0403
あいものを取り出す箱の深くから終わってしまった季節のにおい
観客のいない舞台を照らすようホームにまるく日向ができる
ウォークマンに入れっぱなしの歌を聴く覚えてたより掠れてる声
0404
評定を避けても楽にはなれないととうにお前は知っているだろう
大雨の中に住んでる日々だったいくら拭いても頬が濡れてた
全身にこびりついてる諦念をこすって落とす掻き壊すまで
泣きすぎて咳き込む喉の苦しさを忘れたところで誰も責めない
0406
これ以上入ってくるなと突き刺した刃渡り16センチのナイフ
傷つけていいやつだって思ってる、思われている、おまえが悪い
残酷なことを言うよねなによりも自分で自分を褒めてあげてね
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絡めずにおいた小指の冷たさはぼくだけが知るそれでよかった
春泥の中にいたって眼裏に残るひかりは薄まりやしない
あと少し掴めなかった手のひらをなるべく軽く振ってみせるよ
夢を見ることのない夜のしずかさに瞼を落とすまたね、おやすみ
0409
ひとんちのにおいが混ざって本当のにおいが上書きされてくおまえ
東京になれない町で人間になれないバグが発見される
触れられてはじめて気付く空洞を体の中に飼っていたこと
急行の通過を待っているだけのどん詰まりには飽きているだろ
春先の息がしにくい現象に名前をつけてくれりゃよかった
0410
定時すぎ幕は上がっていることを思い描いて背筋を伸ばす
くたびれた舌でのろのろ呼びかけた声にも律儀に応えてくれる
0411 舞台「ロミオとジュリエット」の印象
松明を、今後一切のかなしみを濃い影として落とさぬように
せめてもの潔白として礼拝のベールを模して夜着をかぶった
蝋燭の火が揺らめいてふと消える焦げたにおいを嗅ぐものはない
0416 お題:シルエット 氷 こわばり
窓越しに見えてる雨と街灯の白が混ざってわかりにくいな
溶けきった氷がグラスを満たすまで何にも知らないふりをしててよ
おそれなど口に出さないひとの背にせめて広げた手を当てている
0419 お題:エピゴウネ
べらべらと言ってるうちに色褪せる程度の夢で理想だ所詮
それっぽい言葉を吐いて手を叩く亜流の真似も上手くできない
傾いた塔から何度落ちたって間抜けは螺旋をのぼり続ける
0420
浅かった、息、は胸まで入らずに、泣きたさばかり増してた四月
くやしいもさみしいも違う気がしてたぜんぶぜんぶがゆるせなかった
飲み込んでみせるひとだと知っていてそうさせたのは誰だったろう
0423
見ないまま終わるの、なんて、こわくって、口にしたくもなかった、ほんとは
0425 夏は死に近い
褪せかけた絵の具で青く街中を塗り潰してくまだ夜じゃない
うっすらと赤くなってる腕を見る光はきみを傷つけられる
むせかえる雨のにおいを吸い込んでノウゼンカズラをひとつ手折った
0426
とびっきり脂の浮いている麺を夜中に啜るかんたんな自棄
泣き声を溢さないよう詰め込んだミックスサンドの味は知らない
大切にしたくて買ったデザートは冷蔵庫の中ゆっくり腐る
0428 お題:不要不急と必要火急
半券を千切れずにいるチケットをなくさないようそっとしまった
いらないと、なくても生きていけますと、口が裂けても誰が言うかよ
寝て起きてやり過ごしてくだけなのにそれだけなのに息ができない
目の奥が痛むことには気づかないふりで笑って、どうか、笑って