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短歌と感想ほかまとめ

log:202208 アイドル短歌

20220803
Snow Man「なんだこれ!?」

人間のにおいがしてる 供された料理へ伸ばす箸の絢爛
絡ませた小指はどこに消えたのか生憎これはおれの血じゃない
重たげに瞬くネオン現世でもっとも明るい夜へようこそ


20220804
Snow ManJUICY」MV

円卓についたぼくらが平らげてゆくのはこの世にあるものすべて
物騒なこともしたいね(なんて、うそ)かろやかに吹く夜の口笛
目の前で踊ってあげる その代わり何が欲しいか言ってごらんよ


20220805
J31Gate「童話」提出作

Snow Man 深澤辰哉
だいじょうぶ、だいじょうぶって繰り返すきみの声ごと抱きしめている

林明子「こんとあき」より
童話というお題に対して少し広い括りというか、子ども向けのお話、絵本、という範疇で作っているので、出すかどうか最後まで悩んでいた。ただこのお話は、創作する上でかなり影響を受けているものなので、折角なら、と思って提出することに。
不安なときも、心細いときも、こんが繰り返し伝えてくれる「だいじょうぶ、だいじょうぶ」という言葉を、この人も今までに何度となく口にしてきただろうという思いと、この人にも伝える誰かがいてほしい、いるはずだ、という祈りを込めて。



Snow Man ラウール
赤い靴履いてる僕をかみさまが咎めたとして踏んだステップ

アンデルセン「赤い靴」より
小さい頃に読んだ中でもかなり印象に残っているのがこの物語。ひたすらに恐ろしく感じる内容だったけれど、どうしようもなく惹かれるところもあり、何度も読み返していた覚えがある。
物語の解釈からは離れてしまうけれど、滝沢歌舞伎ZEROの「Maybe」で見た赤い靴と、何かに突き動かされるようにして踊る彼の姿は、自然と思い浮かんだ。彼の足や全身は、物語で描かれたものとは違い、自らの意志で動かされているものだけれど、人の目を奪い惹きつける、という部分ではどことなく重なるのかもしれない。



関ジャニ∞(人魚姫/未提出)
砕かれた月に見惚れる人間のそばから消えたきみは正しい


202208‪12‬
Snow Man 深澤辰哉・阿部亮平
‪入所18周年‬
2020〜2022年分をまとめたもの

ひかりあれ、告げられた日を覚えてる足元の影がやけに濃かった
板上で生きるあなたへ降り注ぐひかりは遠く夏に生まれた
夏の日のひかりも数多のステージのひかりも瞼に焼きつけ生きる


懸けること決して思考を止めないで進歩することそれが契約
指きりをしよう今日よりよい明日へ痛んだとして足は止めない
絡ませた小指の重さを知っている ここに立ってる僕が最適



20220815
アイドル短歌25のお題 6「声」

きみの顔見て好きだって言えないのピッチもラジオもおんなじだった
やさしいと形容されたこの声ですっかりだめになってほしいよ
ぼくのこと呼んでるひとがいるのならすぐに行くからそこで待ってて


‪20220824‬
アイドル短歌25のお題 22「時」

開演は昼の十二時 おしまいの気配はいつも光に満ちる

アイドル短歌25のお題 ひと揃いはこちらから↓



‪20220827 
アイドル短歌25のお題 3「星」

駅までの道にライブの会場にぼくのカメラの真ん中に星


20220828
Snow Man 深澤辰哉
GINZA(習作)

まだ少し今日は暑いね 笑いつつきみはいつでもおんなじ熱で
何も身にまとわなくとも仄白くうちから滲むきみの心音
この生地が守りたがりで怖がりなきみを包んでくれますように


20220830
Snow Man ラウール
TGC オリジナルビジュアル「新生」

よく見てて。僕が自ら殻を割り、はじめに何を知るかも決める。
頚椎を伝った先にあるはずの尻尾は昔に置いてきちゃった。
新しく生まれるのなら羽が欲しい。丁度ここなら場所が空いてる。

「アイドル短歌25のお題」の振り返り

#アイドル短歌25のお題 をひと通り作り終わったので、ゆるゆると解説というかメモ書き。



お借りしたお題について詳しくはこちら↓



今回は「あるアイドルの話」という大きなテーマのもと、5首1セットとして不定期に更新していき、最終的に25首完成させる、というかたちで取り組んだ。
この形式にしたのは、正直に言うと、「25首でひとつの連作をはじめから作ろうとすると永遠に仕上がらなさそうだった」ということが大きい。自分の集中力のなさは自分が一番よく知っている。
無理なく取り組めるかたちで、でも1首ずつ完全にバラバラよりはある程度まとまりがあるものを作りたい、というめちゃくちゃな気持ちが合わさった結果、ひとつのテーマに沿って数首ずつ作って更新していけば、ある程度は統一感も出るし、作り続けるモチベーションも保てていいのでは? というところに行き着いた。

