scrap

短歌と感想ほかまとめ

短歌/アイドル短歌をつくる

短歌/アイドル短歌を作るにあたり、何となくの感覚でやっていることが多すぎるので、どうやって作っているのか? ということを可視化してみようかと4月頃に思い立ってログを残していました。
そのログを見返して、順番を整えたり、補足をしてみたりしたまとめです。メイキングになっていたらいいなとは思いますが、いかんせん曖昧な箇所が多いのでご了承ください。




1. 対象

今回ログをとりながら作っていたのは下記のアイドル短歌です。

ここにいるぼくじゃなければ春草のにおいを嗅ぎもしなかったろう
深くまで手を差し入れて心臓の(または痛みの)位置を覚える
目のふちに触れるとわずかに濡れている かなしいことはないよ、なんにも
 ……… Snow Man 深澤辰哉(BARFOUT! vol.319 2022/3/18発売)

「BARFOUT!」に掲載された写真・記事がとても好きだったので、アイドル短歌のかたちにすることにしました。
ただ好きすぎて直後はまったく言葉にできず、どうにかメモをとり始めたのが2022/4/2でした。頭の中で延々考えている時間がたっぷり2週間はある。


2. 短歌/アイドル短歌を作る流れ

まず、大まかな流れはこんなかんじ。

 1. 書きたいものを決め、イメージを膨らませる
 2. 途中で出てきた言葉、使いたい単語、などをとっかかりに言葉を並べる
 3. 短歌のリズムになるように整える

このうち、1の工程は基本的に全部頭の中でやっています。メモもほぼとらない。
ただ、この工程にかなり時間をかけるので、まずここを見える状態にしないと、2の作業がよくわからない(いきなり言葉、単語が出てきたようになってしまう)。
そのため、普段とは違う方法にはなりますが、考えている内容をおおよそそのままメモ帳に打ち出していくことにしました。
また、2と3の工程は、録画もしくはチャットなど、書いては消しという動きのログが残るツールを使ってみることに。
このことで、「どう考えたか」という部分が(全部は見えないにしても)あとからある程度は追っていけるようになるかな?という想定です。


3. 実際の工程

ここからは、先述の大まかな流れに沿ってやってみたことのログです。
言語化してみようと思いはしたものの、やっぱり感覚に頼っているところが多かったのと、作ってから時間が経ってしまったのもあって、曖昧な箇所が多いですが……
あと致命的なのが、題材をアイドル短歌にしたことで、題材にとったもの(人、内容)を知っている/知らないでも、おそらくはイメージしやすさに差が出るだろうこと。やる前に気付けという話ではある。
※今見返してわかる部分には補足を入れていきます

3-1. 書きたいものを決め、イメージを膨らませる(1回目、2022/4/2実施)

上記のとおり、普段はすべて脳内で行っていて、たまにiPhoneメモ帳に単語やフレーズなどを残しておくくらい。
今回は「何を考えていたか」が少しでもわかりやすいように、考えていたこと・思い浮かべていたことを基本的にはそのまま書いています。
メモ帳に書き付ける時点で思考から落ちていったものはあると思いますが、もうそのあたりはどうにも追えない……

・・・・・

バァフアウト 深澤さん
白い花の写真 白い花が手前にあって、その花越しに見ている写真
花の向こうにいるひと
手を伸ばしても花に阻まれそう、そのひとには触れられなさそう
花は生の象徴 ちょっと生っぽい 草のにおい
触るとちょっとざらざらするような 毛羽立つ
花の向こうにいるひとの生きているのにそのてざわりが薄いこと
白いシャツ たよりない生地 素肌に着ていてちょっと肌の色が透けるような 体温の感覚
ふれることは出来なくて掴めるのは別のもの
そのひとはそのひとでそこにいるのに実際のところ手で触れられはしない 確かめられはしない
目線の話 目の色は黒 光の入りにくいかんじ
まっすぐ前を向いているのに目に光がさしてない
暗い目ではないけどちょっと底知れなさがある
感情の読み取りにくさ
すとんと表情をなくしてしまうとその人の中身が掴みにくくなる
親しみやすいかんじ、気やすさ、さらさら喋っていく 社交性 人当たりのいい雰囲気
それとは反対にちょっと怖いくらいの、何を考えているかわからないかんじ
(補足)
このあたりは全般的に、どこを切り取るか?特に何を書きたいか?を考えていた
具体的な写真を思い浮かべつつ、その写真に惹かれる理由を言葉にしているかんじ
手触りの話、目線の話、はずっと好きなので、ここでも書いてある
後半6行くらいは深澤さんご本人の好きなところだな…と今読み返すと思う


