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短歌と感想ほかまとめ

「みんなで相互題詠」の振り返り

6月、Twitter上での企画「みんなで相互題詠」に参加しました。
参加者がそれぞれ出したお題をランダムに振り分け、自分以外の参加者によるお題をひとりひとつ受け取って、それを元に短歌を作る、というものです。
相互題詠に興味はあれど、お題を渡す相手のことや作風をお互いある程度知っていることが前提になるものかなと思っていて、相手を探したり頼んだりする段階で足踏みしてしまっていました(もちろん、いい機会と捉えてそこを超えていく楽しさもあるのは分かっているのですが)。
それに対して、「みんなで相互題詠」はそういったハードルがないため、こういうものを作ってほしい/作りたい、といったシンプルな動機で、お題を渡せる/受け取れるのが、個人的にはとてもうれしかったです。


わたしが出したお題は「最後の晩餐」でした。これに対する短歌連作が本当にすてきで、参加してよかった…!と噛みしめていました。
自分だったらどうやって作るかな? こんなかんじの短歌が出てくるかな? ということはある程度考えてお題を出したのですが、想像を超えていました。自分では思いつかないようなものを作ってみせてもらえることって、かなり貴重だなあと強く思います。
他の参加者のかたの作品も拝見して、お題の多様さや、発想の広げ方にも刺激を受けました。また、連作をどう作るか(どんな構成にするか)といった点でも、さまざまな作品を見られたので参考になり、よかったなあと思っています。


自分が受け取ったお題からも、楽しく短歌連作を作ることができました。
お題は「沈む」。作ったものは下記になります。

沈まずにいてよ太陽あの人の影とこっそり手をつないでる
沈みたい? 尋ねるずるさを愛してた答えはとうに知ってるくせに
沈むなら一緒がいいねどう見てもふたりのせいとわかりやすくて
沈めても華奢な体は なくていい来世は風呂場の黄色いおもちゃ
沈もうとする太陽にもう二度とのぼってくるなと言い置いて幕



とても楽しく作れたので、解説というか、どんなことを考えながら作ったか? という話を書いてみることにします。裏話的なもの、読む人がいるかどうかは別として、書くのはとても好きなので……
ただ、作るときに考えていたこと、イメージしていたもの、として書いてはいますが、そう読まなければならない、という訳ではありません。短歌を読んでどう感じるか、何をイメージするかは、読まれたかたの自由です。




1)はじまり

「沈む」というお題をお知らせいただいた時点で、ああすごく好きなモチーフが届いたな、と思っていた。短歌に限らず創作において、どちらかというと少し薄暗いような、何か引っかかるようなモチーフを繰り返し書いている。
自分でいうのもおかしいかもしれないが、わりと自分の作るものに馴染むのではないかという予想と、そう感じたからには、できる限りお題を活かせたらいいな、と思った。

「沈む」という言葉からはじめにぱっとイメージしたのは
・水に沈む場面
・オフィーリアの絵
・クリームソーダ。飲みものの中に沈むさくらん
・気持ちが沈む。つらい、かなしい
……といったもの。まったく捻ってもいない、言葉からの印象のみ。
この中だといちばんどれが書きたいか? と考えたときに、ベタではあるものの、やっぱり水に沈むところかな……とかなり初めの頃から考えていた。

すごく好きなモチーフが来ているので、いっそのこと自分の好みにぐっと寄ったものを作ろう、と思ったのもこのあたり。変にこねくり回すより、好きなものをそのままストレートに作ることにした。
自分の好きなもの、で考えると、テーマを「心中」にすることはあっさり決まった。水の中に沈むイメージとも重なる。
心中というか、さらに正確に言うのなら、実際にはいろんなしがらみに気を取られて、自分と相手のことだけじゃなくて、他にも大切なものがありすぎて、結局ふたりして冷静さを捨てきれずに、心中しに行くけど帰ってきてしまう、というような関係が好き。
その行為そのものより、そうしたいと思ったのは同じだったんだけど、実際にはそうもならなくて、できなかったってことを同じように抱えて、なかったことにもしないで、たまに思い返したりしながら生きていくままならなさ、を書けたらなあと思って、創作の中で繰り返し書いている。
なので、今回もそういった関係、ふたりの話、にしてみることにした。

