で声をかけられているような雰囲気、少し雑なんだけど確かにあたたかい。「賞味期限切れた酢昆布」が絶妙なのかなあ……。賞味期限が切れているもの、で「酢昆布」ってなかなか出てこないような気がする。
他の9首も、全体にむずかしくない言葉で、さらりと読める雰囲気なんですが、どういう背景なんだろう?と思う要素がちょこちょこ含まれていたりして、なんだか気になる…と繰り返し読みました。

043 残星さん

ホルマリン漬けでも悪くないのです いのちはどうせ美しいので
「どうせ」が本当に好きで……。「いのち」という言葉には、どうしても前向きな明るいイメージがついてくるように思うのですが、「どうせ」という少しだけ投げ出すような言葉と組み合わさると、こんな風になるんだ…!という驚き。意外な組み合わせなのに不思議としっくり来る。
2首目「星くずのかたちをしてる紙ゴミもきみの感情なら光るんだ」もすごく好きでした。「きみの感情なら光る」っていいなあ。

044 わらびもちさん

愛ならば地上であげるよお姫様アフターだったら宇宙がいいな
「アフターだったら宇宙」ってめちゃくちゃいいなと思って。この言葉の取り合わせ、どうやったら思いつくんだろう。すごい。10首目の「睡眠は臨死体験」も同じようなインパクトがありました。言われてみると確かにそうだな…と思うんですが、自分だと思いつかない言葉の並び。やわらかな発想ですごいなあと思います。

045 入瀬さん

ばいばい、としろくあかるい指先が揺れてばいばい、点くな客電
「点くな客電」が…本当によくわかる…と思って。舞台やコンサートを観に行ったときの、アンコールもぜんぶ終わってふっと、公演終了を告げるアナウンスが流れ始めるときのことを思い浮かべました。あのときのわたしの心情だ、と勝手に感情移入してしまった。
10首目「あふれないようにあつめた星たちをいまならぜんぶきみに渡せる」もすごく好きです。星を「ぜんぶきみに渡せる」だけの感情、すごくきらきらして、素敵だなあって思いました。

046 るねさん

照明に照らされ0に立つ君は祈るみたいにマイクを握る
もうこの情景がそのまま目の前に浮かんできて、その確かな描写、言葉の選びかたがすごいな~…と深く感じました。自分が見たものをそのまま伝えるのって、やってみるとかなり難しいところがあると思うのですが、この短歌は本当に、ぱっとイメージが出来て……すごいなあ。

047 。さん

冬に咲く向日葵だけの花束は地獄へ続く片道切符
どういった背景があるのかは分からないんですが、一読してどきっとして……「向日葵」という、夏の明るいときの花が「冬に咲く」違和感と、「地獄へ続く片道切符」というどことなく不穏なイメージ。怖いけど気になる短歌でした。
5首目「将来の夢は神になることです きみに飴だけ降らせたいから」もすごく好き。「飴だけ降らせたい」っていいなあ。

048 貼゜さん

星が燃え尽きる間際の煌めきが一番綺麗であってたまるか
大好きです。もうこの無駄のなさ、ばしっと決まっていて本当に格好いい。アイドル=星というのはどうしたって浮かんでくるイメージなんですが、星っていつかは燃え尽きるものなんですよね。そう考えるとかなり残酷なことを思っているのかも…と思うことも多々あって。それに対して「一番綺麗であってたまるか」、こうやって言い切ってくれることの強さ、正しさ。本当に素敵だなあと思います。

049 月食さん

快速に陳列された足の数たまに奇数のことがある夏
少し怪談っぽいというか、どうしたらこんな風に詠めるんだろう…と何回も首をひねってしまう。発想もそれを短歌にする力もすごい。「快速に陳列された足の数」、自分が電車に乗っているときも数えてしまいそうです。奇数になっていたら怖いからやめた方がいいかもしれない。
月食さんの短歌は、とにかく理知的なのが魅力的だなあと思っているのですが、10首目「億千の光は光である、しかしまばゆい順にID.01」のように理知的でかつ情緒的であるのが本当にすごいなと感じます。