テーマを「あるアイドルの話」にしたのは、後述する1首を作ったことがきっかけになっている。
加えて、ある程度広がりを持って作るほうが楽しくできるかなと思った。アイドルを特定のひとりにしてもよかった(し、それでもやってみたい)が、はじめに作るには、その時々でイメージする人物像を変えられるほうがいいような気がした。読み手側にも自由に想像してもらいやすいかな、と思ったのもある。
また、おそらく特定のひとり(=自担、推し)に沿わせて作る方が多いかな? とも思ったので、あまり被らなそうな方向性として、このテーマに決定した。

ちなみに、「数首ずつ」という単位についても悩んで、その時々で変えようか(5首のときもあれば3首のときもある、など)とも思ったが、結局はわかりやすさ・やりやすさ重視で5首ずつに統一した。結果、すっきりしてよかったかなと思う。
ただ5首単位だとツイート本文には入りきらないので、ALTを活用しつつ、3首特に選んで載せる、とこれも統一した。ちなみに選びかたは完全にフィーリングというか、この中だと個人的にこれが好きだな、くらいの感覚。

以下、各首のかんたんな解説というか振り返り。
5首1セットにしていたので、その単位でのテーマもあわせて。


1)あるアイドル①
「あるアイドル」ってどんな人? というテーマ。まず何となくでも人となりや立場をイメージしてもらえるといいな、と思って作ったもの。個人的にはなんとなくJr.もしくはいろんな人のJr.時代を想定していた。

1「担当」または「推し」→「担当」
この人はおれが好きって信じてもいいらしくってやけにまぶしい
・・・
「担当」についてファンの視点から詠むのがなかなか難しく、いっそ「担当」されている側からの方が作れるかも、と思ってやってみたら楽しくできた。
また、この短歌ができたことで25首全体のテーマを「あるアイドルの話」にすることを思いついた。

2「魔法」
かけられた魔法はひみつ、指先の鳴らしかたなら教えてあげる
・・・
アイドルの皆さんって大体指パッチンができるなあと思っていて、あれはいつどこで習得するんだろう……という気持ちから。また、アイドル自身からすると、魔法は「かけられた」ものでもあるかなと思って。

3「星」
燃え尽きていくための生かわいそうなんて言われる筋合いはない
・・・
アイドルを星に例えることが多々あるが、星はいずれ燃え尽きるものと考えるとなかなか残酷だなと思った。さらに、残酷だと思うこと自体が傲慢なのでは…と思ってしまったところから。

4「花」
枯らしたらごめんと思う わかってて花瓶をずっと買い損ねてる
・・・
職業柄、花束をもらうことはあるけど部屋に花瓶がない…というような話を雑誌で読んだ覚えがあったので(どなたのお話だったか失念してしまったけど、おそらくドル誌)
花束についてはカン・ハンナさんの「六畳に困る大きな花束は洗面台で満開を待つ」という短歌がとても好きで、これも頭の中にあった。

5「手紙」
ひらいたら崩れてしまう夢を見て宛名の文字を指でなぞった
・・・
ファンレターについて。「ひらいたら崩れ」るのは、学生時代に図書館学の講義で、様々な記録媒体(CD-R、USB等)があるが紙はとにかく長く残る、新聞紙なども開くと崩れるので触れないが、そのまま保管はできる、そこにあるということは残る、といった話を聞いたことを思い出して。




2)あるアイドル②
「あるアイドル」ってどんな人? というテーマ、もう少し深掘り。たとえばグループ、たとえば舞台班、たとえば…と想像できるようなものにしたかった。

6「声」
思うのと違く聞こえるこの声がきみの知ってるぼくになってく
・・・
電話や録音音声を聞くと自分の声って全然違って聞こえるな、というところから。たとえばYouTube、TV、ラジオ、CDと様々な媒体に記録された自分の音声を聞いたとき、はじめは誰だこれ、と思うんじゃないかなと考えた。

7「神様」
神様の不在に気付く 手のひらを合わせる癖は今も抜けない
・・・
芸能人が活動していくにあたって、ある程度運とかツキも関わってくるよね、なんだか間が悪いところにばかり当たるってこともあるし…というような話を友人としていたのを思い出して。自分には神様がついていてくれるのかどうか考える人の話。

8「演」
演技とはいっとき自分をやめられる合法的な手段のひとつ
・・・
アイドルでなくてもある程度外向きの顔というのは持っていると思うが、アイドルはそれが顕著だと思っていて、演技をすることでアイドルという自分から離れられることもあるのかなと考えていた。