2)構成

構成についてもはじめのうちにある程度固めていた。
「沈む」というお題がとにかくツボなので、それがわかりやすいものがいい。また、企画参加するにあたって、不特定多数の人の目にふれる可能性が普段より上がる。そのため、まずパッと見てインパクトのあるものがいいかな、とも思った。
そうすると、「沈む」という語をそのまま詠み込んだものは確実に入れたい。連作なので3〜5首は少なくとも作るとして、1首目にするか、もしくは真ん中に置くか、どちらかにする。奇数で組めば真ん中の1首は必ずできるので、連作全体で何首作るかはあとから決めてもいい。

「沈む」という語をだんだん上句から下句へスライドしていくこともかなり初めの方で思っていた。5首くらい並べたら視覚的にわかりやすいかなと考えたのが、下記のイメージ。
沈む・・・/7/5/7/5
5/沈む・・・・・/5/7/7
5/7/沈む・・・/7/7

ただこれをやるとしたら、字数を揃えたり画像加工のときに工夫しないと何がやりたかったのか伝わりにくいだろうな、と思って、すぐに考えるのをやめた。その場所に「沈む」を入れることに気を取られて中身がおざなりになるのもよくないし……

その次に思ったのが、すべての短歌のはじめに「沈む」を持ってくること。5首くらい並べたら圧が強くていいかなと考えた。これが完成形の元になっている。
とはいえ、「沈む〜」で5首作ると考えたときに、バリエーションを出せるか? ということと、元から書こうとしている心中というテーマを出しきれるか? ということを考えて、すべて「沈む」から始まる短歌にするのは難しいかな……という判断になった。
ただ、「沈」の字がずらっと並ぶのはよさそうだったので、少しずつ変化させていくのはどうだろう? とさらに考える。「沈む」を真ん中に置いて、沈まない・沈み・沈む・沈め・沈もう、と言葉を変えて並べてみた。
「沈まない」から始まって「沈もう」に落ち着くのも、ひとつの物語の終わりっぽくなるのでいいかな、ということで、構成はこれに決定。
あわせて短歌の数も5首に決定。3首だとテーマを表現しきれないかなとも思っていたので、ここの数はあまり悩まなかった。

3)短歌を作る

以下、実際に作った順番で書いていきます。作ったときに考えていたことやイメージしていたものなど。
作った順番は
3首目→2首目→1首目→4首目→5首目
でした。

3首目:沈むなら一緒がいいねどう見てもふたりのせいとわかりやすくて

・構成の時点で、5首すべて最初にくる単語を決めてしまったので、そこは動かさない。5首を使って、どう物語が伝わるようにするか? 1首ごとに何を書くか? 1〜5首のうちどこから作るか? と考えて、まず真ん中にくる「沈む」の短歌から作ることにした。やっぱりこの短歌がいちばんの核になるところなので、ここが決まらないと他も組み立てられない。
・心中、どういう心中にするか? と考えて、ぱっと浮かんだのが、入水だった。「沈む」イメージとしてはストレートな連想だと思う。心中といっても、たとえばひとりがもうひとりを刺すとか、首を絞めるとか、そういうものではなくて、あくまでふたりで選んだこととしてわかりやすいもの、としても入水はいいかなという感覚もあった。
・短歌の作りとしては、上記のようなイメージ、感覚、をそのまま言葉にしたかんじだな〜と今振り返ってみると思う。わりとわかりやすい作り。

2首目:沈みたい? 尋ねるずるさを愛してた答えはとうに知ってるくせに

・5首のうち真ん中(3首目)が「ふたり」の短歌なので、ここを境にして、1〜2首目/4〜5首目それぞれの別の視点で作ることにした。誰かふたりの話、関係性、を短歌にするときに、それぞれの視点を織り交ぜることも結構多い。その方が読む側にも伝えられるものが多くなるかな? と思っているのと、単純に作っていて楽しいので。
・どういうふたりなんだろう? と思ったときに、このあたりは手癖でよくないなと感じるけれど、完全に自分の好みが出た。ずるさがある人物はよく書きたくなる。沈みたい、と聞いてくるの、いやだな、と個人的には思う。でもそういう部分にどうしても惹かれている人として書いた。
・あまり短歌の中に「?」などは入れないようにしているけれど、今回は入れないとまったく意味が通じなくなりそうだったので思い切って入れた。台詞だということがわかりやすく、物語らしさが伝わるからいいか、とも思っていた。