050 偏頭痛さん

流星群の中でたったひとりだけ私に向かって降ってきた星
星は…もう…アイドルを語る上で必修科目なので…(???)「たったひとりだけ」っていいですよね。あなたとわたし、ひとりとひとりで向かい合っているような、不意にぱっと目の前が開けて、ぴかぴかに輝く存在が現れたような、そんなイメージが浮かびました。
他の短歌も、言葉自体が輝いているような、祈りとして発せられた声がそのままきらめくような、そんな印象を受けました。

051 杜さん

ほんとうに光ることない星でした 流星になってはじめて燃えた
この短歌が本当に好きで……好きです(告白)。「流星になってはじめて燃えた」の…なんだろう、ままならなさ。それでも最後には光ったのだという、そのことを救いと思いたい。そんなことを考えました。
4首目「夜更けまで共に過ごした馬鹿騒ぎで君より長く起きていること」もすごく好きです。すっと受け取れる、やさしい言葉で紡がれる詩だなあって感じます。

052 穂村さん

君のこと傷つけるこの世のすべてサンドイッチにして食べちゃいたい
こんなに大きな愛ってありますか……?と思って。「サンドイッチにして食べちゃいたい」、よすぎる。どうしてこの言葉が、この詩が出てくるんだろう。ここから先は本当に(今まで以上に)個人的な思いの吐露ですが、穂村さんの短歌は、わたしには作れない、と思うもので。読むたびに正直悔しいような、苦しいような、それでもどうしようもなく好きだな、と感じる短歌です。

053 シノノメユフさん

生理痛 ミニストップのハロハロを諦めて何が女の幸せ
この短歌を詠んでくれて本当にありがとうございます、と言いたくなった。「何が女の幸せ」、格好よい……。こう言い切ってくれたおかげで、今まで自分が諦めてきたいろいろなものが、この先ももしかしたら諦めるしかないものが、ほんの少しでもうかばれる。
9首目もすごく好きです。全体にさばけているというか、湿っぽくならず、自分の感情を一歩引いて眺めているような空気を感じる短歌だなあと感じました。好きです。

054 あきさん

花束を優しく包んでいつまでも枯れない魔法をかけて渡すね
やさしい……(;;)こんなにやさしい愛、と思って、すごく素敵だなあと感じました。「優しく包」むのもやさしいし、「いつまでも枯れない魔法」……。こんなにたっぷりの愛を渡されるひとも、渡してくれるひとも、どちらもすごくすてきなひとなんだろうな。
7首目「いつの日か火星に住める日が来ても変わらず光っているんだろうな」も好きです。火星かあと思って、やわらかな発想がすごくいいな、好きだな、と感じました。

055 綴さん

目尻から溢れたものは星であるあんまり楽しい夜だったから
すてき……!と思って、友人と飲んで喋って、笑いすぎて涙が出てきたあの夜を、ライブを観て、泣きたいわけでもないのだけど、涙がこぼれて仕方なかったあの夜を、いくつも思い出しました。これからそういう夜に「目尻から溢れ」てきたものは「星」と思う。そう思うんだとおもう。
4首目「天国の犬は体温だけ還りぬるめの風呂で私をつつむ」も大好きです。わたしは犬を飼っていないのですが、でも、天国の犬、わかるなあ……と強く思った。「ぬるめの風呂」な体温。

056 寸さん

雨 ビニール傘を伝って落ちた ただ眺めるだけの日も悪くない
情景描写がうつくしい~……と思って好きです。「ただ眺めるだけの日も悪くない」の温度感も好き。4首目「視界ならいつも良好 澄み切った空を見上げて首を痛めた」もそうなのですが、少しドライなかんじ、平温で紡がれる詩の空気がすごくツボでした。特別な、劇的なことがなくたって、日常に詩はあるんだなあと強く感じる。