9「少年」または「少女」→「少年」
真っ当で賢く強い少年でいてくれ、だって おれもよく言う
・・・
共演をきっかけとした後輩との交流や、何かしら指導する場面などをイメージして。

10「憧れ」
間違えたときに胃が浮く感覚をほとんどもたずに生きてけるひと
・・・
メンタルの強さ、の話は雑誌などでも聞くなあと思って。一応「あるアイドル」としてはあるものの、この短歌は自分の好きなタイプが反映されているなあと思う。




3)あるアイドル③
「あるアイドル」ってどんな人? というテーマ、よりパーソナルな方向へ。ちょっと自分の好きなタイプに寄ってるかも。

11「諦め」
はじめから欲しくなかったふりをするそのうち本当になる気がしてる
・・・
諦めるのが上手い、というか、諦めたことを周りに悟らせない、もしくはなんとなくわかってもどうにも手出しできないように上手く振る舞う人っているよなと思って。

12「甘い」
お砂糖とミルクはご入用ですか、声音はこれで適切ですか
・・・
「声」とも被るかなと思ったものの、甘い声、というものがとても好きなのでそのまま素直に作った。なんとなく上句と下句のバランスが気に入っている。

13「痛み」
痛かったときは右手を上げるから平気だよって軽く笑った
・・・
平気だよって笑うくせ絶対痛くてもこの人は右手を上げないな…と作りながら思った。そういう人が好きです。完全に自分の好みなので解説にすらならない。

14「夜」
終電がなくても家には帰りつく 夜とも呼べない隙間に眠る
・・・
アイドルの皆さん、めちゃくちゃなスケジュールで動いてるときあるな…という気持ちから。体は大切にしてほしい。

15「キス」
好きじゃない人としたって表向きいつものキスに見えてるらしい
・・・
キスシーンに限らずではあるが、演技をしたときに、その人の経験による部分(無意識、自然とそうなった動き)と、完全に演技している部分(その人自身はしないけど役としてはそうする動き)と両方あると思うが、見る側は実際のところ判断がつかない。そこをすべて前者として見られるとしたらかなり嫌な気持ちになるのでは…と思って。




4)シンメ、グループ
「あるアイドル」のシンメやグループのメンバーについて。「あるアイドル」自身でも、シンメやメンバーでも、どちらの視点でも読めるようなものにしたかった。

16「鏡」
対称の位置にいたひと似てはないくせに言いたいことはわかった
・・・
シンメのイメージ。はじめは相手のこともよくわからないし何か違うタイプかなと思ってるけど、一部どうしようもなくわかるところがあるとか、そういうかんじかなと。

17「名前」
呼ばれても自分じゃないと思ってたぼくたちにつく新たな名前
・・・
これはグループの話。グループがどう出来るか、というのは本人たちの意思だけによらない部分もあるのだと思う。そういった面を書きたかった。

18「手」
いつだって平気な顔で冷えきった手指を隠す腕を掴んだ
・・・
「あるアイドル」をシンメやメンバーが見ると、という短歌。これも自分の好みが如実に出ている。

19「走る」
後ろから怪物が来るおれのこと飲み込む前に走って、走れ
・・・
シンメにしろグループにしろ、一緒に走るって表現を結構するよなあ、と思ったところから。これはわりと「あるアイドル」視点寄り。

20「旅」
もうずっときみが大事で帰れない旅へ一緒に出たっていいよ
・・・
グループを組んで活動している人たちは人生のほとんどをそのメンバーと過ごすことが多く、自分の家族よりもメンバーと過ごした時間の方が長い、というような話から。




5)ファン
「あるアイドル」のファンについて。これも4と同じく「あるアイドル」自身とファンどちらの視点でも読めるようなものにしたかった…が、結局ファン視点にかなり寄った。

21「ライト」
新しい電池に換える永遠に輝くものはないとしたって
・・・
ペンライトを使っていくうちに電池が消耗して、段々色がはっきりつかなくなるのをこの夏経験したところから。いつか終わるとしても出来る限りのことはしたいという話。

22「時」
コンマ1あればよかった瞬きで世界がきみのものになるまで
・・・
かなりファン視点。ライブでも円盤でも、あ、ここ、と印象に残る部分って、振り返ってみると本当に一瞬だったりするなあと思って。

23「メンバーカラー」または「色」→「メンバーカラー」
果物や空や雑貨の色を見て誰かが浮かぶための条件
・・・
メンカラという文化が本当に好き。ファンだけではなくアイドル自身も、自分のメンカラを普段から意識して身につけたり気付くと周りに集まっていたりする…というところから。

