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短歌と感想ほかまとめ

log:202102 短歌

0201

取り次ぎをお願いしますお相手のことはあいにく覚えてません

「ワクさんに折り返しTEL」正しくはワクワクさんですという訂正

おおあくびしてたねぱちんと目が合って照れくさそうに首をすくめる

ちいさいとはじめて気付くおそろいのマスクの幅が余る輪郭

いつもよりたくさん笑う不織布の下はあなたに見えないけれど


0203

缶ビール飲みながらゆくお互い片手は空けたまんまで

家はもう見えていたけど鼻歌を聴いていたくてペースを落とす

街灯とテールランプと遠い月ごっちゃになった道を帰った


0205 お題:クリーム

まっすぐに立つために塗るまじないのリップクリームは無色透明

炎天の中で大きく吸い込んだみどりのにおいを手に塗り込める

ちょっとだけ崩れたケーキのクリームをいたずらな目できみが掬った


0206

手品師のそぶりで軽く渡された花の居場所はこれから決める

適当に放り出すことできなくてぜんぶぜんぶを抱きしめている

くたびれた腕で支えた花束へLEDの真白いひかり


0208 お題:眠る花

おやすみとやさしく花粉を拭われたカサブランカの清潔な白

道端に眠る椿の花びらを千切って放る生まれ変われよ

重力を思い出したの 散らばったつぼみは春を知らないままに


0209

ちょっとだけ乱視が入った目で見てるそのまま写すレンズがほしい

頼りないシャッターボタンを押し込んで離す頃にはぜんぶ忘れる

あのときのわたしはきみをうつくしく思ってカメラを向けたのだろう


0210 お題:未完成なもの

真夜中に目覚めてぼくの内側できしきしと泣く背骨をあやす

触れたならわかってしまうはずだからきみとは決して手を繋がない

終わっちゃうことがこわくてやりかけたパズルのピースをひとつ隠した


0211

追伸を打ちかけて消す今度会うときのおしゃべり用に取っとく

ひとりよりふたりのほうがさみしくて迷子になったみたいだ、わたし

デパートの屋上にある真昼間の日向はほんの少しねむたい


0217

息の根を止める手つきはこんなふう Ctrl+Alt+Del

断罪をしたひとはもう忘れてる それはあなたも悪いんじゃない

JR改札前の人混みにさえ弾かれるひとりぼっちだ


0218

抑揚が思ったよりも似てきてることは言わずに数度目の春

ぺちゃんこになった体へたっぷりと息を吹き込むゆるいおしゃべり

とぼけてるふりして見せてあっさりと枠に納めてこそ様式美


0219

宇宙服なんていらないサンダルを引っ掛けていく近場の銀河

無重力ぽい動きするひとの手を引いて横断歩道を渡る

霜焼けになるぎりぎりの爪先で確かめている銀河の温度

宇宙には行かずに死ぬと思ってたけどあっけなく叶っちゃったね


0221

そのうちに消えちゃう声とわかってて書きつけずにはいられなかった

今ここで冬が過ぎてく一瞬に見てた日向を忘れたくない

不揃いで取るに足らない言葉だと知っていてなお抱きしめている


0222

この角を曲がった先に建っていた家のすがたが思い出せない

一年もすれば忘れるコンクリの凹みにかかる日差しを写す

壊れてるって昨日も思って見上げてた街頭時計はずっと四時半


0223

仮囲いされた団地の外側に去年と同じ梅が落ちてる

こっちだよ、こっちこっち、と呼ぶ声を聞いたらだめな通りを抜ける

ベランダに干した布団のうす青い色を見た気がして振り返る