1首目:沈まずにいてよ太陽あの人の影とこっそり手をつないでる

・ずるい人は書けたので、その相手がどういう人物かを考える。それと、そもそも心中するに至った背景。ベタな話ではあるけれど、あまり周りに受け入れられていない関係であるとか、どうしても実らない感情なのかな、というイメージ。
・受け入れられない、実らない、というところから、なるべく周りに気付かれないように、でも寄り添ってはいたい、という姿を思い浮かべる。近くにはいるけど直接は触れられない、と考えたときに、足元に伸びる影を見て、そこでだけ手を繋ごうとする情景が出てきた。
・影があるということは光源もある。沈むものといえば太陽で、これもかなりベタな発想ではあるものの、その分わかりやすさはあるかと思う。5首あるので、1首目と5首目に太陽の話を持ってきて対にしたらいいか、とここで決まる。
・はじめのうち「沈まない」という語に縛られていて、すぐには思いつかなかったものの、「沈まずにいてよ」が出たらそのあとはさらさら書けた。

4首目:沈めても華奢な体は なくていい来世は風呂場の黄色いおもちゃ

・1〜3首目と5首目の方針が決まったので、4首目もそれに合わせることに。3首目が核になって、1首目と5首目が対の構成なので、2首目と4首目も対にして作る。2首目に出てきた「ずるい人」の視点。
・1〜5首の間に物語を進めたいので、その方向も考える。1首目:太陽に沈まないでいてくれと願う→2首目:心中することを決める→3首目:心中→4首目でどう展開するか? と考えたとき、心中できる方向にいくか、できない方向にいくか、で、できない方向をとった。前述のとおり「心中しに行くけど帰ってきてしまう」方が好きなので。
・できない、というより、片方が亡くなってしまって片方が残されるでもいいのか? と思いつく。そうすると、沈もうとするのに上手くいかない情景を書いたらいいかもしれない……と考えて、片方が片方を沈めにかかるところを切り取ることにした。3首目で「ふたりで選んだこと」を書いているのに結局そうなっていない絶望感もあるかなと。
・「なくていい〜」から先がなかなか出てこなくて苦しんだ思い出。黄色いアヒルのおもちゃをふっと思いついて、そこからどうにか作れた。

5首目:沈もうとする太陽にもう二度とのぼってくるなと言い置いて幕

・1首目の対にすることと、太陽の話にすることは決まっていたものの、まったくイメージが膨らまず苦戦した。4首目もなかなか完成しなかったので、この2首はほぼ並行して作っていた。
・1〜4首目までで、心中しようとしたものの失敗に終わった流れにはなっている。失敗、だめになったこと、願ったけど叶わなかったもの、と考えて、1首目の「沈まずにいて」から「沈もうとする」太陽へ繋げることにした。結局沈んでいく太陽。
・1首目が太陽に語りかける形式だったので、この短歌でも同じようにするとしたら、何と声をかけるか考えてみる。そのときに、本当は心中したかった→明日が来なくていいと思っていた、という風に連想。明日が来ないということは太陽ものぼらないのでは、と考えて、どうせ沈んでしまったのなら、もうずっと沈んだままでいてくれと願う人を書くことに。口調も1首目と比較して強いものにした。
・「幕」とすることで、このふたりの物語も終わりになるし、そもそもここで語られていたもの自体が何かの舞台上のものだった……という風にもなるかな? というイメージだった(すべて創作です、というような)


……と、かなりざっくりではありますが、こういった考えで作っていました。それにしても心中心中書きすぎてちょっと心配。全部創作の話です。
お題の巡り合わせというか、今回はたまたま自分の好きなテーマに引き寄せやすいものでしたが、そうならない場合もあるはずなので、それはそれで面白いし勉強になるだろうなあと思っています。
本当に楽しい企画でした。参加出来てよかったです、ありがとうございました!
また、改めてふつうの(?)相互題詠もやってみたいなあと思いました。この企画とはまた違ったものになりそう。そういう機会が設けられたらなあと考えています。


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