24「さようなら」
さよならと動くあなたの唇のおそらく別れに慣れてるかたち
・・・
18「手」の仲間というか、「あるアイドル」をファンが見ると、という短歌。そのためかなり自分の好みで作ってはいる。

25「アイドル」
この人を好きとわかって照明は姿をかき消すほどにまぶしい
・・・
1「担当」と対になるものにしたかったのでこれはファン視点。ライブなど生でアイドルその人を見て、この人が好きだ、と理解する場面を書きたかった。ライブや舞台の強い照明もかなり好き。


log:202207 短歌

0707
息を吸うキスはしたことないと言う誰かを惑わす手段はわかる

くるまった真綿は君のかぶってたベールと同じかいっそう白い


0708
誠実とまさか自分じゃ言えないがせいぜい爪は短く保つ


0709
唇にふれてもきみの体温はぼくより低く保たれている


0710
嘘をつくときの心拍すきだってあなたに告げたときと重なる


0713
まなじりにほんとの熱がちらついて息ができなくなってほしいよ


0714
唇の甘さはいつも塗っているリップの味で本物じゃない


0716
いまひとつ盛り上がらないキスをして三割引きの弁当を買う

連作「唇は嘘をつく」
嘘をつくときの心拍すきだってあなたに告げたときと重なる
口づけはこれがはじめて 指先で肌をかすめる種類のものは
くちびるに触れてもきみの体温はぼくより低く保たれている
まなじりにほんとの熱がちらついて息ができなくなってほしいよ
いまひとつ盛り上がらないキスをして三割引きの弁当を買う
ばいばいの声を聞かずにすむように互いの口を軽く合わせた
嘘なんてついていません黙ってることがあるのも誓って本当



‪0717 7月コミュニティ題詠「花火」‬
‪歩道橋のぼって遠くのビル越しに大きく欠けた花火を見てる‬
‪これまででいちばん大きく美しい花火がぼくらの終わりの合図‬
‪息絶えた手持ち花火の声がするバケツの水はくろぐろとして‬


‪0719 7月コミュニティ題詠「熱」‬
何だっていいからだめになってくれ撫でてたはずの肌は爛れる
平熱がぼくより低い人といてどっちがどっちか見失いたい
こんな顔見ないでなんてぐずってる声に絡めた舌はとろけて

‪1500Wで2分半きみにかける言葉を探しきれない‬


‪0724 7月コミュニティ題詠「熱」‬
傾けた首の角度がもつ意味を知っているならぼくに教えて
指の背で撫でてく頬が熱いのは夏だからってだけじゃなかった
伏せられた瞼に淡く歯を立てるきみにだったら暴かれていい

log:202207 アイドル短歌

20220702
Snow Man「僕に大切にされてね。」

唇のかたちも熱もわかるのにきみの声だけ聞こえなかった
控えめに搦めとられた指先が夜ごとに僕をおろかしくする
瞳なら塞いであげる 大切にするやりかたを他に知らない



20220705
Snow Man 佐久間大介
お誕生日おめでとうございます!

暗がりにいたならこの目で全身で語れるなんて気づけなかった
好きなもの知ってほしくて弾んでるきみの色づく頬は桃色
少年誌・深夜アニメもおれたちも誰かのよすが 息を吸い込む



2022‪0707‬
Snow Man 深澤辰哉
TVガイド7/15号の印象

口づけはこれがはじめて 指先で肌をかすめる種類のものは
華やかなパールは無情口づけたぼくのことさえすぐに忘れる
息を吸うキスはしたことないと言う誰かを惑わす手段はわかる
嘘なんてついていません言ってないことがあるのも誓って本当


20220708
ばいばいの声を聞かずにすむように互いの口をかるく合わせた


20220714
その人はとっくに誰かの特別で誰のものにもなってくれない


2022‪0719‬
終わっちゃうものから視線をそらさずに抱きしめたなら 何ならよかった

‪18祭‬
‪呼ぶ声がここにないだけやわらかくなった手指をきみは知らない‬
‪手放しで泣いたあの日のさよならを忘れちゃえればよかった夏の‬
こんなのはぼくの勝手でだけどまだ終わんないでと願わせててよ


20220721 
題:不在

寝て起きて食べて笑って呼吸って今までどこでしてたんだっけ
呼びかける前に気づいて唇をどうにかつぐむ おれのへたくそ
大抵はやり過ごせてもこれだけは慣れないでいるあなたの不在

