0903 ワンドロ「一」または自由詠
降りますとただそれだけが言えなくて閉まってしまうドアの正面
あ、泣く、と思ったあとに喉と目の奥で火花が爆ぜる一瞬
一番線ホームにうずくまっている 逃げ出せるならそうしたかった
0909 9月コミュニティ題詠「文房具」
蛍光のペンさえまぶしいときがある誰かのかざす正義のにおい
でかでかと油性マジックで書き出せるきもちできみに会えたらよかった
ぼくのこと忘れてくれていいよって消えるインクで書かれた手紙
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裏紙の下で息づくあやまちに生きてくことを許されている
0911
駄々っ子のふりだってする何それと呆れたきみの声が聞きたい
いい人であるのをやめてぼくだけの前でいちばんだめになってよ
困らせてばかりだったね 触れてみた頬は熱くも冷たくもない
・
くだらないことはいくらも言えたのに名前ひとつも口に出せない
だめなこと許してしまう昼にしか摂取できない栄養がある
間違えた、なんておどけて引っ込めた指の震えに気づいてしまう
0913 ワンドロ「ふたり」
ぼくだけがほどけるリボンふたりきりでしか聞けないゆるい抑揚
きみがどう思ってるかはわかんないいつものふたりなんて呼ばれて
重ねても汗ですべってしまう手のなすすべもなくふたりだったね
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さみしさは存在しないとされているふたりぼっちの王国にいる
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にぎやかなテレビの前で泣いているきみを抱いても混ざり合えない
0917
ええかっこしいはこういうとき困る 吐けない喉に指を突っ込む
泣きすぎた目元にさした薄紅がいちばん似合うと思ってしまう
ぐずついたとこばかり見る人様にちゃんとしてると言われるおまえ
0918
雨の日は電話をかけても拒まない多分付き合うことのないひと
煮くずれる果肉になってきみのこと上手に嫌うすべも持たない
知っている限りでいちばんずるかった黙って伏せた瞼のうすさ
0923
きらいって嘯くおれのかたわらを占めてる熱に慣れてしまった
溶けのこるスティックシュガーいちばんじゃなくても選んでくれた残酷
すきなことなるだけ嘘っぽくはなす特別じゃなきゃ失われない
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ワンドロ「道」
道端の花を殺してきみに合う色のリボンを掛けたぼくです
水道で何度も何度も手を洗う血なんてひとつもついてない手を
歩道橋のぼって月が近くなる断罪されるときを待ってる
0927
スーパーの床でごねても許されるタイプとそれを見ているタイプ
言わなくてよかったことにまみれてる体の汗とは違ったにおい
シュレッダーもうちょい大きいならいいね 粉々になるものはきれいで
0928
忘れててごめんと思う 湿っぽい花のかおりを肺に届ける
金色の星が地面に落ちるころ僕らきれいにさよならしよう
0930 ワンドロ「降」
降りるのも力がいって発色の鈍いランプを押せずに過ごす
明日以降晴れるでしょうというテレビ嘆き足りないならご勝手に
雨の降る前は大抵いなくなるあなたを抱いて眠りたかった
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投降の合図にかえてぎこちなく袖を引っ張る骨っぽい指
好きだって言うのはそっちと決まってるいいからさっさと降参してよ
降伏であったと思うどこよりも薄い色したまぶたの震え