057 maruさん

髪を梳く誰も殺したことがない訳じゃないのにそんな振りして
「殺した」という語に一瞬ぎょっとして、でもこの短歌に含まれる大きくて強い愛情表現に、すごく惹きこまれました。「そんな振りして」、いいなあ……。相手に触れていいんだろうか、この手で、と思いながらも、せめて何も知らないような、何の罪も犯していないふりで、やさしく触れるんだろうなあ、なんて想像しながら読みました。

058 ヤマモトさん

ただ走れ何者だろうとひた走れここにボールが来ると信じて
「何者だろうとひた走れ」、めちゃくちゃ好きです…!!プロフィール欄を拝見して「THE FIRST SLAM DUNK」の二次創作短歌なのかな?と思い…映画を見てはいない=作品を詳しく知らないんですが、それでもすごく魅力的な短歌だなあと感じました。格好よい……。

059 ぺちかさん

ざわめきをかき消すことも生むことも 全ては君の思い通りに
読んでおもわず、あっと声が出ました。ざわめきって確かに、そのひとによって「かき消」されもするんだ……という発見。ライブが始まる前のざわめき、声が発せられる、音が響く前の一瞬、息をのむあの静かな時間を思い出して、こんなにあざやかに描き出せるんだ、すごいなあと噛みしめてしまった。

060 朱子さん

この春の桃は特別 あなたからピンクを預かって開くから
「あなたから~」の部分がたまらなく好きです。「特別」な「桃」のひみつをそっと教えてもらったような高揚がある。ひとつ前の短歌 「夕焼けが美しいのはこの夜を特別にするためなんですよ?」 にも似たような喜びを感じました。とっておきのひみつ、特別にうつくしい、何かすごくよいものを渡してもらったような。

061 やわぬのさん

延々と永遠いのる のろいだと分かっていても消えてあげない
どういうことなのか読み取れたわけではないんですが、すごく気になる短歌でした。口に出してみたくなるところがまず好きです。「延々」と「永遠」の音のかんじ。「いのる」「のろい」とひらがなで書いてあるのにも意図があるのかな。個人的な感覚として、ひらがなになっていると一音一音をより丁寧に発音する、ゆっくりと口にする、ような傾向があって。「消えてあげない」の通り、いつまでも残るかんじがあっていいなあと思いました。

062 古月ももさん

掬っては青ではないと確かめて安心するため海に行きたい
「海に行」く理由としてこういった内容が来るとは思わず……どういう背景なんだろう?と考えたくなる短歌でした。たしかに海って、遠目で見たときと、実際の水の色と、ぜんぜん違いますよね。そんな色について「青ではない」と思うことが「安心」に繋がるんだなあ、という…自分にはなかった感覚なので興味深く読みました。

063 戸田静さん

光に夢を見つけた少年 ステージに立つため生まれてきたひと
もう…この…つながりが完璧じゃないですか? 完璧だ、と思って、何回も読んでしまった。「ステージに~」というこのフレーズにつながるものとして、「光に夢を見つけた少年」の、もうこれ以上ないはまり具合。そういう「少年」が今までどれほどいたんだろう。これから先どれだけいるのかな。

064 加藤悠希さん

澄みて澄みてどこまでも澄みわたる空よ 空をゆく風 無限に聞き取れてゐる
「澄みて澄みて」からのつながりが美しくって……音読したくなるリズムだなあ、と感じて、実際口に出して読んでみました。やっぱりすごく気持ちのいい音と響きなんですよね。それこそ「空をゆく風」の爽やかさのような、その音を聞いているような。57577のリズムとは違うんですけど、そのずれもまた、吹き抜ける風のように感じられるなあなんて思いました。

065 くぼたむすぶさん

いつもより可愛い靴を履いたので定時で推しに会いに行きます
かわいい…!!!すっごく好きです。こんなにまっすぐ素直に詠めるの、いいなあ……。もう絶対定時で会いに行ってほしい。定時間際に何か業務を持ちかけてくるような人がいたらわたしが押し留めておくので颯爽と職場を出てほしい。ついついそんなことを考えてしまいました。