「みんなで相互題詠」の振り返り

6月、Twitter上での企画「みんなで相互題詠」に参加しました。
参加者がそれぞれ出したお題をランダムに振り分け、自分以外の参加者によるお題をひとりひとつ受け取って、それを元に短歌を作る、というものです。
相互題詠に興味はあれど、お題を渡す相手のことや作風をお互いある程度知っていることが前提になるものかなと思っていて、相手を探したり頼んだりする段階で足踏みしてしまっていました(もちろん、いい機会と捉えてそこを超えていく楽しさもあるのは分かっているのですが)。
それに対して、「みんなで相互題詠」はそういったハードルがないため、こういうものを作ってほしい/作りたい、といったシンプルな動機で、お題を渡せる/受け取れるのが、個人的にはとてもうれしかったです。


わたしが出したお題は「最後の晩餐」でした。これに対する短歌連作が本当にすてきで、参加してよかった…!と噛みしめていました。
自分だったらどうやって作るかな? こんなかんじの短歌が出てくるかな? ということはある程度考えてお題を出したのですが、想像を超えていました。自分では思いつかないようなものを作ってみせてもらえることって、かなり貴重だなあと強く思います。
他の参加者のかたの作品も拝見して、お題の多様さや、発想の広げ方にも刺激を受けました。また、連作をどう作るか(どんな構成にするか)といった点でも、さまざまな作品を見られたので参考になり、よかったなあと思っています。


自分が受け取ったお題からも、楽しく短歌連作を作ることができました。
お題は「沈む」。作ったものは下記になります。

沈まずにいてよ太陽あの人の影とこっそり手をつないでる
沈みたい? 尋ねるずるさを愛してた答えはとうに知ってるくせに
沈むなら一緒がいいねどう見てもふたりのせいとわかりやすくて
沈めても華奢な体は なくていい来世は風呂場の黄色いおもちゃ
沈もうとする太陽にもう二度とのぼってくるなと言い置いて幕



とても楽しく作れたので、解説というか、どんなことを考えながら作ったか? という話を書いてみることにします。裏話的なもの、読む人がいるかどうかは別として、書くのはとても好きなので……
ただ、作るときに考えていたこと、イメージしていたもの、として書いてはいますが、そう読まなければならない、という訳ではありません。短歌を読んでどう感じるか、何をイメージするかは、読まれたかたの自由です。




1)はじまり

「沈む」というお題をお知らせいただいた時点で、ああすごく好きなモチーフが届いたな、と思っていた。短歌に限らず創作において、どちらかというと少し薄暗いような、何か引っかかるようなモチーフを繰り返し書いている。
自分でいうのもおかしいかもしれないが、わりと自分の作るものに馴染むのではないかという予想と、そう感じたからには、できる限りお題を活かせたらいいな、と思った。

「沈む」という言葉からはじめにぱっとイメージしたのは
・水に沈む場面
・オフィーリアの絵
・クリームソーダ。飲みものの中に沈むさくらん
・気持ちが沈む。つらい、かなしい
……といったもの。まったく捻ってもいない、言葉からの印象のみ。
この中だといちばんどれが書きたいか? と考えたときに、ベタではあるものの、やっぱり水に沈むところかな……とかなり初めの頃から考えていた。

すごく好きなモチーフが来ているので、いっそのこと自分の好みにぐっと寄ったものを作ろう、と思ったのもこのあたり。変にこねくり回すより、好きなものをそのままストレートに作ることにした。
自分の好きなもの、で考えると、テーマを「心中」にすることはあっさり決まった。水の中に沈むイメージとも重なる。
心中というか、さらに正確に言うのなら、実際にはいろんなしがらみに気を取られて、自分と相手のことだけじゃなくて、他にも大切なものがありすぎて、結局ふたりして冷静さを捨てきれずに、心中しに行くけど帰ってきてしまう、というような関係が好き。
その行為そのものより、そうしたいと思ったのは同じだったんだけど、実際にはそうもならなくて、できなかったってことを同じように抱えて、なかったことにもしないで、たまに思い返したりしながら生きていくままならなさ、を書けたらなあと思って、創作の中で繰り返し書いている。
なので、今回もそういった関係、ふたりの話、にしてみることにした。

2)構成

構成についてもはじめのうちにある程度固めていた。
「沈む」というお題がとにかくツボなので、それがわかりやすいものがいい。また、企画参加するにあたって、不特定多数の人の目にふれる可能性が普段より上がる。そのため、まずパッと見てインパクトのあるものがいいかな、とも思った。
そうすると、「沈む」という語をそのまま詠み込んだものは確実に入れたい。連作なので3〜5首は少なくとも作るとして、1首目にするか、もしくは真ん中に置くか、どちらかにする。奇数で組めば真ん中の1首は必ずできるので、連作全体で何首作るかはあとから決めてもいい。

