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短歌と感想ほかまとめ

10首連作「フォーカス」

半券を千切れずにいるチケットをなくさないようそっとしまった

うっすらと曇りつづける春先の空にまぎれて消えた花びら

ほんとならあなたへ振れた手のひらの行き場がなくてしずかに下ろす

つっかえた喉の奥ではいくつもの言葉が息を引き取っている

かみさまがいるなら二度と誰ひとりあの空席を見ませんように

かなしみはなくていいです出来るならずっとやさしくあってよ、世界

誰ひとり聞くことはない歌声が不織布のなか染み込んでいる

揺らされるライトがきみの目にうつるその瞬間を残したかった

傘越しに見上げた雨は明るくてこれならきっとすぐにやむだろう

ぼくら立つ場所には絶え間ないひかり とびきりのよいものになりたい

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元々は「たにゆめ杯」に応募したもので、10首1篇・未発表作5首以上で構成されていること、というルールを元に、1・5・6・10首目が既発表/それ以外は新たに作ったもので構成しています

また、短歌とアイドル短歌を混ぜても成立するのか試したい、という考えが個人的にあったので、5・6・10首目はアイドル短歌として作り発表していたものを持ってきていました

ちなみに、5・6首目はSnow Man 深澤辰哉さん、10首目はSnow Manをそれぞれ主題において作ったものです

去年からずっと考え続けている、なくなってしまった、止まってしまったさまざまなライブや舞台のことについてひとつの形にしたいと思っていたため、ライブなどが以前の状態に近付き始めたタイミングで連作を作れたことは、区切りとしてよかったかな、と感じています

(応募作品である、ということを考えると、まったく票には結び付かなかったので、ひとつも結果は出せていないのですが、評価を気にすると何も作れなくなる人間なので、今時点ではあまり考えないことにします)

改めて見てみると、連作の中で意図せず同じ言葉を使ってしまっているなあとか、テーマが掴みにくいなあとか、いろいろ粗が目立つので、それはこれからの課題として……連作の構成を考えるのは楽しかったので、まずはシンプルに、それが何よりよかったなあと思っています

 

 

 

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2020年の春からこちら、なくなってしまったライブや舞台、イベントは本当に、数えきれないほどあって、個人的な話として、チケットを取っていたのに潰えてしまったものもかなり多い(関ジャニ∞のツアーも、Snow Manのデビューツアーも、日食なつこさんのライブも、丸山隆平さんの舞台だって、ぜんぶそうだ)

どうにもならないことは分かっていても、悲しかった、苦しかった、腹立たしかった、いくつもの感情はずっと自分のうちにあって消えてくれない。折り合いをつけるしかない、とはわかっていても。

さらにいうなら、わたしが苦しいと思うよりもっと、舞台に立つ人たちはより苦しく感じているだろうことも、この1年、2年近くの間に、さまざまな媒体を通して感じていたし、やりきれなく思っていた。

そういういろいろなことを、何か思うたびどうにもならず、ぎこちないながらも短歌のかたちにしてきていて、それは特に2021年の春、多くの舞台が延期または中止になった頃が一番多かったように思う。

そういった時期から、今は段々と元の状態に戻りつつある。もちろんすべてが解決したわけでも状況が完全に好転したわけでもないけれど、少しずつでもやれることをやって、どうにか、エンタメを途絶えずに続けていこうとしている。エンタメは不要ではないと示そうとしている。

10月、いくつかライブや舞台に行くことができた。一度はなくなった、有観客のライブ。座席が間引かれていない舞台。そこにいられることがうれしかったし、なによりも舞台に立つ人の目に、観客の姿が映ることが、誰もいない座席を見ないで済んで、よかった、と思った。

そういう感情を、光景を、本当にただの主観でしかないのだけれどかたちにして、覚えていられたらいいと思って、ひとつずつ歌を作ったし、ひとつの連作にまとめていった。不器用なところばかりだけれど、あるかたちに出来たことが今はうれしい。