ほんとうは黙っていたら変わらずにいられたのにね、ごめんね、すきだ
ごめんねと言って塞いだきみの目に映ったぼくが泣いていたこと
困らせるだけだろうってわかっててそれでも告げるぼくでごめんね
「 、」って言いかけたその唇のかたち わかるよ、だけどどうか黙って
1ミリも心はこもっていないのにきみがごめんと言う声が好き
ああいた、と笑い合ってるひとたちを見たいとき行く到着ロビー
着ぐるみに顔を埋めてひとり泣いたときの頼りないやわらかさ
着歴をなぞり呼び出し音鳴らす「はい、」と聞こえるまでの永遠
指先で小さなカメラ作るとき「撮るなよ」なんてはにかむあなた
シャッターを祈るみたいに押している 覚えていてね 忘れないでね
こんな顔するんだな、って思ってるあの子が撮ったきみの横顔
ここがいちばん好きだって秘密打ち明けたあなたがザラメをくれる
「ぐり、ぐら、ぐり、ぐら」「それ好きだった」「ね」ふたりで分ける福砂屋キューブ
うなされてたって不安げなひとの手で締められていた首の感触
ガラス器の光ほっぺに反射してまぶしいくらい桃を食むきみ
とぼとぼと路地を曲がれば線香のにおいがすぐそこにあった夏
ぐらぐらと揺れる頭を引き寄せてどこにも行かぬようにと思う