「沈む」という語をだんだん上句から下句へスライドしていくこともかなり初めの方で思っていた。5首くらい並べたら視覚的にわかりやすいかなと考えたのが、下記のイメージ。
沈む・・・/7/5/7/5
5/沈む・・・・・/5/7/7
5/7/沈む・・・/7/7

ただこれをやるとしたら、字数を揃えたり画像加工のときに工夫しないと何がやりたかったのか伝わりにくいだろうな、と思って、すぐに考えるのをやめた。その場所に「沈む」を入れることに気を取られて中身がおざなりになるのもよくないし……

その次に思ったのが、すべての短歌のはじめに「沈む」を持ってくること。5首くらい並べたら圧が強くていいかなと考えた。これが完成形の元になっている。
とはいえ、「沈む〜」で5首作ると考えたときに、バリエーションを出せるか? ということと、元から書こうとしている心中というテーマを出しきれるか? ということを考えて、すべて「沈む」から始まる短歌にするのは難しいかな……という判断になった。
ただ、「沈」の字がずらっと並ぶのはよさそうだったので、少しずつ変化させていくのはどうだろう? とさらに考える。「沈む」を真ん中に置いて、沈まない・沈み・沈む・沈め・沈もう、と言葉を変えて並べてみた。
「沈まない」から始まって「沈もう」に落ち着くのも、ひとつの物語の終わりっぽくなるのでいいかな、ということで、構成はこれに決定。
あわせて短歌の数も5首に決定。3首だとテーマを表現しきれないかなとも思っていたので、ここの数はあまり悩まなかった。

3)短歌を作る

以下、実際に作った順番で書いていきます。作ったときに考えていたことやイメージしていたものなど。
作った順番は
3首目→2首目→1首目→4首目→5首目
でした。

3首目:沈むなら一緒がいいねどう見てもふたりのせいとわかりやすくて

・構成の時点で、5首すべて最初にくる単語を決めてしまったので、そこは動かさない。5首を使って、どう物語が伝わるようにするか? 1首ごとに何を書くか? 1〜5首のうちどこから作るか? と考えて、まず真ん中にくる「沈む」の短歌から作ることにした。やっぱりこの短歌がいちばんの核になるところなので、ここが決まらないと他も組み立てられない。
・心中、どういう心中にするか? と考えて、ぱっと浮かんだのが、入水だった。「沈む」イメージとしてはストレートな連想だと思う。心中といっても、たとえばひとりがもうひとりを刺すとか、首を絞めるとか、そういうものではなくて、あくまでふたりで選んだこととしてわかりやすいもの、としても入水はいいかなという感覚もあった。
・短歌の作りとしては、上記のようなイメージ、感覚、をそのまま言葉にしたかんじだな〜と今振り返ってみると思う。わりとわかりやすい作り。

2首目:沈みたい? 尋ねるずるさを愛してた答えはとうに知ってるくせに

・5首のうち真ん中(3首目)が「ふたり」の短歌なので、ここを境にして、1〜2首目/4〜5首目それぞれの別の視点で作ることにした。誰かふたりの話、関係性、を短歌にするときに、それぞれの視点を織り交ぜることも結構多い。その方が読む側にも伝えられるものが多くなるかな? と思っているのと、単純に作っていて楽しいので。
・どういうふたりなんだろう? と思ったときに、このあたりは手癖でよくないなと感じるけれど、完全に自分の好みが出た。ずるさがある人物はよく書きたくなる。沈みたい、と聞いてくるの、いやだな、と個人的には思う。でもそういう部分にどうしても惹かれている人として書いた。
・あまり短歌の中に「?」などは入れないようにしているけれど、今回は入れないとまったく意味が通じなくなりそうだったので思い切って入れた。台詞だということがわかりやすく、物語らしさが伝わるからいいか、とも思っていた。

1首目:沈まずにいてよ太陽あの人の影とこっそり手をつないでる

・ずるい人は書けたので、その相手がどういう人物かを考える。それと、そもそも心中するに至った背景。ベタな話ではあるけれど、あまり周りに受け入れられていない関係であるとか、どうしても実らない感情なのかな、というイメージ。
・受け入れられない、実らない、というところから、なるべく周りに気付かれないように、でも寄り添ってはいたい、という姿を思い浮かべる。近くにはいるけど直接は触れられない、と考えたときに、足元に伸びる影を見て、そこでだけ手を繋ごうとする情景が出てきた。
・影があるということは光源もある。沈むものといえば太陽で、これもかなりベタな発想ではあるものの、その分わかりやすさはあるかと思う。5首あるので、1首目と5首目に太陽の話を持ってきて対にしたらいいか、とここで決まる。
・はじめのうち「沈まない」という語に縛られていて、すぐには思いつかなかったものの、「沈まずにいてよ」が出たらそのあとはさらさら書けた。