066 花依ゆずさん

私には重すぎるもの押し付けてごめんね でもね生きててほしい
「重すぎるもの」ってなんだろう、と思って、続く「生きててほしい」を見てああ…と思わず声が出ました。それが「重すぎるもの」になるのか、そうか、という……頭をがんと殴られたような感覚。わたし自身、好きなひとに対して、幸せでいてほしいとか、そんなことを思ったりもするんですけど、それもすべては「生きててほしい」の延長線上にあるんですよね。生きるのって結構、ふつうに大変なことも多いのに。すごく苦しいけど、大切なことを教えてもらったような気がします。

067 ましもさん

まぶしくて手が届かない星でいて同じなんだと知るのは怖い
「同じなんだと知るのは怖い」…!!頭をがんと殴られたような衝撃がありました。「星」にたとえること、「星」のような存在でいてと願うこと、にはある程度覚えがあるというか、そういう存在でいてほしいとどうしても願いがちなんですが、その理由にまで考えが及んでいなかったなあ、と自分を振り返ってみて思いました。

068 たこわさ子さん

輝きを覚えててくれTシャツよパジャマに生まれ変わった後も
ライブグッズのTシャツ、ライブに着て行った後は部屋着にしがちなので、わ、わかる~…!!と頷いてしまいました。「輝きを覚えててくれ」が本当に大好き。割とさらっと(?)部屋着として着てしまってたんですが、確かにこのTシャツはあのライブの、あの光と音を浴びていたんだな…と思い返してより愛おしくなりました。

069 早藤尚さん

この色を選ばなかった頃何を選んでいたのか記憶にない
「この色」をメンバーカラーとして読んで、すごくわかるなあ…と思いました。複数色あるときにぱっと手に取る色、今はもう決まっているんですけど(紫かオレンジ)、アイドルを好きになるまでのわたしだったら、オレンジはまず手に取らなかったなあ、とか。
8首目の「諦めるコツ覚えたし上手く好きでいられてる気するきみのこと」もすごく好きです。「上手く好きでい」るのって、結構難しい。こんな風にさらりと言えるようになりたい。でも同時に、さらりとしているからこそ「諦める」やりきれなさも際立つ気がして、ぎゅっと切なくなりました。

070 柘榴の君さん

わらびもちだいふくしらたまぷりんぐみより喰い付きたいあなた。もちゃもちゃ。
おいしそうな食べものが並んでいて、いいなあやわらかそうだなあ、と思っていたら「喰い付きたい」が来るインパクト。そして「あなた。もちゃもちゃ。」の語感。文字で読んだときのちょっとした違和感(句読点がある珍しさ)。全部が組み合わさって、「もちゃもちゃ」食べられる「あなた」をリアルに想像してしまいました。食べちゃいたいほどかわいい、愛おしい、ってことなのかな。苛烈だけど、でもとてつもなく深い愛情表現なんだろう、と思います。

071 澄さん

行間に溢れた君のすこやかを拾い集めておむすびにする
「すこやか」、そして「おむすび」が大好きすぎて……。この語の繋がり、納得感しかない。しかも「行間に溢れ」てるんですよね、そこもいいなあと思いました。「君」がどんな人なのかは分からないんですが、すごくきもちのいいひとなんだろうな、と感じます。まっすぐで、誠実なかんじ。そして使う言葉もきっとまっすぐなんじゃないかな。でも本人は気負いなく過ごしてるんじゃないかな、なんて想像を膨らませてしまいました。

072 福山桃歌さん

魂も奪っていてよ そしてまた返してもらうため会いに行く
「魂」を「返してもらうため」ってめちゃくちゃいいですね…!!わたしはライブに行ったとき、ここに来るだけちゃんと頑張ってきたか、と自問自答するのが習慣なんですが、 そうか、魂を返してもらうために会いに行って、また奪われて、っていう方もいるんだな…と。ライブやアーティストとの向き合いかた(当然ながら)その人それぞれ違って楽しい。
8首目「ひかりとはきみのことだから落ちていく夜の底でも息ができてる」も大好きです。どうしようもないときに好きなアーティストの楽曲をお守りみたいに聴いたことを思い出しました。

