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短歌と感想ほかまとめ

「アイドル短歌25のお題」の振り返り

#アイドル短歌25のお題 をひと通り作り終わったので、ゆるゆると解説というかメモ書き。



お借りしたお題について詳しくはこちら↓



今回は「あるアイドルの話」という大きなテーマのもと、5首1セットとして不定期に更新していき、最終的に25首完成させる、というかたちで取り組んだ。
この形式にしたのは、正直に言うと、「25首でひとつの連作をはじめから作ろうとすると永遠に仕上がらなさそうだった」ということが大きい。自分の集中力のなさは自分が一番よく知っている。
無理なく取り組めるかたちで、でも1首ずつ完全にバラバラよりはある程度まとまりがあるものを作りたい、というめちゃくちゃな気持ちが合わさった結果、ひとつのテーマに沿って数首ずつ作って更新していけば、ある程度は統一感も出るし、作り続けるモチベーションも保てていいのでは? というところに行き着いた。

テーマを「あるアイドルの話」にしたのは、後述する1首を作ったことがきっかけになっている。
加えて、ある程度広がりを持って作るほうが楽しくできるかなと思った。アイドルを特定のひとりにしてもよかった(し、それでもやってみたい)が、はじめに作るには、その時々でイメージする人物像を変えられるほうがいいような気がした。読み手側にも自由に想像してもらいやすいかな、と思ったのもある。
また、おそらく特定のひとり(=自担、推し)に沿わせて作る方が多いかな? とも思ったので、あまり被らなそうな方向性として、このテーマに決定した。

ちなみに、「数首ずつ」という単位についても悩んで、その時々で変えようか(5首のときもあれば3首のときもある、など)とも思ったが、結局はわかりやすさ・やりやすさ重視で5首ずつに統一した。結果、すっきりしてよかったかなと思う。
ただ5首単位だとツイート本文には入りきらないので、ALTを活用しつつ、3首特に選んで載せる、とこれも統一した。ちなみに選びかたは完全にフィーリングというか、この中だと個人的にこれが好きだな、くらいの感覚。

以下、各首のかんたんな解説というか振り返り。
5首1セットにしていたので、その単位でのテーマもあわせて。


1)あるアイドル①
「あるアイドル」ってどんな人? というテーマ。まず何となくでも人となりや立場をイメージしてもらえるといいな、と思って作ったもの。個人的にはなんとなくJr.もしくはいろんな人のJr.時代を想定していた。

1「担当」または「推し」→「担当」
この人はおれが好きって信じてもいいらしくってやけにまぶしい
・・・
「担当」についてファンの視点から詠むのがなかなか難しく、いっそ「担当」されている側からの方が作れるかも、と思ってやってみたら楽しくできた。
また、この短歌ができたことで25首全体のテーマを「あるアイドルの話」にすることを思いついた。

2「魔法」
かけられた魔法はひみつ、指先の鳴らしかたなら教えてあげる
・・・
アイドルの皆さんって大体指パッチンができるなあと思っていて、あれはいつどこで習得するんだろう……という気持ちから。また、アイドル自身からすると、魔法は「かけられた」ものでもあるかなと思って。

3「星」
燃え尽きていくための生かわいそうなんて言われる筋合いはない
・・・
アイドルを星に例えることが多々あるが、星はいずれ燃え尽きるものと考えるとなかなか残酷だなと思った。さらに、残酷だと思うこと自体が傲慢なのでは…と思ってしまったところから。

4「花」
枯らしたらごめんと思う わかってて花瓶をずっと買い損ねてる
・・・
職業柄、花束をもらうことはあるけど部屋に花瓶がない…というような話を雑誌で読んだ覚えがあったので(どなたのお話だったか失念してしまったけど、おそらくドル誌)
花束についてはカン・ハンナさんの「六畳に困る大きな花束は洗面台で満開を待つ」という短歌がとても好きで、これも頭の中にあった。

5「手紙」
ひらいたら崩れてしまう夢を見て宛名の文字を指でなぞった
・・・
ファンレターについて。「ひらいたら崩れ」るのは、学生時代に図書館学の講義で、様々な記録媒体(CD-R、USB等)があるが紙はとにかく長く残る、新聞紙なども開くと崩れるので触れないが、そのまま保管はできる、そこにあるということは残る、といった話を聞いたことを思い出して。




2)あるアイドル②
「あるアイドル」ってどんな人? というテーマ、もう少し深掘り。たとえばグループ、たとえば舞台班、たとえば…と想像できるようなものにしたかった。

6「声」
思うのと違く聞こえるこの声がきみの知ってるぼくになってく
・・・
電話や録音音声を聞くと自分の声って全然違って聞こえるな、というところから。たとえばYouTube、TV、ラジオ、CDと様々な媒体に記録された自分の音声を聞いたとき、はじめは誰だこれ、と思うんじゃないかなと考えた。

7「神様」
神様の不在に気付く 手のひらを合わせる癖は今も抜けない
・・・
芸能人が活動していくにあたって、ある程度運とかツキも関わってくるよね、なんだか間が悪いところにばかり当たるってこともあるし…というような話を友人としていたのを思い出して。自分には神様がついていてくれるのかどうか考える人の話。