4首目:沈めても華奢な体は なくていい来世は風呂場の黄色いおもちゃ

・1〜3首目と5首目の方針が決まったので、4首目もそれに合わせることに。3首目が核になって、1首目と5首目が対の構成なので、2首目と4首目も対にして作る。2首目に出てきた「ずるい人」の視点。
・1〜5首の間に物語を進めたいので、その方向も考える。1首目:太陽に沈まないでいてくれと願う→2首目:心中することを決める→3首目:心中→4首目でどう展開するか? と考えたとき、心中できる方向にいくか、できない方向にいくか、で、できない方向をとった。前述のとおり「心中しに行くけど帰ってきてしまう」方が好きなので。
・できない、というより、片方が亡くなってしまって片方が残されるでもいいのか? と思いつく。そうすると、沈もうとするのに上手くいかない情景を書いたらいいかもしれない……と考えて、片方が片方を沈めにかかるところを切り取ることにした。3首目で「ふたりで選んだこと」を書いているのに結局そうなっていない絶望感もあるかなと。
・「なくていい〜」から先がなかなか出てこなくて苦しんだ思い出。黄色いアヒルのおもちゃをふっと思いついて、そこからどうにか作れた。

5首目:沈もうとする太陽にもう二度とのぼってくるなと言い置いて幕

・1首目の対にすることと、太陽の話にすることは決まっていたものの、まったくイメージが膨らまず苦戦した。4首目もなかなか完成しなかったので、この2首はほぼ並行して作っていた。
・1〜4首目までで、心中しようとしたものの失敗に終わった流れにはなっている。失敗、だめになったこと、願ったけど叶わなかったもの、と考えて、1首目の「沈まずにいて」から「沈もうとする」太陽へ繋げることにした。結局沈んでいく太陽。
・1首目が太陽に語りかける形式だったので、この短歌でも同じようにするとしたら、何と声をかけるか考えてみる。そのときに、本当は心中したかった→明日が来なくていいと思っていた、という風に連想。明日が来ないということは太陽ものぼらないのでは、と考えて、どうせ沈んでしまったのなら、もうずっと沈んだままでいてくれと願う人を書くことに。口調も1首目と比較して強いものにした。
・「幕」とすることで、このふたりの物語も終わりになるし、そもそもここで語られていたもの自体が何かの舞台上のものだった……という風にもなるかな? というイメージだった(すべて創作です、というような)


……と、かなりざっくりではありますが、こういった考えで作っていました。それにしても心中心中書きすぎてちょっと心配。全部創作の話です。
お題の巡り合わせというか、今回はたまたま自分の好きなテーマに引き寄せやすいものでしたが、そうならない場合もあるはずなので、それはそれで面白いし勉強になるだろうなあと思っています。
本当に楽しい企画でした。参加出来てよかったです、ありがとうございました!
また、改めてふつうの(?)相互題詠もやってみたいなあと思いました。この企画とはまた違ったものになりそう。そういう機会が設けられたらなあと考えています。


もし何かあればお題箱まで↓

log:202206 短歌

‪0601‬ 相互題詠:沈む
沈まずにいてよ太陽あの人の影とこっそり手をつないでる
沈みたい? 尋ねるずるさを愛してた答えはとうに知ってるくせに
沈むなら一緒がいいねどう見てもふたりのせいとわかりやすくて
沈めても華奢な体は なくていい来世は風呂場の黄色いおもちゃ
沈もうとする太陽にもう二度とのぼってくるなと言い置いて幕



0601
こんな顔してたんだっけ 笑ってと言われなくても頬はゆるんで
きみの目にうつったぼくは知っているぼくよりもっといいものだった
焼きつけたあなたをしばらく現像に出さないままに眠らせておく


0604
食べものの好みを告げる気安さでひとに特別なんて言うなよ
あなただけ、なんて言っても簡単にありがとうって手を振るだけだ
お互いに視線は向けているくせに絡まりすぎて先が見えない


0611
まっしろなドロップスだけ舐めている気分の夜だ きみは眠って
「    」と言わないふたりを包んでる遠くの道路交通情報
くっついていないとどこかに飛んでってしまうあなたと手首を結ぶ


0611 てなもんや三文オペラ
あいしてた、あいしてたって口にするほどに言葉は砕けてしまう
冥土へと向かう己に餞を お前はきっとおれを忘れる
卒塔婆だと言われた景色を前にして変わらずに鳴るぼくらのお腹


0617 6月コミュニティ題詠:迷路
右の手は壁に預けててもいいよ空いた片手はぼくにおくれよ
できるだけふたりぼっちでいたくって出口は見ないふりをしている
迷ってて出られないって正当な理由を述べてさよなら世界