073 にうむさん

好きなとこ10個数えた手のひらで指の長さを想う 11
最後の一字あけ後の「11」が…ふっと気が付いてしまったかんじがしてすごく好きです。10個、両手の指の数だけ、ってかなり多いと思うんですけど、それでも尽きない、という表現……。でも何となく、そういう自分を俯瞰で見ているかんじもして、その加減もいいなあと思いました。
8首目「残業で(ホント)道路が混んでいて(ホント)録画も忘れてた(ウソ)」も、やっぱり俯瞰しているかんじがあってツボでした。内容としても、個人的にもすごく覚えがあるというか…自分のことを言われている気がしてどきっとしました。

074 ヲガタさん

終わりも始まりもaiで終わるのふしぎだねってわらうとこじゃん
ほんとだ…!と思ってから、つい声に出して確かめてしまった。ai、あい、愛。「ふしぎだねってわらうとこじゃん」のかんじが絶妙だなあと思って、そこがすごく好きです。「わらうとこじゃん」という言いかたは、愛って改めて言うのは少し照れくさいから、いっそ笑ってほしい、みたいな感情からくるのかなあ、なんて考えました。

075 杏湯さん

泣きたいと思った夜に泣く場所がきみの星にもありますように
なんてやさしさなんだろう、と思って、数回読み直しました。何回読んでもやっぱりやさしい。「きみの星」だから、わたしとは違うところにいる、そのことも分かっているけど、もし「きみ」にもつらいときがあるなら、と想像するやさしさ。
次の「なんだって願ってほしいやさしさはぜんぶ巡ってほしいとおもう」も特別やさしいなって思います。こういう心持ちでいられるようになりたい。

076 飄さん

劇場の顔から駅の顔になる 蛍光灯が帰るよ、と言う
こちらの短歌が本当に大好きで…もういい加減好きと言いすぎてますがとにかく好きです。日常と地続きの感覚がすごく瑞々しく表現されているなあといつ読んでも思う。3首目にある「よい子の私は規制退場」、6首目「単四3つの閃光は死ぬ」といった表現も同じく、わかる~となる事象・感覚を、こんなにあざやかに詠めるんだ!とびっくりします。
10首目「ステージと客席の距離を理性だと言いつつ醜い恋が止まない」で終わるのも、連作として見たときすごく格好よいなあと感じました。この締め、すごい……。

077 パン粉さん

「誰推し?」聞かれても応えたくないし、「人気だよね」でまとめてくれるな。
ああ~……と深く頷いてしまった。わかる。わかる、とこんな簡単に言ったらよくないかもしれないけれど、でもわかるなあと思いました。句読点があるのも効いているなあと思います。もう絶対「誰推し」だなんてそんなこと言ってくれるなよ、という気持ちの強さを感じる。
2首目はアクスタや一般発売チケットを購入するときかな?と思って読み、こちらもすごく共感しました。「偶像」としている、そうと分かっている視点、そのバランスがすごくいいなあと思います。

078 昭田さん

悲しみよ 波に攫われても最後は私の元に帰ってきて
「私の元に帰ってきて」がすごくいいなあと思って……。「悲しみ」ってわりとネガティブなイメージがあって、あまり自分の元にない方がいいかも、と感じていたので、「帰ってきて」ほしいのがはじめは意外でした。でも、「悲しみ」だって自分の感情には違いないんですよね。それが「波に攫われて」しまうということは、勝手にどこかへやられてしまうということだから……、そう考えると、きちんと自分の感情、自分の痛みとして抱いておこうとする姿勢は、すごくまっすぐだし、誠実だなと思います。

079 アナーニ事件さん

幸福は摂理ではない きみという獣は足を血に濡らし行く
格好いい!というのがいちばんの印象でした。他9首についても、すべての背景・意味を汲めたわけではないのですが、言葉の選びかた、構成がとにかく格好いい。ぴしりと伸びた背筋、遠くを眺め渡す視線、を連想しました。「幸福は摂理ではない」、どうしたらこの言葉が出てくるんだろう……。すごいなあ。