草花 花をつんだ野っ原 今はない場所
駐車場になってる
白い花=マーガレット
白のマーガレットの花言葉
心に秘めた愛、恋占い、信頼
信頼 がグラビアでとりたかった意味として強そう?
わたしを忘れないで
グラビア 光のイメージ 白く明るい場所だけでもない
暗さがあるからぱっと入る光の印象が強くなる
わたしを忘れないで、の 忘れないで 忘れないこと 覚えていること
(補足)
マーガレットと一緒に写っている姿が特に好きだったので、そこから広げようとしている
花から花言葉に繋げるのは単純かなあと思いつつ、でも意味はあるだろうし…と思って調べて書いた覚えがある
この中で「わたしを忘れないで」が特に印象に残ったのでそこから広げようとしたのが最終行
忘れること、覚えていること、は元々から好きな題材


週刊朝日も白い薔薇を持っていたけど あと白いシャツも着てた 白いのはGinaもそう
なんかそういう雰囲気につなげたくなる人なのか
何にでも染まってくれる人 なのかもしれない
舞台であるとかドラマであるとか グラビアでもいい
何を着ても何をしていてもどうしようもなく いい悪いでもなく そのひとだ、と思うタイプの人と
その都度まっさらになってしまって、くるくる印象を変える人と 大まかに分かれているとして
明らかに後者の人だと思う 染まってくれる
でもそれはひとつの特性であって 主体性がないとかそういうのとは別
何かを演じるとき、表現するとき、に、自分を引っ込めるというか 自分ではないものを被ってしまう
(補足)
花について考えるうちに、同時期に出ていた別雑誌のこともイメージ(週刊朝日、Gina)
白いシャツをまとった雰囲気がいいなあと思っていたので、そこから深澤さんに感じる魅力をもう少し具体的に書いている箇所


3-2. 書きたいものを決め、イメージを膨らませる(2回目、2022/4/4実施)

ここまでメモしてみたものの、まだ短歌のかたちにはできないな……と思っていたので、一度打ち切りました。
もう少し考えてみようとして書き始めたのが2日後でした。このあたりのタイミングに深い意味はなくて、おそらくまとまった時間がとれたのがその日だったんだと思います。

・・・・・

Gina表紙で3首(3首めに深の字)、週刊朝日表紙で3首(1首めに深の字)、だから3首セットで真ん中に深の字、で作れるとバランスがいいかも
Gina 伏せられた瞳は深い色をしてさざなみさえも隠してしまう
週刊朝日 やさしさにかたちがあれば深々と降らすあなたを眺めて過ごす
白い花のと 表紙のと あとすきなやつ インタビューページの上の写真好き インタビューの内容と絡められたら絡める
(補足)
この時期、表紙掲載雑誌が複数あったので、それぞれを題材にアイドル短歌を作ろうと考えていた
「Gina」「週刊朝日」から3首ずつ作っていて、どちらも深澤さんのお名前から「深」の1字を入れていた。並びについての案もこの時点で簡単にメモ
最終行は改めて、「BARFOUT!」の中の写真だと特にどれを書きたいか、ということを書いている


頼りないカッターシャツの手ざわり
深い 色 一番色が深いのは表紙かなあ 表紙だけちょっと特殊な気がする
深み 深淵 深海
頼りないカッターシャツの肌ざわり
白のマーガレット 秘めた愛 深く沈めた愛
本当のところは深くにあって見えない
表紙 手指 鏡にうつる
マーガレットの向こう いたこと、見ていたこと

1 頼りないカッターシャツの肌ざわり
2 深く沈めた マーガレット
3 インタビューページの写真
インタビューでも自分のつらいとかしんどいとかそういうのあんまり出したくないって話があった

1 頼りないカッターシャツの肌ざわり
2 マーガレットは深く沈めた
3 インタビューページの写真
(補足)
まだふわっとしているところもあるけれど、ひとまず言葉にしてみるか…と思って書き始めた箇所
「頼りない~」がこの時点ではいいかなと思ったので、それをベースに3首まとめるなら、という案を2つ