0624 6月コミュニティ題詠:傘
置き傘とおんなじくらい軽んじておんなじくらい救われていて
自治体の指示にしたがい家にあるあなたの傘を正しく捨てる
泣きたくて泣いてるきみはコンビニのビニール傘を決して買わない

(以下ちょっと蛇足)
置き傘にするのって、普段は使わないからいいやってものが多いかなと思っていて、でもあることで助かるのも本当、というのが1首め
気付くと溜まっていく傘、処分しようとすると案外捨てにくい(不燃ゴミでいいのか?)でももう持っていたくない、というのが2首め
ビニール傘は手軽に買えるけど、だからこそ買わない、自分が欲しいものをちゃんと選んで買う、という人もしくは決意、というのが3首め
ばらばらに読んでもいいし、3首続けて読んだ場合は、あるふたりの物語になるイメージでした
傘を通して見るふたりの別れの話
傘を何かに置き換えるとわかりやすい?かもしれません


0625 6月コミュニティ題詠:写真で一首
人のこと救えるなんて純粋に言ってしまえるところが長所
切れそうな蜘蛛の糸へと手を伸ばすきみとは息の仕方も違う
構っちゃう方が残酷なんだって教えられないあたりが短所

(以下ちょっと蛇足)
1・3首めを普段やらないかんじのにしてみたんだけどイメージはESとか履歴書でした
長所短所はひっくり返すとどっちにもなるみたいなのを思い出し… ある人から見た「きみ」の長所短所であり、もしかしたらある人自身の話かもしれない
写真から作るの、思ってたより難しかったな〜と思う どうイメージするか、膨らますか、ていうところでつまずいたのかも
中心にある光の部分が印象的だったので 周りを照らすものって、いいもののはずだけどどうしても受け入れられないとか、かえって疎ましいみたいなことあるよね というところからこんなかんじになった
(写真は@eclipse_pieniさまより)

log:202206 アイドル短歌

20220607
アイドル短歌題詠:「許す」または「青」

最善で最良である別れなどなかった あなたを嫌うわたしを許す
いやんなるくらいまっすぐ憎んでて、一生ぼくを許さずいてよ


20220608
Snow Man 深澤辰哉
アー写

傷つける言いかたばかり上手くなるきみの涙の味が知りたい
指先の一本ですぐ終わっちゃう世界で食べるオレンジピール


20220609
Snow Man 深澤辰哉
「Feel the light, Lovely」

こわいものなんてないでしょ 気に入りの毛布は雨のにおいがしてる
手をつなぎ夜ふけの道を駆けていくふたりをかき消す光がほしい
本当のことを言います きみとならどこへも行けなくたってよかった



20220611
メンバーカラー

梅雨の花、煙草のけむり、宝石も、気付けばあなたの色を宿して
溶けあってなくなる色を纏わせてここにはいない相手の気配
お月さま、変わる信号、卵焼き、あなたと似てていつもまぶしい
→お月さま、変わる信号、カスタード、あなたが浮かぶ色のまぶしさ


20220616
関ジャニ∞喝采

おまえならできんのにって僕なんかかなわぬきみの呪いは今も
つまづくと知っててさらに踏み込んだ出来損ないを抱きしめてやれ
喝采はたったひとりの手のひらに生まれて波を、おおきな波を


20220621
Snow Man 向井康二
お誕生日おめでとうございます!

今/かつて 瞬くたびに焼きつけたきみだけが知る光のかたち
日向へと色を塗るとき橙をあなたのまとう空気を選ぶ
コンビニのアイスにだって星はありぼくの世界は常にあかるい


アラームの前に目覚めて昨日よりほんのちょびっと胸を張れてる
やなことがあってもパンはちゃんと焼くはちみつ回しかけたらいいよ
次の日が怖くなくなるおまじないそしたらまたねきっと会おうね


20220623
Snow Man
女性セブン

なすすべもなく薄れてく一瞬の姿をシャボン玉に吹き込む
洗剤のにおいをかげば虹色にまみれてた日へすぐに戻れる
柵なんて超えてすべての窓辺へと運ばれていけ消えない光



‪20220627‬
Snow Man ラウール
お誕生日‬おめでとうございます!

数秒は息を忘れてくれていいまたすぐ僕が呼び覚ますから
繰り返し履いてもずっと真っ白な立ちたい場所へ行くための靴
羽を持つものにも成長痛があり次第に高く よりよく強く


ぎこちなく(でもあたたかく)撫でる手は残さずぼくの栄養になる
燃えている星の音ってどんなふう 体ぜんぶで残したかった
よろこびも悔しさだって平らげるいかにもきみはティラノサウルス