8「演」
演技とはいっとき自分をやめられる合法的な手段のひとつ
・・・
アイドルでなくてもある程度外向きの顔というのは持っていると思うが、アイドルはそれが顕著だと思っていて、演技をすることでアイドルという自分から離れられることもあるのかなと考えていた。

9「少年」または「少女」→「少年」
真っ当で賢く強い少年でいてくれ、だって おれもよく言う
・・・
共演をきっかけとした後輩との交流や、何かしら指導する場面などをイメージして。

10「憧れ」
間違えたときに胃が浮く感覚をほとんどもたずに生きてけるひと
・・・
メンタルの強さ、の話は雑誌などでも聞くなあと思って。一応「あるアイドル」としてはあるものの、この短歌は自分の好きなタイプが反映されているなあと思う。




3)あるアイドル③
「あるアイドル」ってどんな人? というテーマ、よりパーソナルな方向へ。ちょっと自分の好きなタイプに寄ってるかも。

11「諦め」
はじめから欲しくなかったふりをするそのうち本当になる気がしてる
・・・
諦めるのが上手い、というか、諦めたことを周りに悟らせない、もしくはなんとなくわかってもどうにも手出しできないように上手く振る舞う人っているよなと思って。

12「甘い」
お砂糖とミルクはご入用ですか、声音はこれで適切ですか
・・・
「声」とも被るかなと思ったものの、甘い声、というものがとても好きなのでそのまま素直に作った。なんとなく上句と下句のバランスが気に入っている。

13「痛み」
痛かったときは右手を上げるから平気だよって軽く笑った
・・・
平気だよって笑うくせ絶対痛くてもこの人は右手を上げないな…と作りながら思った。そういう人が好きです。完全に自分の好みなので解説にすらならない。

14「夜」
終電がなくても家には帰りつく 夜とも呼べない隙間に眠る
・・・
アイドルの皆さん、めちゃくちゃなスケジュールで動いてるときあるな…という気持ちから。体は大切にしてほしい。

15「キス」
好きじゃない人としたって表向きいつものキスに見えてるらしい
・・・
キスシーンに限らずではあるが、演技をしたときに、その人の経験による部分(無意識、自然とそうなった動き)と、完全に演技している部分(その人自身はしないけど役としてはそうする動き)と両方あると思うが、見る側は実際のところ判断がつかない。そこをすべて前者として見られるとしたらかなり嫌な気持ちになるのでは…と思って。




4)シンメ、グループ
「あるアイドル」のシンメやグループのメンバーについて。「あるアイドル」自身でも、シンメやメンバーでも、どちらの視点でも読めるようなものにしたかった。

16「鏡」
対称の位置にいたひと似てはないくせに言いたいことはわかった
・・・
シンメのイメージ。はじめは相手のこともよくわからないし何か違うタイプかなと思ってるけど、一部どうしようもなくわかるところがあるとか、そういうかんじかなと。

17「名前」
呼ばれても自分じゃないと思ってたぼくたちにつく新たな名前
・・・
これはグループの話。グループがどう出来るか、というのは本人たちの意思だけによらない部分もあるのだと思う。そういった面を書きたかった。

18「手」
いつだって平気な顔で冷えきった手指を隠す腕を掴んだ
・・・
「あるアイドル」をシンメやメンバーが見ると、という短歌。これも自分の好みが如実に出ている。

19「走る」
後ろから怪物が来るおれのこと飲み込む前に走って、走れ
・・・
シンメにしろグループにしろ、一緒に走るって表現を結構するよなあ、と思ったところから。これはわりと「あるアイドル」視点寄り。

20「旅」
もうずっときみが大事で帰れない旅へ一緒に出たっていいよ
・・・
グループを組んで活動している人たちは人生のほとんどをそのメンバーと過ごすことが多く、自分の家族よりもメンバーと過ごした時間の方が長い、というような話から。




5)ファン
「あるアイドル」のファンについて。これも4と同じく「あるアイドル」自身とファンどちらの視点でも読めるようなものにしたかった…が、結局ファン視点にかなり寄った。

21「ライト」
新しい電池に換える永遠に輝くものはないとしたって
・・・
ペンライトを使っていくうちに電池が消耗して、段々色がはっきりつかなくなるのをこの夏経験したところから。いつか終わるとしても出来る限りのことはしたいという話。

22「時」
コンマ1あればよかった瞬きで世界がきみのものになるまで
・・・
かなりファン視点。ライブでも円盤でも、あ、ここ、と印象に残る部分って、振り返ってみると本当に一瞬だったりするなあと思って。

23「メンバーカラー」または「色」→「メンバーカラー」
果物や空や雑貨の色を見て誰かが浮かぶための条件
・・・
メンカラという文化が本当に好き。ファンだけではなくアイドル自身も、自分のメンカラを普段から意識して身につけたり気付くと周りに集まっていたりする…というところから。

24「さようなら」
さよならと動くあなたの唇のおそらく別れに慣れてるかたち
・・・
18「手」の仲間というか、「あるアイドル」をファンが見ると、という短歌。そのためかなり自分の好みで作ってはいる。

25「アイドル」
この人を好きとわかって照明は姿をかき消すほどにまぶしい
・・・
1「担当」と対になるものにしたかったのでこれはファン視点。ライブなど生でアイドルその人を見て、この人が好きだ、と理解する場面を書きたかった。ライブや舞台の強い照明もかなり好き。