手の中にみどりのにおい
メンカラがあるからあんまり色の話はよしたほうがいいのか あとGinaでも色って使ってる

マーガレットの開花期は11〜5月
誕生日は5月
おしまいの〜とかって好きだからやりがち
春草の 多年草だからあれだけどまあ
春草のにおいをくぐる
(補足)
3首セットの案は出したものの、中身があまりにも浮かんでいないので、別案を出してみる
メンカラの話とか、「おしまいの~」をやりがち、というのは本当に思ったまま書いているので若干生々しい…


涙がこぼれてる写真と 目のふちに引っかかって落ちそうで落ちない写真 あれもよかった 感情の揺れ
感情があんまり表に出ない ふわふわとして掴めない というひとの、感情がわずかでも表に出たような

1 つかめなさ 手の話 手と顔とテーブル?に写っているのもあった ゆらぎ マーガレットの写真の右ページもいいけど短歌につなげられるのか、
2 頼りないカッターシャツの肌ざわり
マーガレットは深く沈めた
3 感情の揺れ 落ちそうで落ちない涙
自分でも泣いていることに気付いていないような
(補足)
イメージが膨らまないので完全に違う方向へ行こうとして、3首セットの中身もほぼ総とっかえしたバージョン


3-3. 書きたいものを決め、イメージを膨らませる(まとめ)

このあたりでようやっと、題材の選択・構成が最終形に近い状態になってきました。
参考まで、最終形と紐づけてみるとこうなります。

(構成案:最終)
 2 頼りないカッターシャツの肌ざわり
   マーガレットは深く沈めた
   ↓
(最終形)
 1 ここにいるぼくじゃなければ春草のにおいを嗅ぎもしなかったろう

(構成案:最終)
 1 つかめなさ 手の話 手と顔とテーブル?に写っているのもあった ゆらぎ
   ↓
(最終形)
 2 深くまで手を差し入れて心臓の(または痛みの)位置を覚える

(構成案:最終)
 3 感情の揺れ 落ちそうで落ちない涙
   自分でも泣いていることに気付いていないような
   ↓
(最終形)
 3 目のふちに触れるとわずかに濡れている かなしいことはないよ、なんにも

3-4. 短歌の形を作る(テキストライブ、2022/4/17実施)

書きたい題材がある程度決まったので、実際に短歌の形にしていく工程。
はじめにあげた流れのうち、
 1. 書きたいものを決め、イメージを膨らませる
 2. 途中で出てきた言葉、使いたい単語、などをとっかかりに言葉を並べる
 3. 短歌のリズムになるように整える

2と3に該当する部分です。今回は、テキストライブで記録をとっていました。

・・・・・

録画時間は40分程度。
合間で完全に止まっていたり、意味のない動きをしていたりするので、実際に作っていた時間はもう少し短いとは思います。
20分過ぎくらいから具体的に言葉を出したり入れ替えたりしているので、そのあたりから見るとわかりやすいかも。ここまでくると最終形に大分近い。

アーカイブは下記リンクから見られます。


アーカイブを見返して、流れも追ってみました。なんとなく、ここが変化があった部分かな?という場面を切り取っています。

1)思いついた言葉を並べるところからスタート
  最初から「かなしいことはないよ」がいる。このフレーズは最後まで残っていた


2)「春草のにおい」が出てきた
  結局残さなかったけど、「~涙ではない」は結構気に入っていた
  言葉が出てこないときはとりあえず「・・・」を置いておく、は普段からよくやる


3)「ここにいる~」の原形が出てくる


4)「目のふち~」の原形が出てくる


5)特に残したらいいかも、と思ったものを上部に持ってきた
  この時点で何となく最終形っぽい雰囲気がみえる


6)ずっと残されていた「かなしいことはないよ」が組み込まれて、ほぼ最終形に近くなる


7)マーガレットについてもどうにか短歌にしようとしている感
  画面下部に置いていたフレーズを元に組み立て始めた


8)元々あった「ぼくじゃない~」と「春草」が合体


9)ほぼ最終形
  3首セットにするうち1首に「深」の字を入れる想定だったので、何か作ろうとしている


10)ひとまずここで録画を切ることにして、完成は2首


3首作れたらいいなと思ってはいたのですが、集中力が切れたのと、何もここで全部仕上げなくてもいいな…と思ったので、最終形の1と3になる短歌をあらかた作ったところで録画を切りました。
その時点で出来上がっていた2首はこちら。

