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短歌と感想ほかまとめ

log:202007 短歌

剥がれてたネイルを落とす今週も知らないうちに傷ついている

ポケットがあってよかった繋げない指に行き場を与えてやれる

あの家に咲いてる花って覚えてて名前を呼ぶことだってできない

日曜が終わってしまうむなしさを飼いならせずに大人になった

灰色に染まる夕方五時すぎの部屋に年中暮らしていたい

照明がなくても明るい夕方の部屋をいっとう愛して暮らす

この年のはじめての桃ゆっくりとかじればあまく喉が潤う

きれいごとばかりの舌を落としてもまだ何事かつぶやいている

ひとのことばかり気にするひとの手のささくればかり気になって見る

イヤフォンで流し聴いてる邦楽のサビに合わせてまばたきをする

ならないで夜にはぜったいならないで土曜十八時(ろくじ)のままでいさせて

もう帰る、って聞かずにときどき盗み見たエンドロールに照らされる頬

わからないことでもわかった顔をしてそうだよねって笑う残酷

今度行こ、と言われて半端にうなずいたきみの今度にぼくはいますか

光ってるものと、鳥と、ケーキと、と並べてもらい光を選ぶ

この先はもう行かれない終点で線路の先の空白を見る

出よっかと言いそびれては何回もぬるいビールをあおったトリキ

終わっちゃうことが怖くて買うものも見つからないままセブンに入る

夜十時すぎのサイゼに暮らしたいぬるい紅茶をつぎ足しながら

裏返しになってる下着の直しかたすらわからなくなってしまった

ぴかぴかのショートケーキのままでなら誰でも愛してくれたはずです

歯が痛いあまさのケーキを渡されるだから嫌いだこのひとなんて

特別をわけてもらっている実感としての苺にフォークを立てる

特別としての実感いらないとあなたがくれた苺を食べる

気付かれることが突然こわくなる黒目の中の影が手を振る

人肌の温度でまぶたを撫でてゆく何でも知ってるひとのまなざし

どこまでを許してくれるかわからずに指を伸ばしてすぐ引っ込める

腰と背のさかいを撫でてゆく指の三十七度近い体温

思うよりあなたは熱いカウンター席ではじめて体温を知る

つながったままの電話の向こうからちょっと寝てたと白状される

もう切るよと言えば終わるとわかってて薄い話題を交互に探す

ふれたならすぐに気付いて目を伏せるそういうひとが嫌いですきだ

恋人と呼ばれるものでなくていい名前はつけず指を絡める

ともだちと恋人を足して二で割ったふたりのままで指を絡める

祈ること、信じて指を組むことも許可されてます どうぞ自由に‬

濡れたって構いやしないまばたきの向こうに揺れる雨を見ている

身のうちに眠ることばに呼びかける今起きてくれそばにいてくれ

道端に咲いてた花の湿っぽいにおいのハンドクリームを塗る

まるまった指の行き場を見つけたらこっそり僕に教えてほしい

雨粒は思うよりいつも冷たくて肌に染み込むこともないまま

これくらい何で上手にできないの ごめんなさいは上手く言えます

申し訳ないです大変恐縮です噛まずに言える言葉が増える

いいものをいいと言えないまずしさを今更どこに捨てられようか

I'm tired. いびきをかいて眠りだすおもちゃに交替を申し出る

「その帽子いいね」に返事はしないけどご飯のときも被ったまんま

おみやげをあげるからねと笑ってる声がちょっぴり得意げだった

もういいかい、に早く来てって返事した負けてしまって構わなかった

あの家に咲く花の名を不意に知る凌霄花うまく読めない

かたわらをフォークリフトが過ぎてゆく大抵いつも追い抜かされる

泣きながら見てた夜道の街灯がきれいで写真に残したかった

痛みとかわからなくって生傷もふつうに素手で触ってしまう

にぶってるふりをしてればやり過ごすことが上手になる気がしてた

道端にこぼれ落ちてる花びらに泥がついてて拾いそこねた

好きですと言い合っている午前二時やけに明るい嘘ばっかりだ

それなりに笑うことさえとちっててだからわたしはひとになれない

好きだって一度言ったら何年もそればかり買う母というひと