0301
いちばんになるのはとっくに諦めて梅はひとりでつぼみを開く
根本からぼたぼた落ちる木蓮のすぐに失くしてしまう潔白
ちょっとだけ泣きたくなって目をつむる道に香っている沈丁花
0302
恐れ入りますがあなたはきらいです下記詳細をご覧ください
マニキュアを塗った指だけ落とされて延々踊る電卓のうえ
0303
しゃべりたいことは絶えずに降りつもり日差しを受けてゆるみ始める
0304
諦念は軽く投げ捨てられている鳥よけネットの波打つかたち
この町でいちばん明るい場所ですと手を引かれゆくコインランドリー
来るときは立ってた人がいなくなる真っ暗闇の中のバス停
0306 お題:オール
喋ってる声が途切れて終わるのがこわいのだって所詮五時まで
半分は眠ったままで眺めてるマックの床はやけに明るい
このバスはトンネル経由退屈です単調ですはい次で降ります
0307
においだけわかって花を探せない人家の前をまた行き過ぎる
鶏肉は皮目を下にして置いてフォークで強く執拗に刺す
試し塗りしてたネイルのラメだけが薄く残って鱗に見える
0308
睨まれた気がしてぱっと目をやった電車の窓に自分がうつる
外線を取るためだけに機能する1オクターブ高い肉声
足りてないものを数えるために折る指も間に合ってない不良品
0309
謝って薄くわたしをすり減らすなるべく早く消えちゃいますね
カーテンの隙間を抜けてまっしろに壁を染めてく外は明るい
まっとうになりたいなんて願わずに済む人間になれますように
0310
思うまま殴られている、打った手の、高く上がって輝いたこと
希釈して口あたりのいい飲水にするくらいなら涸れてしまえよ
ふさわしいことばを探す 一生じゃ終えなかろうが探して渡す
0313 お題:白線の内側
(白線の内側黄色いブロックに沿って並んだ息がしにくい)
雨が降る前のにおいがしてきてるホームの端はすぐに濡れるね
大判のマスクは浅くなる息もだいきらいだも隠すのに向く
白線をどうにか超えるずたずたになって剥がれていくだけの生
0315
アクリルの絵の具はとうにひび割れて昨日の雨を忘れてしまう
間違ってばかりのぼくに降り落ちるミモザのいかにも正しい黄色
壊さないようにフィルムを押し込んだ蓋のかたさを指は覚える
0318
みんなには出来ているのに下手くそなままのわたしはネジが足りない
叩いたら直ると聞いて何回もこぶしで胸のあたりに触れる
スクラップ工場に行く粉々になれば少しは輝けますか
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さみしさはあまいかそれとも海に似て塩からいのか教えておくれ
推敲をしてくと最後は紙切れの薄さになって消えちゃうことば
ひとりでも生きていけると言うときの嘘とほんとの比を求めなさい
0319
そのうちに意味をなさなくなるだろう頻出単語としてのさみしさ
スプーンの冷たさばかり気になってプリンは舌になじまなかった
それらしい御託を並べてみてるけど嫌われたくないだけだ、ほんとは
0320
一晩もすれば噛んでたくちびるの色に染まっていく花の白
まばたきのあとには消える影が見え春の曇りはかすかに不穏
いなくなるひとには桜の下という定位置があることの幸い
0321
痛くって泣いてた夜を思い出す湿った春のにおいがしてる
忘れてもいいことはある あのときに、さわれないまま別れた右手
呼べばすぐなあにと応えるひとがいる今ならきっと愛せそうだよ
0326
ぽっかりと口を開けてる孤独には活字を与えてやればよろしい
せり上がる涙の気配はかぶりつくファストフードで掻き消しておけ
0327 お題:根っこにあるもの
贖いの方法ひとつ知らぬまま歩き続けるために生まれた
足りてないことばかりです 大切にするって何を、誰が、どうして
目の奥と喉の深くの鈍痛をごまかしたくて沈む浴槽
頼んでもないのに、なんて、傷付けているのはわかるけどそれだけだ
告解の小部屋は狭く夕暮れの薄いひかりが床に落ちてた
0329 お題:桜
幾百の花弁が雨で貼りついたコンクリートは鱗をまとう
無遠慮に桜の色を変えてゆく競技場から溢れた光
欲しいって叫ぶことすらできなくて指先をすり抜けた花びら
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お題:肉まん、麦茶
なんだって分け合っていた肉まんも届かないって喚いた夜も
泣かせたい訳じゃなかった口にした麦茶はぬるく胸にこぼれる
0331
いなくなるならありふれた日を選ぶ誰も覚えてられない春の
口笛は遠く遠くへ飛んでゆく僕はこれから滅びに向かう
撮りためたフィルムは無理に現像へ出さなくていい、きみに任せる