 ぼくじゃない誰かだったら春草のにおいを嗅ぎもしなかったろう
 目のふちをなぞった指が濡れている かなしいことはないよ、なんにも

3-5. 短歌の形を作る(テキストライブ外、2022/4/17実施)

録画を切った後、3首セットの構成と作った2首を見返して、残り1首を作っていきます。
構成案:最終にあった「つかめなさ 手の話 ゆらぎ」といったイメージをどう書くか?
このあたりでもう一度雑誌を開いて、どの写真を特に題材にするか練り直した記憶。
また、ある程度形にしていた2首についても、全体のバランスや、口に出したときの感触から、さらに手を入れて整えました。

(元)   ぼくじゃない誰かだったら春草のにおいを嗅ぎもしなかったろう
(最終形) ここにいるぼくじゃなければ春草のにおいを嗅ぎもしなかったろう
 → 「ここにいる」ことに重きを置いた方がいいかなと思って変更
 → マーガレットの写真から。この写真については初期の頃からずっとメモしていた


(元)   目のふちをなぞった指が濡れている かなしいことはないよ、なんにも
(最終形) 目のふちに触れるとわずかに濡れている かなしいことはないよ、なんにも
 → 最終形2首目に「手」を使うので、「指」があると重複するな…と思って変更
 → 涙が目のふちに引っかかって落ちそうで落ちない写真から。感情の揺らぎについて


(最終形) 深くまで手を差し入れて心臓の(または痛みの)位置を覚える
 → 先述のとおり「深」という字を入れる短歌にしたかった
   痛みというモチーフも深澤さんを題材にとった短歌で結構作る
 → 仰向けで横たわっている写真から。さらけ出しているようで、どこか底が見えない印象


3-6. 構成を決める(テキストライブ外、2022/4/17実施)

3首作り終えたところで、並びを整えます。
4/4時点で「Gina表紙で3首(3首めに深の字)、週刊朝日表紙で3首(1首めに深の字)、だから 3首セットで真ん中に深の字、で作れるとバランスがいいかも」とメモしていた通り、真ん中に「深くまで~」を持ってくることは決定。
残り2首をどうするか、と考えたときに、よりあっさりとした「ここにいる~」を1首目、どちらかと言えばインパクトがありそうな「目のふちに~」を3首目に置きました。
これは完全に感覚と好みの話になりますが、最初より最後の方が印象に残るかな…と思ったのと、「かなしいことはないよ」は深澤さんが言うようなイメージだったので、最後に置いた方が全体の流れを切らないというか、ふっと囁かれて終わる感じがしていいかな、と考えていました。


4. まとめ

最終的に仕上がったのがこの3首。並びもこれで確定です。

 ここにいるぼくじゃなければ春草のにおいを嗅ぎもしなかったろう
 深くまで手を差し入れて心臓の(または痛みの)位置を覚える
 目のふちに触れるとわずかに濡れている かなしいことはないよ、なんにも

あとは「文庫ページメーカー」でかんたんに形を作っておしまいです。
画像はもう少し凝ってもいいのかなと思いつつ、そこまで根気がないのでいつもシンプルにしています。
画像やデザインによって印象づけられるのはいいな〜とも思うんですが。今のところは自分のイメージに近い色を持ってくる、で統一しています。




ひと通り流れを書いてみたものの、これで果たして伝わるのかは謎……。
自分としては、ある程度はじめからイメージがぶれずに短歌の形にまで残っているんだな、と実感できたのでよかったです。今回だったらマーガレットとか、ずっとどうにかして入れようとしている痕跡がある。
逆に、詰まったところでそれまでのを捨てるのも大事なんだな…と、当たり前ではありますがよくわかりました。4/4の箇所で3首の構成をほぼ変えてるので…
あと、短歌をどう並べるか?という、これは連作を作るときの話になりますが、そのあたりも結構作り始めの頃から意識しているんだなあとか。
総括して、至らないところも多いとは思いますが、やってみてよかった。言語化するのって難しいけど楽しい。また何かしらこういうこと出来たらいいなと思います。


なにかあればお題箱まで。
もう少し噛み砕いた方がいい箇所、ここが気になる、など教えてもらえるとうれしいです。他の短歌についてでもなんでも。